「原理は同じだ。異形の姿になっていようとも
百物語という概念を分離すれば元の姿に戻る」
「"そして離れた怨念を私がレーザーで撃つ!"」
「そう、これで一人の生徒を救えたという訳だ」
「"最高だねマエストロ。……正直私はこうして
自分が戦いたかったんだ。生徒達が傷ついて
戦う中私は指示しか出来なかった。あの子達は皆
優しかったから仕方ないと言ってくれた。けど
私が弱いからシロコは一人になってしまった。
……全部私が弱かったからなんだ。爆発の一つ
や二つ耐えないといけなかったんだ"」
「キヴォトス人でもあるまいし爆発に耐える
なんて考えはよせ。それに精神的支えになれるのも
先生としては立派だぞ。……そうして戦えるのは
今だけだ。充分に楽しんでおけ」
「"うん、そうする。でも楽しむよりも大事
なのは生徒を助ける事だよね"」
「先生は変わらないな。だがその通りだ。まだ一人
だけしか救出していない。気張っていくぞ」
「"了解!"」
このやり方が何処まで通用するのかは未知数だ。
だが今はただ行動するだけでいい。そして頃合い
を見て作戦を実行する。それだけだ。
ーーー
「……参ったね。全然敵が減らないよ」
「"親玉の黒い化け猫……?から生み出され続けて
いる以上あれを倒さない事には……あれ"」
「どうしたの先生?」
「"あそこの建物にユカリ達がいる! 助けに
行かないと!"」
「……分かった。私が敵を誘導するからその隙に
先生はあの子達のところに行って」
「"ホシノ……ごめん、任せたよ"」
「うん、任された」
……とはいえこの数相手じゃおじさん一人では
厳しいかもね。でもやるしかないよね。だって
先生を守るって誓ったんだからさ。
「始めよっか」
攻撃が通用しなくても引きつける事はできる筈。
そう、私一人でもやらなくちゃいけないんだ。
まずは周辺の敵を一掃して……
「……え?」
撃った敵が人間に変わった? ……いや、今は
考えるのはやめておこう。とにかく足止めを
する為だけに動かないと。
化け傘のような生物は距離を詰めてショットガン
を至近距離で一発。提灯型の生物は口から放出
される液体を避けて口内に一撃。……やっぱり
それらを倒したら四肢が黒ずんだ人間に変わる。
どういう事なんだろう……? 私みたいに
悪い大人に利用されているのかな……?
「後で考えよう。今はあの黒い化け物を……!?」
黒い化け物は低く唸り声を上げたかと思えば
小さな狐火を生み出した。それらの狙いは
『私が敵を倒した時に化け物から変化した人間達』
に向かっていっている。……止めないと。本能で
そう思った私は盾を展開してその狐火を受け止めた
そう、狐火を受け止めてしまったのだ。
「くっ……!?」
それは私の盾に触れた途端爆発した。規模は小さい
ものの私の身体に振動を与えてくる。頭が揺れて
視点も定まらない。肉体へのダメージこそ少ない
ものの頭が混乱してきた。
「……あっ」
視界は安定せず腕から力が抜けて
盾を落としてしまった。それでも尚化け物は
狐火を展開し同じように向かってくる。
盾を拾う事が難しいなら身体で受け止める。
それしか思いつかなかった。あの狐火が直撃したら
どうなるのだろうか。それでも今私がこの子達の
壁にならないといけない。……私は本当に弱いな。
ユメ先輩、貴女のように強くなりたかったな……
ーーー
「……今何人目だ?」
「"50人くらい、かな"」
「そうか……まだ一割にも満たないだろうな」
「"百物語だから百人、とかじゃないのかな"」
「それだったら五割という事にしておくか」
「"はは、そうだね"」
ここまでは順調だ。雷ちゃんの燃料もまだ半分程
残っている。このままいけば……
「……そう簡単にはいかない、か」
中型の人形が数体こちらに接近している。
化け傘の数倍はある相手が何体もだ。
「先生よ、敵も本気を出してきたようだ。
一層気を引き締めて……」
「"マエストロ、後ろ! 助けた生徒達が!"」
「何だと!?」
いつの間に背後に……しかも大量にいる……
「私が抑え込む! 先生はその間に生徒達を避難
させるんだ!」
「"でも前方には大きい人形が……」
「道はこじ開けるなり何なりしろ!」
「"わ、分かった!"」
とにかく怨念達を救出した生徒に触れさせる訳には
いかない。身体を張ってでも止めなければ!
「ぐっ……この数では引き剥がすのも限界がある
が……それでも私は……」
この命燃え尽きるまで百物語という呪縛から生徒
達を解放し続ける。彼女達がまた心から笑える
生活に戻れるように。そう願いを込めて。
「"マエストロ! 燃料が殆どないけどレーザーで
何とか人形を倒して道を……マエストロ?"」
「………」
嗚呼……久しぶりに生を実感した。この場にいる
全ての生徒から百物語を引き剥がす事が出来た。
……良い最後ではないか。なんて事はない。少し
眠りにつくだけだ。焼死というのは格好が付かない
がな。……私の役目はここまでだ。後は任せるぞ。
「……哀れなり。先生という立場であるが故に
有象無象の忘れ去られた神々を放置出来ず自ら
命を落とすなど。実に醜く最悪の自殺だ。だが
これで理解しただろう。貴様達は運命という
決められた道しか辿れないという事がな。
……選別代わりに天使の迎えが来たようだぞ?」
フランシスは告げる。運命には抗えないと。
そしてこうも告げる。天使の迎えが来たと。
それを暗示するかのように芸術家の周辺に一つの
小さな羽と……救急箱が置かれていた。
6部完
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