先生と出会って共に行動する……のはいいものの
気づいたら迷い込んでいたと言っていたので道案内
等は期待できないだろう。だが話し相手にはなる。
それにあのシロコの先生なら聞いておきたい事も
幾つかある。だが今はそれよりも……
「先程から地面にある人の形のようなものは一体
何なのだろうか」
「"分からない。けどあんまりいい気分にならない
から見たくないかもしれない"」
「同感だ。ところで気がついたら彷徨っていたと
言っていたが私以外に人を見かけたりしたのか?」
「"えっマエストロって人だったの?"」
「すまない今はふざけている場合ではないんだ」
「"あっごめん。そうだなぁ……少なくとも話せる
ような人とは出会ってない、かな"」
「話せないような奴らが居るのか?」
「"そうなんだよ。黒くて幽霊みたいな奴"」
「……それはあの傘のようなものだろうか」
視界の先に居るのはまるで物語の中に出てくる
化け傘のような生命体。一つ目のそいつは
この世のものではないようにも見えた。
「"あーそうそう。あんな感じ。……あれ、あいつ
こっちを見てるような気がする"」
「あれが黄昏の眷属なのか……? いや、考える
のは後にしよう。今は離れるのが吉だ」
「"もしかして戦える手段がないの!?"」
「あるにはある。だが温存しておくに越した事は
ない。このような異質な場所では尚更な。
という訳だ、走って逃げよう」
「"それってゲマトリアの技術とか?"」
「いいや、これはそんなものじゃない。もっと価値
のあるものだ」
「"マエストロってそんな性格だったっけ……?
もっと芸術が〜とか言ってたような?"」
「細かい事を気にしていたらもっと禿げるぞ」
「"禿げてないわ失礼な"」
こいつ案外揶揄うと面白いな。おっといけない、
つい気を緩めてしまっていた。だがこうしている
間に逃げ切れたようだな。
「……で、ここは何処だ?」
「"さあ……"」
「まあ何処だっていいか……走って疲れただろうし
少し休息を挟むとしよう」
「"私霊体だから疲れてないよ"」
「そうだったな……霊体なら一つ試してみたい
事があるのだが私に取り憑くような事は可能か?」
「"何それ面白そう。やってみていい?"」
「ああ」
「"後ろから抱きつけばいいのかな……あっ"」
「おいどうした」
「"上手くいっちゃった。これなら私の意思で
マエストロの身体を動かせるんじゃないかな"」
「は?おいちょっと待……」
左腕。右腕。自分の意思とは関係なく動く腕に
自らが指示したとはいえ気色の悪さを覚えた。
……だがこれでこいつを連れて帰る事は出来る。
「とりあえず一旦私の身体を動かすのをやめ……」
「"マエストロパーンチ!"」
「………」
ーーー
あれから数十分は弄ばれた。簡単に取り憑いていい
なんていうものではないと痛感するには充分だ。
「満足したなら一度離れてくれ」
「"もう少しだけ……"」
「……まあ、大人しくしてくれるのならば
このままでも構わないが」
「"ありがとうその言葉を待っていたよ!"」
なんだこいつ。まあいいか、随分と時間を取られて
しまったがナグサの幼馴染を探さなければな。
「"そういえばマエストロは何でここに来たの?
人探しでもしてたの?"」
「妙に鋭いな……先生の言う通りだ。七稜アヤメ
という生徒を探しに来たんだ」
「"アヤメって言うと……百花繚乱の委員長?"」
「知ってるのか?」
「"先生だからね。生徒の名前と顔は就任した
その日には全員分覚えてたんだよ"」
「ノアのような記憶能力を持っているんだな」
「"そりゃあ生徒の事は覚えておかないと。ただ
他の事はあんまり……"」
「……まあ、私の知り合いも似たようなものだ。
とにかくその生徒を連れて帰ろうと思っている」
「"何の為に?"」
「当然私の崇高を満たす為だ」
「"……そっか。良い趣味してるね"」
「そうだろう?」
「"よし! じゃあアヤメを助けに行こう!"」
「そうだな。早く見つけて戻ってさっさとユメと
祭りを満喫したいものだ」
「"夢と満喫? 面白い言い回しだね"」
「そうか?」
「"うん"」
「私は普通の事を言ったつもりだったのだが……
まあいい、先を急ぐぞ」