「胸元に余裕が出来るように改良したぞ」
『……先程よりも苦しくないです……
先生、ありがとうございます』
「胸のブローチも外れないようにしておいた。
……胸のな」
『あの……なんで顔を背けているのですか?』
「気にしないでくれ。さて、私は創作意欲を
満たせたので部屋に戻って作業の続きを行う」
『分かりました』
彼の不可解な行動に疑問を抱きながらも部屋まで
見送っているユメとそれを遠巻きにみるアリケイ。
「なんで顔を背けたんでしょう?」
「……あれで意識をし始めたとするのであれば
マエストロ先生の性に対する耐性は限りなく低い
という事になるのかもしれませんね」
「ぱふぱふですか?それとも※※ですか?」
「……まずはモモイを殴りに行きましょう。
知らぬ間にアリスに変な知識を与えすぎなので
一度しばかなければなりません」
『あれ、二人も出かけちゃうの?』
「はい。大丈夫です、すぐに戻りますので」
『そっか。気をつけてね』
ーーー
「………」
作業をする、そう言って部屋に戻った彼は机に
向かっているものの上の空であった。
不可抗力で見てしまったユメの下着と
頬を赤らめた恥じらいの顔が頭から離れない。
何故彼女の胸から目が離せなかったのか、
何故芸術として認識してしまったのか。
その答えは未だ分からない。分からないが……
「ひとまず作業をしないとな……しかし何か
落ち着かないな……この感情はなんだ……?」
今までに経験した事がない感覚に襲われ、
思考がそれの答えを求めようとしている。
それでもその感情の正体を知る事が出来ずに
ただ時間だけが過ぎていった。
「ダメだな……作業も進まず感情の答えも
分からずじまいだ。それに……何故頭から
あの光景が離れないのだ」
答えが出ずに悩み続ける芸術家。彼の脳は
いつの間にか『ユメ』についての事ばかりを
考えるようになっていっていた。その事実に
彼はまだ気づいていない。だが少しずつ、
確実に異常なほど鈍感であった彼の思考は
その答えについて近づいていた。
『先生、15時ですよ。一度休憩にしませんか?』
「あ、ああ。今行く」
唐突に聞こえた彼女の声で飛び跳ねそうになった
心臓を落ち着かせて彼女が待つリビングへ行くと
そこには不恰好な形のチーズケーキが紅茶と共に
机の上に置かれていた。
『時間があったのでレシピを見ながら作って
みました。……歪な形になってしまいましたが』
「……美しいな。食べるのが惜しいくらいだ」
『もう……お世辞はやめてください』
「本心だぞ」
『……貴方は罪深い人ですね』
「そうなのか?」
『ええ』
「お前が言うならその通りなのだろうな。
……紅茶が冷める前に頂くとしようか」
『ご賞味ください』
彼はまだ気づいていない。自身が目の前の女性に
夢中になっている事に。しかし周りからは、
特にアリスとケイには大体察せられていた。
その事実に彼自身が気づく事はあるのだろうか?
テラーちゃんの格好は某アトリエのオディーリアみたいなイメージです