当然エッチな事はしてません
朝の光が部屋に差し込む。
昨日の夢はなんて素晴らしいものなのだろうと
余韻に浸るには充分すぎる程に。
好きな人にプロポーズされて永遠を誓う夢。
……それが現実である事は左手のみではなく
全身を包むような暖かみが物語っていた。
『………』
夢じゃない。あの幸せな時間は終わってない、
むしろここから始まるんだと心が昂る。
これから毎日こんな幸せを噛み締めながら生きる
なんて……
『本当にいいのかな……』
「何がだ?」
『ひぃん!?』
「……なんだその独特な叫び声は」
私の夫はとても意地悪だった。起きているならば
早くそう言ってほしかった……
『先生は酷いです……』
「すまない。ユメの寝顔を見て幸福を感じていた。
……不思議だ。普段から見ていたのだが今朝見た
寝顔は今まで以上に魅力的だったんだ」
『朝から何言ってるんですか……馬鹿///』
「……さて、着替えたら出掛けるとしよう」
『アビドスに……ですよね』
「そうだ。ようやくユメの反転した神秘を元に戻す
決心がついたからな。最後に聞いておくが……
シロコのようにしなくてもいいのか?」
『はい。私は……未来に向かって歩きます』
「分かった。……ありがとう。正直な話私はユメが
元の世界に戻ってしまったら廃人になってしまう
ところだったんだ……」
『そう言ってくださって嬉しいです。……では
行きましょうか』
「……手を拝借させてもらおう。愛する人よ」
「はい」
ーーー
「ホシノ、見えますか?」
「見えない」
「そうですか。……約束の時間から2時間が過ぎても
マエストロはまだ現れないのですね」
「何かトラブルでもあったのかな?」
「ユメがついているなら問題ないでしょう。
大方新婚旅行気分で歩いてきているとかですよ」
「流石に先輩がそんな事……してる!?」
「……ようやく現れましたか、バカップルが」
「えっ私達の事?」
「……なんと、折り曲がった投擲武器のような
発言をしてしまったようですね」
「でもあんな幸せオーラを出して歩いている先輩
なんて見たことがないよ……恋ってあんなにも
人を変えてしまうんだね」
「貴女も変わりましたよ」
「先生もね」
「それもそうですね。私のホシノはこんなにも
美しく可憐で愛らしいのですから」
「も、もう。先生はいつもそうやって私を……
でもそんな先生が大好きだよ///」
キャッキャッチュッチュッ
『……私達もあんなバカップルのような関係に
なれるのでしょうか……』
「あんな人前で恥ずかしげもなく愛し合うのは
悪くはないが……公共の場ではな……」
『……もし私が人に見せつけるように愛して欲しい
と先生に頼んだら……?』
「何がとは言わないが枯らすまで愛そう」
『……♡』
「マエストロ? よく人前でそのような行為を
恥じらいもなく行えますね」
「黒服よ、ブーメランを投げるな」
「おや、短期間で二回も投げてしまうとは。
ですがそんな些細な事はどうでもいいです。
まずは貴方の勇気ある選択に敬意を称しますよ。
ホシノの先輩に手を出したという事実は軽蔑の
眼差しを向けさせていただきますが」
「ロリ婚に軽蔑される筋合いはない」
「失礼な、純愛ですよ。……そんなホシノが
身体を張ってユメの為に精製したこの薬。
これを飲めばあのシロコ同様にユメの神秘は
本来のあるべき姿に戻るでしょう」
「……ああ」
「今回は私達も立ち合わせてもらいます。彼女の
ヘイローの形を知っているのはホシノだけなので」
「そういう事。だから先輩、飲んでください」
『ありがとう。……それじゃあ……』
「………」
嗚呼、ついにこの時がきた。ユメが元に戻って
テラーという呪縛から解き放たれる。……ようやく
彼女に普通の人生を……いや、私と生涯を共にする
以上普通とはいかないか。だが少なくとも恐怖に
染まっている状態よりは良い人生を送れる筈だ。
『……暖かい。暖かいよ……』
薬を飲み干した彼女から恐怖が消えていく。
本来あるべき姿に戻るように少しずつ。
そして1分にも満たない時間で彼女を蝕んでいた
恐怖は完全に姿を消した。……戻った。ユメの
神秘は元に戻ったんだ。
「私の悲願は達成された。黒服、そしてホシノ。
二人には感謝してもしきれない恩が出来た」
「いえ、私はただ薬の実験としてユメを利用した
に過ぎませんので恩を感じる必要はありません」
「先生はこう言ってるけど……実は直前まで失敗
するリスクを減らそうとしてくれてたんだよ。
二人が来るまでずっとね」
「ホシノ、それは言わない約束ですよ」
「まあまあ良いじゃん。それに先生は今更悪い大人
みたいに振る舞っても無駄だよ」
「……私は何故こんなにも扱いが悪く……いえ、
この場合は扱いが良いと言うべきでしょうか……」
「混乱しているところ悪いが……ユメのヘイローが
元に戻っているのかを確認して欲しい」
「それなら大丈夫だよ。先輩のヘイローは私の知る
黄色いやつに戻ってるよ」
「そうか。……ん、黄色……?」
「うん。黄色いヘイローだよ」
黄色……黄色? ホシノは確かにそう言っている。
しかし私の眼に映るのは黄色ではなく桃色。そして
アビドスの校章をハートマークが囲っている。
……どうなっているんだ? この状況でホシノが
嘘をつくとは思えないが……
「先生」
「な、なんだ?」
「貴方の眼に私の姿は……どう映っていますか?」
「ユメの姿は……何というか……愛に満ちている
ように見える……」
「……それなら良かったです。私は今、貴方が
私に望んだ姿を見せていますから」
「……まさか」
そうか。そうだったのか。私はいつの間にかかつて
目指していた目標を達成していたようだ。そう……
『覚醒』だ。未だ前例が一件しかないそれを今この
瞬間に私は達成したのだ。何故急にこのような事態
が発生したのか? 今なら答えが分かる。
「愛の力か……」
「はい♪」
……参ったな。愛が強すぎるというのは常識すらも
歪ませてしまうのだろうか。……だがそれも今と
なっては悪くないな。
ユメ*テラー改めユメ(覚醒)になりました。
ただしその姿はマエストロにしか見えません。
理由? 愛ですよ