「納得がいきません!」
「私に言われても困るのだが」
「確かにあれは納得出来ませんね」
「まさか怨念がアリスが1発撃っただけで消滅
するとは思わなかった」
「物足りないです! 百鬼夜行に戻って経験値
稼ぎをしにいきます!」
「あ、こらアリス! 一人で出歩いたらまた
私とはぐれますよ!」
「はっ! 危ないところでした!」
「……あいつらは置いておいてアヤメの方を
どうするか、だな」
黄昏の領域から連れ戻した彼女の身体は全身
黒い痣に覆われている。触れる分には問題は
なさそうだが治療法はまだ思いつかない。
とにかく一度宿に運ぶとしよう。……身体に
力が入るようになってからな。
「あ、ケイ! 見てください! お祭りが
始まっていますよ!」
「本当ですね。太鼓の音が聞こえます」
祭りか……そういえばユカリがそんな事を
言っていたな。だとすれば自治区内は人が多い
だろう。この辺で新しく宿を取る方がアヤメの
身体を休めるのに適して……
お前は自らの目的を果たす
事もなく祭りの日に焼け死ぬ
「……まずい」
フランシスが言っていた事。祭りの日に私が
焼け死ぬというもの。もしこれが事実なら……
この後大規模な火災が起きる可能性が高い。
「祭りに参加して遊ぶというクエストが発生
しました! 先生も一緒に行きま……」
「行くな」
「え!? 何でですか!?」
「そうですよ。私達にりんご飴を奢ってください」
「いいか。今から話す事はあくまで可能性の一つ
として考えてくれ。この後町内で火災が発生する」
「そうなのですか?」
「ああ。そして私の予想が当たるとすれば……」
あの時みた化け猫と有象無象の怨念達が町を
闊歩する地獄絵図……まるで本当に百鬼夜行が
起きてしまう。飛んで火にいる夏の虫、という
訳ではないが今町内に入っても危険なだけだ。
「……時期に勇者の出番が来るという訳だ」
「勇者の出番!! アリスとケイの出番という
事ですね!!」
「まあ、そうなりますね」
「それまではここで待機していて欲しい。
そうだな……そこに居る囚われていた姫の警備を
任せようじゃないか」
「囚われの姫ですか!? お任せください!!」
「私は面倒ですがアリスが心配なので残ります」
「流石はアリスの姉だな。では任せたぞ」
出来る事ならユメと合流したいが……火災が起きる
前に合流出来るのだろうか? こういう時は大体
間に合わないというオチが待っていそうだ。
ーーー
「もう出てきていいぞ」
「"……なんか色々聞きたいことがあるんだけど
何から聞けばいいのかな……"」
「到着まで時間が掛かるから聞きたい事があれば
分かる範囲で答えるぞ」
「"さっきの二人ってアリスと……ケイなの?"」
「ああ」
「"あんな微笑ましい光景なんだね……"」
「ミレニアムでも仲の良い姉妹だと評判だぞ」
「"そっか。モモイ達と楽しく過ごせてるんだね。
……私もゲマトリアと協力していたらこうならず
に生徒達を幸せに出来ていたのかな"」
「それはないだろうな。今まで私達のように
搾取ではなく共生を選んだゲマトリアと接触した
事がない。……考えてみれば単純な話だ。悪い大人
の立ち位置を捨ててまで教師になる必要なんて何も
ないんだ。仮にきっかけがあったとしても根本的な
思考はそう簡単に変わらない。悪い大人というのは
そういうものだ」
「"そっか。良いマエストロは君だけなんだね"」
「……先生よ。私も例外なく悪い大人だからな?
「"見た目だけはね"」
「私にも面子というものがあってな……そうだ。
先生に伝えなければならない事がある」
「"どうしたの?"」
「私は今日燃えて死ぬらしい」
「"えっ"」
「なのでもしそのような状況に陥っても動揺
しないで息を潜めていてほしい」
「"さっき自己犠牲を選ぶなって言われてたけど
なんでそういう事言うの?"」
「まあ待て。これは生徒を助ける過程で必要な
事なのだ。何も心配する事はない」
「"そんな事言われても……心配するよ。でも君の
事だから何か策があるんだよね?"」
「ああ。上手くいくかは信じていればという感じ
ではあるがな。……そろそろ会場に着くぞ。
先生よ、一度姿を消し……」
「……案の定始まってしまったか……自治区内で
何が起こっているか分からないが……私は自分が
やれる事を全力で行うだけだ」
「"……ただの花火だよ?"」
「………」
おまけ 同時刻のゲヘナにて
「数十分検査して分かったのは生きてはいますが
意識が戻らず治療法も不明……全く、マエストロ
はこんな大変な事を押し付けてきて……これでは
会議が進まないではありませんか」
「大丈夫さ。既に方針は決まって準備も万端。
鷲見さんに完成品も渡せたからね」
「は、はい。備えは充分だと思います」
「……私が言いたい事はそうてはなくですね。
せっかくミレニアムとトリニティの生徒が我が
ゲヘナ学園に来てくれたと言うのに大した交流
が出来てないという事が問題なのです! 私達
はもっとお互いの事を知る必要がある! そう
思いませんか?」
「……ふむ。どうやらゲヘナの先生は噂通り
面白い人のようだね。先程までの威厳を感じた
姿が嘘のようだよ」
「生徒を愛するのに威厳なんて必要ありません。
欲望には素直であれ」
「えっと……素敵な考えですね……?」
「おやおやおやおや貴女はこの考え方を理解
してくださると言うのですか。本当に
白衣の天使ですねセリナたんは」
「セ、セリナたん……?」
「ユーモアがあるのは良い事だよ。だけど
そろそろ出番が来そうだからさ」
「それもそうですね。……しかし本当にこんな
四角い箱で上手くいくのでしょうか?」
「鷲見さんが居るなら可能だよ。彼女が先生の
合図を聞く事が出来れば、ね」
「それなら私の端末を貸しましょう。これは今
マエストロの端末に繋がっているので。彼の
現状を知れま……何やらあちらの方が騒がしい
ようですね。ライブでも開催されている勢い
ですが……」
「多分ですがシスターサクラコのライブかと」
「何ですって? あのハイレグニーソシスター
アイドルサクラコがゲヘナに!? ……こんな
状況でなければ観戦したかったです」
「会議は終わったのだから観に行く分には
構わないと思うけど」
「何事にも優先順位があるのです。今は手足が
黒ずんだ彼女達に付き添いたいのですよ。
ですのでライブはお預けです」
「成程。私達の先生が貴女を頼った理由が
なんとなく分かった気がするよ」
「面倒事を押し付けるのは完璧してほしいところ
ですがね」
みたいなやりとりをしていたとかなんとか。