「それでミレニアムまで飛ばされてきたんだな」
「ええ。散々な目に遭いましたよ」
ミレニアム近辺にある花屋兼喫茶店
そこで二人の大人は愚痴りながら酒……
はあまり好みではないので紅茶を飲んでいる
「だが生徒に好かれているのは羨ましいな。
私のような教師にはそのような色恋は全く
起こり得ないからな」
「そうですか」
「気を遣って私を好きと言ってくれる生徒は
何人も居るのだが……」
「………」
黒服はこう思う。こいつは何を言ってるのかと
店の外を見てみろ。何十人もの生徒がこちらを見て
様子を伺っているではないか。しかも九割が
トリニティの生徒だ。あれは何なのだろうか
なんなら貴方の足に尻尾を巻きつけた白猫が
隣に座っている事に気づいてくれ
貴方の方を見るたびに目が合うのがきつい
「しばらくはミレニアムに滞在していいぞ。
お前に会いたがっている生徒も居るからな」
「そうさせてもらいますよ。ですが朝には
一度アビドスに戻ってホシノの朝食を用意
しなければなりません」
「お前がホシノの朝食を?何かの罰ゲームか?」
「いえ日課です。ホシノの健康面を考慮して
必要な栄養を効率よく摂取させなければ。
それと六時にはモーニングコールを……」
「……なあ黒服、お前本当はホシノの事が
大好きなんだろう?正直に言ってみろ」
「いえ、あくまで教師と生徒の関係ですが」
マエストロは思う。こいつは何を言っているのか
普通教師がわざわざモーニングコールや朝食を用意
するか?しないぞ?なんだこいつは?
馬鹿なのか?馬鹿で済ませていいのか?
普段からそんな風に接しているのであれば
無意識のうちに好いているだろう
早く気づけロリコン野郎
「それにもうホシノが私から離れる確率は
ほぼ0に近いです。なのにわざわざ恋人などという
枷をつける必要を感じないんですよね」
「あ、ああ……まあ……教師としては正しいな。
だが生徒の想いには答えるべきではないか?
告白されたのならば返事を待ってもらうとか
色々選択はできたのだろう?」
「それはそうですが……」
「恋というのも案外刺激的かもしれないぞ?
まあ私には縁がないので憶測しか言えんがな」
「(マエストロ……これ以上余計な発言は
控えてくれませんか?白猫の隣にナースまで
現れたんですけど。しかも目が死んでいます)」
「……そう言えばナギサがお前の事をえらく
気に入っていてな。ずっと「黒服先生が……」と
話しているんだ。お前ナギサに何をしたんだ?」
「大した事は……顔を近づけて脅した程度で」
「そうか。……いや、趣味は人それぞれだ。
例えナギサがM気質があったとしても
否定せずに向き合おうじゃないか」
「向き合う……ですか。薄々感じていましたが
私は生徒に向き合えていないのではないかと
思うんです。学ばないといけませんね……」
「ミレニアム生なら付き合ってくれそうだぞ。
何人かには接点があるのだろう?」
「そうですね。ホシノと向き合う為にも
少しばかり向き合い方を勉強します」
「(こいつホシノの事好きすぎだろう。
何故告白を断ったんだろうか?馬鹿か)」
「ちなみにマエストロ、貴方がもし
気を遣ってとかではなく普通に告白されたら
どう答えますか?」
「そうだな……本気で好きだと言われたら
揺らいでしまうだろうな。正直に言うと
私の生徒は全員芸術的で美しい。
そんな生徒達が人生のパートナーになると
考えたら気分が昂揚してしまうのは事実だ。
だかな黒服、普通に告白される可能性はない。
私に春は訪れないのだよ」
外を見ろ外を。後ろでもいい。春の雪崩という
変な単語がよぎるほど訪れている
流石に鈍感にも程があると思う
「さて、そろそろ解散するとしよう。
とはいえ途中まで帰路は同じだけどな」
「そうですね」
二人の大人は席を立ち店を出る
片方の足には尻尾が絡みついているが
全くと言っていいほど気づいていない
片方は生徒の恋心に気づいていながら
自らの感情には無頓着である
鈍感なマエストロ、朴念仁の黒服
二人が生徒の想いに応えられる日は
果たしてやってくるのだろうか