『………』
風が吹いている。熱気を帯びた蒸し暑い風が
それは身体に纏わりつくように周辺を漂う
一度背後を振り返り傷ついた後輩の姿を一瞥する
……厳密に言えば彼女は私の後輩じゃない
私の後輩は既に死んでいるのだから
言ってしまえば彼女は赤の他人。ここで命を張って
助ける必要もない。そう理解している上で私はこう
吐き捨てる。『だからどうした』と
これは理屈で説明出来る話じゃない。適当な理由
を見繕って他人だからと切り捨てる事は簡単だ
そうしたくないから今ここに立っている!
『私はユメ! 小鳥遊ホシノの先輩! 理由なんてそれだけで充分だっ!!』
決意を叫ぶ。そして誓う。奪う事しか出来なかった
この力を守る為に使うと! ……大丈夫、もう暴走
なんてしない。何も残っていなかった私にも
支えてくれる人が居るって知れたから。それに今
ここで全力を出さなければ私は一生後悔する!
『さあ、やろうか』
ーーー
「で、結局何人救出した?」
「245人です」
「そうか、ご苦労だったな。それでその……
そいつは本当に持ち帰るのか?」
「当然っす。トリニティ名物のサンドバッグに
する予定っす」
「ゴミの有効活用、だね☆」
「……そうだな。是非有効活用してやってくれ」
「"哀れなりフランシス……"」
「煽る価値すらない奴を煽るな」
「マエストロ! 世界の意思に反逆する事が
どんなに恐ろしい事か理解しているのか!?
貴様の行いは大罪という言葉では済まされない
行いなのだぞ!?」
「……お前は知っているだろう。私が芸術に
しか興味がない事を。世界の意思なんて今更
知った事ではない。己の崇高の為に行動する。
それがゲマトリアというものだろう?」
「貴様っ……!?」
「頭がないのに何処から声を発しているの?
不愉快だから黙ってもらいたいな☆」
「この絵っすか? この絵を燃やせば全部解決
するって事っすかね? まあ両方とも燃やすのは
確定してるんすけど」
「"なんか思ったより酷い事にされるような"」
「これが奴の運命だったのだろう」
「"……ってあんな悪い大人なんてどうでもいい事
よりもシロコ! シロコは何処に行ったの!?"」
「ああ、それなら先程チヒロとヒマリが座標を
特定してくれた。そう遠くない距離に居る」
「"無事ならいいんだ。これ以上あの子が傷つく姿
なんて見たくないからさ"」
「それは私も同じだ。……その前に救出した生徒達
をこの穴に運んでおこう」
「"穴の先に赤い化け物がいる件について"」
「心配するな、あいつは出禁を喰らってる」
ーーー
嗚呼、この感覚は久しぶりだね。全身が憎悪て
染まって目の前の全てを破壊したくなる。きっと
色彩の意思なんだろうね。こんな力なんて私は
望んでいなかった。ただ平和に生きていたかった
何気ない日常を過ごすだけで満たされるのだから
……でもこの力があるから私は今傷ついた後輩を
支えられるんだ。
『だから化け物……全部受け取れ』
私は後輩達の武器を展開する
ガトリングガンの連射も
二丁のアサルトライフルの銃弾も
ヘリからのミサイルも
ショットガンも頭部に撃ち込んだ
……それでも多少怯ませる程度で化け物は揺らぐ
事なくそこに存在し続けている
そういえば大型の敵との戦闘はあんまり経験して
こなかった。相手にしてきたのはいつも人間
参ったね、あんなに格好つけたのに戦い方が
分からないだなんて。
「では私がこういう時の対処法を教えましょう。
数の暴力でボコボコにすればいいんです」
「勇者といえば四人パーティ! ですからね!」
『二人共……いつの間に来てたの?』
「勇者とスーパーヒーローは遅れてやってくる!
基本中の基本です!」
『スーパーヒーロー……?』
「アリス、確かに私達はアンドロイドで1.2号の
ような感じではありますが片手で撃てる武器では
ありませんし貴女を特攻させませんよ」
「ですが2号の再現にはそれくらいしないと……」
『そんな話よりもあいつをどうにかしないと』
「まあ待ってください。途中から戦いを拝見して
いましたが相手は殆どダメージを受けておらず
元気に遠吠えしている。これは詰まるところ
負けイベントなんですね。なので一度離れて
仕切り直せばダメージが通ると思います」
「流石ケイです! その通りだと思います!」
『真面目にやってくれないかな』
「……分かりました。では普通に分析結果を
話すとあの黒いやつは幽霊のようなものです。
当たり判定がないくせに陰湿な攻撃ばかりする
製作者の悪意が込められた敵という事です。
ユメの攻撃が通用したのは色彩の影響である程度
干渉出来たのだと思います」
『じゃあ私があの化け物に触れればあれが実体化をするって事? それなら……』
「いえ、それはいけません。あれに触れたら
神秘に悪影響を及ぼします。ユメが接触したナグサ
という生徒のように手足が腐食します。何より貴女
は既に恐怖に染まっている状態。これ以上悪化して
しまえばマエストロ先生の願いが叶わなく危険性が
あります」
『それじゃあどうすれば実体化を……』
「私とアリスの極太レーザーで箱舟のように
強引な実体化も可能ですがそれだとどちらかが
消滅するのでやりたくないです」
「犠牲0、命だいじに! ですよ!」
『うん。命は大事だね』
「大丈夫です。この場には専門家が居ます」
『専門家? 何処に……』
「黒セン、私の銃貸して!」
「全く。病み上がりというのに元気ですね。
思う存分暴れてきなさい」
「サンキュ♪ あっ、そこの三人! あいつの
相手をしてくれてありがとう! そして今から
私に協力してあいつを一緒に倒そう!」
『……この人が専門家?』
「はい。彼女は……」
「七稜アヤメ! 長いから肩書きは後で言うね!」
「これで四人パーティが完成しました!」
『……ホシノちゃんが守れるなら何でもいいや』
「あ、元に戻りましたね」
『皆を見ていたら多少は冷静になれたみたい』
「何だか分からないけどとにかくヨシ!
百花繚乱を平和にする為に頑張ろう!」