例えばこんなゲマトリア   作:スカイブルーホワイトヘアー

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先生と先生の奇策

あの後数人の生徒を救出して安全地帯に戻り様子を

見る……必要もなく明らかに異常であった。

四肢が全て腐食している。それは徐々に身体に影響

を及ぼし始めていた。

 

「どうしたものか……」

 

「"これはゲマトリアの技術で治せないの?"」

 

「治せなくはないだろうが解析に時間が必要だ」

 

「"出来るんだ……"」

 

「とりあえずこの穴に生徒達を入れるぞ。

少なくともこの場所に居るよりも安全だ」

 

「"何処に繋がってるの?"」

 

「変態の根城だ」

 

「"ふざけてる場合じゃないと思うんだけど"」

 

「まあそう言うな。あんな奴でも役には立つ」

 

「"誰の事を言ってるのかは分からないけど……

マエストロがそこまで言うなら信用できる人

ではあるのかな……"」

 

「……よし。ひとまずはこんなものだな……

ペロロジラの様子は……まあ、善処した方か。

化け猫は無傷、と。八方塞がりだな」

 

「"せめて対処法が分かればなぁ……"」

 

「霊体だからだろう。百物語そのものの存在なら

幽霊のように実体化していない可能性が高い」

 

「"そっか。じゃあ私みたいなものなんだね。

……えっ、どうするの? 詰んでる?"」

 

「現時点ではな。だが幽霊程度なら色彩とは違い

対処としては容易だ。実体化させればいい」

 

「"どうやって?"」

 

「それは後程分かる。連絡はしておいたからな。

……あれを放置して進むのは気が引けるが私は

本来の目的を果たさなければならない」

 

「"アヤメの事?でも……"」

 

「分かってる。今ここで全員を救出する事が

教師としてやるべき行動なのも。だが今私達が

どうこう出来る問題ではないのも理解してほしい」

 

「"……分かった。君の選択を信じるよ。私と同じ

志を持っている君の事を"」

 

「……感謝する。一先ずは奴らに勘付かれる前に

この場を離れるとしよう」

 

ーーー

 

無力感。芸術家はあの化け猫に対して対抗手段を

何一つ持ち合わせていなかった。救出出来る筈の

生徒を何人も残してしまった事による後悔の念。

それはとても割り切るには難しい問題であった。

彼が先生という概念に染まっているが故に。

 

「……私は教師に向いていないのだろうな」

 

「"急にどうしたの?"」

 

「……何でもない。少し弱気になっていただけだ。

何故全員を救える程の能力がないのか、とな。

私にはまだ足りないものが多すぎる……」

 

「"……ねえマエストロ。君はどうしてこんな深淵

とも言える場所に来たの?"」

 

「それは……」

 

「"多分だけどさ、君はそこまで親しくはない生徒の

為にここに来たんだよね。それこそ出会ってから

数時間も経っていないような"」

 

「……出会った時間なんて関係ないだろう。悩みを

抱えている生徒が居たら寄り添い解決へ導くのが

私のやり方だ」

 

「"いい考えだね。私も同じ考えだよ。そして君は

口だけではなくそれを実践している。これって

君が立派な先生である何よりの証拠じゃない?"」

 

「……そんな事はない。私はただ一人の生徒を

心の底から笑えるようにしたいだけだ」

 

「"それで命を落とす事になっても?"」

 

「私の命を糧に笑顔が生まれるなら喜んで」

 

「"その考えはダメだよ。自己犠牲なんて誰も望んで

ないし望まれていない。……私も最後に伝えたい

言葉だけを残して置いてきちゃったからさ"」

 

「……そうか。すまない、無神経だった」

 

「"気にしないで。私が勝手に話しただけだから。

……ねえマエストロ、私の生徒は今笑えていると

思う? 孤独に生きているあの子は……"」

 

「……それは自分で確認すればいい。こうして私と

出会ったのは運命とも言える。霊体だろうが生徒に

会うのには何も支障はない、そうだろう?」

 

「"仮に会えるとしても私があの子に会う資格は

ないよ。ただ見守る事しか出来ない。シロコには

未来に進んでいって欲しいんだ。過去に囚われず

今をただ楽しく笑えるように"」

 

「それは無理だぞ」

 

「"えっ"」

 

「今のままではあの砂の神が報われる事なんて

1%の可能性もない。0だ」

 

「"……なんで? あの子は幸せにならないと

いけないんだよ。絶対に……"」

 

「先生よ。お前はもう一人の自分にシロコの事を

託した。それが何を意味する事か理解している

のか? いや、理解していないからそのような

事を容易く行えたのかもしれんが。……まあ、

あの場合は仕方なかったのかもしれないがな」

 

「"……何が言いたいの?"」

 

「シロコにとって『先生』なのはお前だけだ」

 

「"………"」

 

「同一人物であっても今ここに居る先生とこの世界

に元から存在している先生は他人だ。そんな人間と

シロコが接触したらどうなると思う?

……大切な人を思い出して辛くなるだろう。日々を

過ごしていくうちにその苦しみは大きくなる。

……あの先生がどんなに努力をしたとしてお前の

生徒が救われる事も報われる事もない。それが現実

であり現状なのだ」

 

「"じゃあどうしろって言うの……

私はどうすればあの子を救えるの!?"」

 

「落ち着け。今までは報われる事はなかった。仮に

私がシロコを連れ帰ったとしてもだ。彼女は突然

また放浪をするに決まっている。……だがな。

私がこの場所に来てシロコにとって唯一残っていた

大切な存在である先生に出会えた。言っただろう、

この出会いは運命だと」

 

「"運命……?"」

 

「ああ。……先生よ、私はこんな事を考えている。

……という内容だ」

 

「"そんな事が出来るの……? そんな事が許されて

いいの? そもそも物理的に可能なの……?"」

 

「可能だ。ただしそれは先生の意思次第。どうだ?

私と共にシロコを笑顔にしてみないか?」

 

「"……君はとんでもない先生だね、マエストロ。

一人の生徒の為にそんな事を考えるなんて……

分かった、やろう"」

 

「……よし、方針は決まったな。だがそれを実現

する為にはナグサの……」

 

『ナ……グサ……』

 

「!?」

 

「"マエストロ!"」

 

ナグサの名前に反応した怨霊のようなもの。

触られた彼女が何故このような所に放浪して

いるのかは分からないが……

 

「どうやら私の探し人は見つかったようだ。

……さて、どうやって対処しようか」




そろそろ6部もクライマックスに近いです
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