「見つけたのはいい。当然救出もする。先生よ、
ここで一つ問題がある。私自身の戦闘能力は殆ど
無いに等しい。ましてや相手は百物語の一部に
されているとはいえ百花繚乱の委員長。あまりに
部が悪すぎるとは思わないか?」
「"まあ……そうだね。でもさ……"」
「「諦める理由にはならない」」
「そういう事だな。どうやら想定よりも私達は
思考回路が似ているようだ」
「"そうだね。それってつまり良い事だよね"」
「最高だな」
『グ……ァァァァ!!!!』
……なんて威圧感だ。ユメに元カノと詰め寄られた
時の数倍身が震えてしまうな。さて、どう戦う?
私は今頭を急回転させて考えている。1.2.3秒と
時間は経つが吠えるだけの彼女はまだ動かない。
今のうちにこの状況を打破してアヤメを百物語の
束縛から解き放ち救出する方法。そんな都合のいい
術など思いつく筈もない。やはりユメを連れて来る
べきだったのだろうか。彼女を数秒足止めする事が
出来ればまだ打開策があるものの……
「……なあ先生よ。アヤメに取り憑いて動きを抑制
する事は出来るだろうか?」
「"どうだろう……既に百物語が取り憑いてる状態
だから難しいかも……"」
「そうか……ほんの数秒でいい。アヤメの注意を
引きつける事が出来れば私が何とかする」
「"……分かった。私が何とかする。君がその間に
何とかしてくれるんだよね?"」
「任せてくれ」
「"分かったよ。……作戦開始だね"」
『蜉ゥ縺代※窶ヲ窶ヲ繝翫げ繧オ窶ヲ窶ヲ』
あちらの方も戦闘態勢に入った様だ。もはや何を
言っているのか分からない程に理性もなくただ
何かを発している。こちらは一撃でも喰らったら
致命傷だ。被弾すれば死ぬと思えと自らに
言い聞かせ彼女に向き直った。しかし先程まで視界
にいた彼女の姿はなく突如腹部に激痛が走った。
ドスっという鈍い音と身体が軋む様な嫌な音。
二つの不協和音が奏でたものは力の差を示すように
無慈悲にも芸術家に抵抗する暇を与えなかった。
黒く染まった彼女の腕が腹を突き破る勢いで殴打
したようだ。……まさかこの身体になっても痛覚が
働いていると思わなかった。そして彼女を……生徒
を侮っていた事も。初めから勝負になる筈がない。
こうなる事は決まっていたのかもしれない。
「(痛みで意識が飛びそうになる感覚などいつ振りに
味わったのだろうか……だが傷は深くない。例える
なら肋が全部折れた程度の威力だ。こんなのは些細
な痛みだろう。目の前にいる彼女が味わっている
痛みに比べたらな……)」
そうやって少しは強がってみたものの身体は正直
というべきか。少しずつ思考が濁っていくように
視界が暗転していく。徐々に暗闇に包まれていく
前に聞き慣れた声がした。
「"ナグサだー!"」
……先生よ。もう少し早く叫んで欲しかったぞ。
致命傷を負ってしまったではないか。だが……
『……ナグサ』
彼女が先生の居る方角へ向いて停止している。
……この機会を逃してたまるか。
「見様見真似だが披露させてもらおうか!
アヤメから百物語という『概念』を引き剥がす!」
この状況において彼女を傷つけず百物語の一部
というものから解き放つ方法。それはゴルコンダ
が用いている概念を使う他ない。数秒引きつける
必要があったのは引き剥がす為の時間稼ぎ。
黄昏自身ならともかく百物語という一般的に
知れ渡っている概念ならば見様見真似でも恐らく
引き剥がせる。概念の付与は何度かやってきたが
引き剥がす、というのは初めてだ。ゴルコンダが
共有した際に詳しく聞いておくべきだったな……
『繧?a繧搾シ∝シ輔″蜑・縺後☆縺ェ?』
「何かを訴えているようだが……生憎そのような
言葉を理解するつもりはない!」
引き剥がす事に対して抵抗してくる怨念は徐々に
アヤメの身体を制御出来なくなっていったのか
力が抜けているように見える。そのうち彼女を
纏っていた妖気のようなものは離れていき宙に
漂ってこちらを見下ろすように存在している。
時間にして10秒。見様見真似で概念を引き剥がす
事に成功した。……ここまではいい。アヤメと
怨念はもう繋がっていない。あとはこいつを倒す
だけだ。それだけなのだが……
「どうやら力を使い果たしてしまったようだ。
アヤメを抱き抱える事すら難しい程にな」
「"引き剥がせたなら作戦は成功だよ。どうやって
やったのかは知らないけどね"」
「だがあいつがもう一度アヤメに取り憑いたら
何もかもが水の泡だ。先生よ、この状況でどう
あいつを倒せばいいと思う?」
「"あれの相手はちょっと……というか無理かも"」
「はは、同感だ。最悪私が囮になる。その間に
先生はアヤメに乗り移るなりなんなりして彼女を
安全な場所まで運んでくれ」
「"……自己犠牲はいけないってさっき君が言った
ばかりじゃん。駄目だよそんなの"」
「今はそれが最善の行動だろう?」
『違いますよ。相変わらず馬鹿ですね』
「"えっ誰の声……?"」
「マダム……また勝手に繋げたのか……」
『空から手足が黒ずんだ女の子が数人降ってきた
時からずっと貴方達の会話を盗み聞きしてました。
お二人の生徒に対する愛は素晴らしいものです。
……まあ? 自己犠牲を選ぶ辺りまだまだ未熟と
言わざるを得ませんがね』
「………」
「"……まあ、マエストロが先生になってるから
あれが先生になっててもおかしくないか……"」
『あれとは何ですかあれとは。……まあいいです。
私の言う事に従ってください』
「何をする気だ?」
『そちらの先生、マエストロに憑依してアヤメを
抱えて西に走り続けてください』
「"あっうん、分かったよ。じゃあ憑依するね"」
「当然のように憑依するな」
「"今はこれが最善の行動だから"」
「……なら仕方ないか」
『さあ今すぐ全力で走ってください。100m先に
マエストロがこの場所に侵入した入口があるので
そこから脱出をするのです』
「だがあの怨念を放置するのは……」
『順を追って説明しますので今は私の指示に』
「"こっちでいいの!?"」
『そう、その方角です。それでいいのです。
何故ならその先に居るのは……』
「先に居るのは?」
『勇者です』
「勇者?」
勇者……勇者? そんな人が居たのか……
まあいい、とにかく脱出をしよう。
「"マエストロ! 出口に入るよ!"」
「ああ。これで任務は完了だ」
「ええ。おめでとうございます。後は私達」
「勇者姉妹に!」
「お任せください」
……………………
こいつらか。