「………」
「"……悍ましい量の敵がいるね"」
「ああ……」
アヤメを見つけ出す為に歩き回っていたら化け物
が闊歩する集落のような場所に辿り着いた。当然
そこにアヤメがいる気配はなく獣の叫ぶ声が
数百メートル離れていても聞こえてくる。
「あの黒い猫のような存在……気になるな」
「"でも何かに縛られているし刺激しなければ
大丈夫なんじゃないかな"」
「そうか……」
彼女は花鳥風月部に連れ去られて『百物語』
の一部にされた。ナグサは確かにそう言っていた。
まさかとは思うが……いや、流石に考えすぎか。
いくら百花繚乱の委員長とはいえそれを依代に
あのような化け物が生み出される筈がない。
「"マエストロ、誰か居る"」
「……何だと?」
先生に言われ半信半疑だったが確かに人が居る。
幼子で全身が痛々しく包帯が目立つ。……だが
問題はそこではない。何故黄昏に蝕まれていない
のだ? 奴は何者だ?
「先生よ、彼女はアヤメなのか?」
「"……違う。アヤメの姿はあんな感じじゃない。
あの子は……私も知らない生徒だ"」
「……もしやとは思うが花鳥風月部の生徒か?
だとすればあの怪物が祭りの日に……」
「"……どういう事?"」
「近々百鬼夜行では大規模な祭りが開催される。
……その祭りで悲惨な事件が起きるんだ。どれ程
の被害が出るのか、誰がその事件を引き起こすのか
不明だったが今合点がいった。『花鳥風月部』が
全ての元凶だ。百花繚乱が解散令を出したのも
委員長が攫われたのも奴らが招いた結果だろう」
「"……じゃああの化け物が百鬼夜行に現れて
祭りを滅茶苦茶にするって事なの? それなら
今ここで止めれば……!"」
「そうしたいが……こちらの戦力があまりにも
不足している。生徒を呼ぼうにもこの場所では
どのような影響を受けるのか分からない」
「"だとしてもこのまま放置なんて……"」
「分かっている。今策を考えているから待て」
……だがどうする? どうすればあいつが
黄昏から抜け出して街を襲うのを避けられる?
……ダメだ。私にはどうする事も出来ない……
生徒達と違い戦う術に乏しい私では精々弱らせる
事が精一杯だろう。だがそれも奴に効果がある
のか分からない。
「考えていても仕方ない、か……これを使おう」
「"それは……ペロロ人形?"」
「この世界の先生から読み取った記録の中に
『ペロロジラ』という怪物のデータがあった。
そして偶然にもこの人形の種類はペロロジラ……
らしい。正直なところこの人形に芸術的な要素は
何一つ感じないが……圧に負けたんだ」
「"あー……多分ヒフミの事だよね"」
「ああ……聞けばこの人形は物凄いレアものらしく
『大事にしてくださいね!』って渡されたものでは
あるのだが……そんな貴重品を何故渡してきたのか
分からないのだ」
「"布教したかったんじゃないかな。マエストロと
それについて語り合いたかったとか"」
「……そうか。そういう事なら少しは興味を持って
みるとしよう。……話が逸れたがとにかくこれを
用いて奴を足止めする。その前に複製するが」
「"なんだかんだで大切にしてる辺りマエストロも
立派な先生なんだなぁ……"」
「それはそうだろう。生徒からの貰い物を雑に扱う
などあってはならんからな。……で、複製したこれ
にペロロジラの概念を与えてあの辺りに投げる。
すると……」
「"……あ、巨大になって自我を持ってる。凄い"」
ギャー!?ナンデスカコノバケモノ!?コンナノヒャクモノガタリニイナイデスヨ!?
「あの生徒も混乱しているようだが……さて、
どの程度化け猫にダメージを与えられるか……」
「"まるで怪獣大決戦みたいだね。カイテンジャー
もひとつまみ添えておきたいなぁ……"」
「それは見てみたい気もするが……中の操作を行う
必要がある以上呼び出すのは避けておこう」
「"それもそうだね。……で、どんな感じかな"」
「そうだな。周りの有象無象は問題なく蹴散らせて
いるものの肝心の化け猫には攻撃が通用していない
ように見える。妖の類なら当然とも言えるが……」
「"実体化してないから弾が奴をすり抜けるぞって
感じなのかな?"」
「まだ分からん。もう少し様子見を……待て。
有象無象が倒れた場所に何か転がって……」
「"……あの服装は百鬼夜行の生徒だよ"」
「なん……だと?」
どういう事だ? 依代なのではなく生徒そのものが
有象無象の化け物に変化しているのか? そんな
馬鹿な話があっていいのか? 何体化け物が居ると
思っているんだ。数百はくだらない程居るぞ?
あの化け傘も東洋人形も怨念のようなものも全部?
全てが生徒だと言うのか?
「生徒を何だと思っているんだ……!」
「"マエストロ……"」
「だがどうすればいい……どうすれば救える……
そもそも有象無象にされた生徒達は無事なのか?
息があるのかも分からん……」
「"……大丈夫だよ。彼女達に息はある。遠目だから
詳しくは分からないけど僅かに動いてる"」
「意識はある、か……それなら今すぐにこの場所
から避難させれば何とかなるか……?」
「"幸いにもペロロジラが注意を引いてくれてるし
運べるだけ運ぼう"」
「……今は出来る事をやるしかないか……」
名も知らぬ生徒の為に行動する芸術家と先生。
……しかし先生は霊体なので応援しか出来ないが。
多分黄昏の深掘りが本編でされたら間違いなく
こんな感じではないと思います