例えばこんなゲマトリア   作:スカイブルーホワイトヘアー

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君を想い君を望み君と共に

部屋に戻っても尚冷静さを保つ事は出来ていない。

どうするかと問いかけても自分自身が混乱している

為答えが返ってくる筈がない。しかしこのまま

部屋に篭っている訳にもいかないので再度覚悟を

決めてユメが待つリビングに降りていくと……

ハート型のチョコプレートに『LOVE』と

書いてケーキの上に載せているユメがいた

あれは一体何なのだ? まさかあの中に指輪でも

仕込んでいるというのか? なんて芸術性が高い

プロポーズなのだろうか……待て、怖気つくな。

こういう時は深呼吸をだな……

 

『……あ、先生。もう少しだけ待ってください。

今飾り付けをしていますので……』

 

「わ、分かった。アリスとケイはどうした?」

 

『二人なら用があると言って帰りましたよ』

 

「そうか……」

 

何故このタイミングで帰宅しているのだ……

今ユメと二人きりになるという事は意識をして

しまうという事。つまり詰み直前だ。会話でも

してきを紛らわせるしかない。

 

「先程から用意しているそのケーキは何だ?」

 

『これは先生に日頃の感謝と……愛を伝える

為の贈り物です』

 

「愛だって!? ユメもなのか!?」

 

『……ユメも?』

 

「………」

 

時に人は時間を巻き戻したいと考える時がある。

主に失敗した際にやり直したい、そう強く

思うのだ。今こうして失言をした私のように。

 

『もしかしてあの荷物は……』

 

「……今持ってくるから待っていてほしい」

 

『分かりました。ではケーキは一旦冷蔵庫に

冷やしておきますね」

 

「すまない……」

 

どうしてこうも格好がつかないのか。人生の大切な

場面だというのに……これでユメの私への印象が

情けない人、のようにネガティブなイメージを

持たれてしまうと……その先は恐ろしくてとても

考えられない……

 

『それで……そのダンボールの中身って……?』

 

「あ、ああ。中身か。それは……その……ユメに

渡したいものなんだが……」

 

『渡したいもの?』

 

「……これを受け取ってほしい」

 

流れに身を任せてユメに薔薇の花束を差し出す。

緊張は収まらず今も尚冷静さを欠いているが

難しく考えずに思った感情を伝えるだけ。

それでいい。下手な言葉は美しくない。

 

『薔薇の花束……108本の薔薇……確か花言葉は

……えっ……』

 

「……私の伴侶になって欲しい」

 

言った。言ってしまった。これでもう後はない。

受け入れて貰えるか破滅か……しかし花束よりも

先に指輪を渡すべきだったか? 基本プロポーズ

は指輪を差し出すものだろうからな……

 

『………』

 

ユメは花束を持ちゆっくりと瞼を閉じて何かを

考えている。そのまま数分が経過しただろうか。

彼女が目を開けて潤んだ瞳でこちらに向き合い

 

『本当に……良いんですか?』

 

そう消え入るような声で問いかけてくる。

 

「ああ」

 

『ミレニアムの子でなくトリニティの子でもなく

百鬼夜行の子でもない……私で?』

 

「そうだ」

 

『全身傷だらけで……重くて……面倒な私で?』

 

「それもユメの魅力だろう」

 

『本当にいいんですね……? 後で後悔する事に

なったとしても……』

 

「今ここで想いを伝えない事以上に後悔するもの

なんてないだろう?」

 

『……本気なんですね。貴方は私を……』

 

「当然本気だ」

 

『……黒い薔薇を差し出された日の事を思い出し

ます。あの時も貴方は薔薇で想いを伝えてくれて

恋人になりましたね』

 

「そうだな。思えばあの時から私は不甲斐なくて

頼りない大人だったな」

 

『貴方のそういう一面も含めて大好きです。

……だから言わせてください。

私と共に……生きてくれますか?』

 

「ああ。生涯愛し続けると約束する。

もうユメを孤独にはさせない」

 

『……はい。貴方を信じています。あの日誓った

約束を守ってくれた貴方の事を……』

 

「……受け入れてくれてありがとう。実は先程から

ずっと緊張していてな。断られるのではないかと

冷や汗をかいていたんだ」

 

『帰ってきた時からずっと挙動不審だったのは

そういう事でしたか……先生も緊張したりするん

ですね。町の中で愛を叫びあった仲ですのに』

 

「それはそうなんだが……いざ伝えるとなると

どうしても身体が震えてしまうんだ」

 

『ずっと軋んだ音がしてますよ』

 

「……すまない。不協和音だっただろう……」

 

『いえ。私はその音は好きですよ。私だけの音に

したいくらいには』

 

「それは良かった」

 

『……あの、今夜は手を繋いで眠りたいです』

 

「奇遇だな。私もそう思っていたところだ。

ただ手の温もりを感じながら眠りにつきたい」

 

『ケーキは明日までお預け、ですね』

 

「そうだな」

 

こうして人知れず誕生した三組目の異端夫婦

愛する人と共に生きる道を選んだ芸術家と

重い過去と罪を背負い孤独に生きる事を決意

していた少女はあまねく奇跡の始発点に到達した

そしてそれを祝福するかのように彼女のヘイローは

何色にも染まらない漆黒から変化し始めていた

 

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