「ノノミでしたか。先程から外が騒がしいのですが
何かトラブルでもありましたか?」
「いいえ、いつもの二人が来ているので
その対処をしています」
「そうでしたか」
それだけ確認すると彼はまた作業に戻ってしまう
このまま放っておいても問題はないのではないか
そう感じてしまう程彼は私に無関心な態度を取る
「そういえば今日はホシノに会っていませんね。
彼女は登校していましたか?」
「えっ?ああ、はい。部室でお昼寝してますよ」
「後で顔を見にいくとしましょう。
寝てばかりでは駄目な先輩になってしまいます」
「ホシノ先輩が寝ている姿は癒されるので
全然構いませんけど」
「甘やかしすぎるのはよくありません。
とはいえ息抜きは必要ですので近いうちに皆で
休息を目的とした課外活動を行おうと思います。
ノノミは何処か良い場所を知りませんか?」
「うーん……やはり海が理想ですけど
この時期に行くのは流石に寒すぎるので……
温水プールとかどうでしょうか?」
「どうしても泳ぎたいのですね……
ですが案には入れておきます。確かゲヘナに
温水プールを開発したと変た……マダムが
仰っていたので。ホシノもヒナに会えますし
より楽しめる事でしょう」
「……ええ、そうですね」
「その後は水族館に向かっても良いですね。
ホシノと何度も通っているからか魚の種類は
ほとんど覚えてしまいましたが……」
「………」
「そうでした、今週末に鯨関連のイベントが
アビドス付近の街で開催されるとホシノに伝える
事を忘れていました。後で伝えに……」
彼はホシノホシノと先輩の話ばかりしたがる
ずっと目の前に居る私の事を話してくれない
話を振ってもすぐにホシノが……と言う始末
その度に彼女の心の中にある不思議な感情が
大きく、そして黒く渦巻いていく
この抱いている感情が自分でも分からない
ただ気がつけば彼をソファーに押し倒して
「私を見て」
ただ一言、秘めた想いを彼に伝えた
ホシノが大事なのは分かる
彼にとっても、私達にとっても
だけど……今ここに居るのは私なのだから
ホシノの事を考えるのではなく私と話して
どんな些細な事でもいいから
私に興味を持ってほしい
「先生。私は貴方が好きです」
「……ええ。知っています」
「貴方の為なら何だって出来ます。だから……」
「それは出来ません」
「どうして……ですか?やっぱりホシノ先輩が
好きだからですか……?」
「……いえ、私は生徒に恋愛感情は持ちません」
「………」
「前までの私なら興味がないという理由でした。
しかし今は少し理由が変わっています。
仮に私がホシノを選んだとしましょう。
その場合貴女の心を踏み躙る事になります。
その逆も然りです。ホシノを特別扱いしている
のは事実です。ただしそれを理由として
貴女を悲しませる事が許されるのでしょうか?
片方の生徒を犠牲にして成り立つものなど
教師が認められるわけがありません。
私が答えを出さない事で二人が悲しむ事はない
心が壊れてしまう事もない
ならばそれで良いと思いませんか?」
「……そんなの駄目ですよ。答えを出さないと。
だって……期待しちゃうじゃないですか。
そうやって先生が選択する事から逃げて……
私はこんなにも胸が張り裂けそうなくらいの
想いを抱えて過ごしているんですよ……?
だからお願いします……私の夢を……
貴方と恋仲になる妄想を砕いてください。
これ以上期待してしまわないように……
私が暴走してしまう前に諦めさせてください……」
黒服の上に跨ったノノミは顔を手で覆い
隙間から大粒の涙が溢れているのが見える
自分が選択した結果彼女がこんなにも
悲しみに満ちていると知った黒服は
ただ彼女の嗚咽を傍観する事しか出来ない
……彼にノノミを慰める資格など無いのだから
十六夜の秘めた傷心