例えばこんなゲマトリア   作:スカイブルーホワイトヘアー

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第八部 星の光が潰える時
破られた誓い


知っているかい? 星の光というものは何千何万年

も前の輝きなんだって。こうして夜空に浮かぶ星々

の中には既に命が失われているものだってある。

 

ここまでは唯の天体の話で終わる。しかしそれ以上

の話に発展する事はない。天体と人間は違う存在

だからだ。では何故この話をしたかと言えば大した

意味なんてないのだ。ただの戯言、それだけさ。

……ああ、そんなに怒らないで欲しい。私なりに

場を和ませようとしただけなんだ。決して悪気が

あった訳じゃない。誰だって辛い現実からは目を

背けたくなる。その手助けをしたつもりだった。

……失礼、まだ経緯を話していなかったね。

じゃあまずは何故この私百合園セイアがこの場所で

記録を残して物語を語り継ぐ役を任されたのか。

その始まりから話そうじゃないか。折角だから

誰の視点で始めようか決めてもらおうかな。

……その人にするんだね。分かった。大丈夫だよ、

最初に見せるだけで全員の視点は語るからね。

……だけどその先に待っているのは終焉だけ。

ハッピーエンドなんて何も起こらないんだ。

星の光は失われる。それが決められた歴史なんだ。

 

 

何気ない日常の朝。寝ているホシノを起こして

パジャマから制服に着替えさせてリビングの椅子に

座らせて朝食を食べさせる。そうしている間に

二人の娘が起きてくるのでホシノ同様に朝食を用意

して食べてもらう。その後身支度を整えてそれぞれ

の学校へ登校する。小鳥遊家の朝はこうして始まる

 

「うへ……眠い……先生おんぶしてー」

 

「ずるいです。私も父に抱かれたいです」

 

「その言い方はやめなさい。それに何故ケイは

こちらに着いてくるのですか?」

 

「アリスが私にサプライズをしたいからお昼まで

時間を潰していて欲しいと言われまして」

 

「本人にサプライズって言っちゃったんだ……

アリスちゃんらしいけど……」

 

「ですので同行させてください」

 

「そういう理由でしたら構いませんよ」

 

幼児体型×2と人外の黒い大人。完全に事案という

言葉が似合う絵面の中学校に向かって歩いていると

何か耳鳴りのような音が聞こえてきた。

キーンという甲高い音は自分だけではなくホシノと

ケイの二人にも聞こえているようで不快感を覚えた

ような苦い顔をしていた。数十秒もしないうちに

鳴り止んだので大した影響はなかったが……

 

「今の音、何だったんだろう……二人にも聞こえた

よね? キーンって音」

 

「はい。耳障りな音でした」

 

「………」

 

「先生? もしかしてまだ聞こえてるの?」

 

「……何だか空気が変わったような気がします」

 

「えっ空気が?」

 

先程までは穏やかな空気だったこの通りも耳鳴り後

には何故か張り詰めたような空気に変わっている。

心なしか通行人の眼も冷たいような……

 

「視線が冷たいのはいつもの事でしたね」

 

「ごめんね先生、せめて私にもうちょっと身長が

あれば良かったんだけど……」

 

「いえ、ホシノは145cmだからこそ輝くのです。

現状維持が至高なのです」

 

「……うへへ」

 

「……何故私の親は街中でイチャつくのでしょう。

これが原因で白い目で見られている可能性も大いに

あるとは思うのですが……」

 

「……早く行きましょうか」

 

「うへ、そうだね」

 

「またイチャついて……はぁ」

 

空気が変わったもののホシノとケイは変わらない。

それだけで心が安らぎ落ち着いた。そのまま多少の

違和感を覚えつつもアビドス高等学校に到着して

部室の扉の前に立ち取っ手に手をかけようとした際

気づいた。扉の先から殺意を感じる。それも半端な

ものではなく鬼気迫るような恐ろしい殺意だ。

別の世界から訪れたユメと邂逅した際に向けられた

殺意と同等、またはそれ以上のもの。扉の先に何が

待ち受けているのか……

 

「……ホシノ、ケイ」

 

「うん。私が先行するからケイちゃんは先生を

守って待機していて」

 

「……分かりました」

 

どうやら殺意を二人も感じ取っているようで即座に

戦闘態勢に入っている。盾を構えた方とは逆の手で

取っ手を掴み勢い良く扉を開けて「動かないで!」

と圧を放つホシノ。扉の先に居たのはホシノと同じ

ように銃を構えていたアビドスの後輩達の姿が。

しかし扉を開けたのがホシノだと分かるや否や銃を

降ろして「ホシノ先輩」と安堵の声が聞こえてきた

 

「み、皆? 何があったの? 普段より雰囲気が

怖いような……もしかして遅刻した事を怒ってる

のかな……? ごめんね」

 

「今更気にしないわよ。いつもの事じゃない」

 

「ん、その通り」

 

「返す言葉がないよ……」

 

話してみると普段通りの後輩達。しかし目には

光が灯っておらず虚構を見つめているように暗い。

 

「……ホシノ先輩」

 

「どうしたのノノミちゃん」

 

「……ごめんなさい」

 

唐突な謝罪と共に後輩達はホシノ目掛けて弾幕を

浴びせる。咄嗟に盾を構えて防いだもののかなり

混乱していた。何故後輩達が自分に発砲するのか

この状況は一体どうなっているのか? 色々と

思考を巡らせた結果彼女はこう叫んだ。

 

「ケイちゃん! 先生を安全な所へ避難させて!」

 

「!? ですが……」

 

「いいから早く!」

 

「は、はい! 行きましょう父!」

 

「待ちなさい! ホシノを置いていくのは……」

 

「ごめん先生、ノノミちゃん達が相手だと確実に

守れる保証がないの! だから急いで!」

 

「しかしホシノと離れるのは……」

 

「大丈夫、必ず合流するから! ケイちゃん、

それまでは先生の事を任せたからね!」

 

「任されました!」

 

「ホシノ……約束ですからね」

 

「うん、約束。……さて、少しばかり後輩達には

お灸を据えないといけないね」

 

何故後輩達と対立してしまっているのか?

その答えを聞き出す為にも彼女は戦闘を開始する。

 

 

……結果から言えばそこまで苦戦はしなかった。

しかし大切な後輩達に銃を向けて撃つという事は

出来ず主に峰打ちや盾で殴って手を損傷させて

一時的に銃を扱えないようにした程度だ。それに

戦って分かった事だが普段の後輩達よりも遥かに

弱い。連携すら取れておらずちくはぐだった。

驚いたのは最初の弾幕攻撃のみ。

 

「それじゃあ聞かせてもらおうかな。どうして

私に銃を向けたのか。それと……そんな冷たい目

をしてる理由もね」

 

「………」

 

「もしかして頼りないから愛想尽かされちゃった

かなーって……だとしたらちょっと悲しいね」

 

「……ごめんなさい」

 

「どうして謝るのさ……私はただ理由が知りたい

だけなのに……」

 

頑なに理由を教えてくれない後輩達に対して

どうするかと頭を悩ませていると背後から

聞き慣れた声で呼びかけられた。

 

「ホシノさん」

 

それは紛れもなく愛する夫の声。どうして此処に

戻って来てしまったのか……既に制圧はしている

ので多少は安全だとしても……

 

「私がホシノさんを置いて逃げ出すとでも?」

 

「……もう。先生は相変わらず優しすぎるよ。

でも私は貴方のそういう所が……」

 

「私が『暁のホルス』の制御権を捨てると

でも思っていたのですか?」

 

「……えっそれってどういう……あ゛っ……」

 

「駄目じゃないですか。戦場で油断する、即ち

死を意味するのですよ?」

 

首元に刺された小さな針を中心に身体に力が

入らなくなっていき、構えていた盾は手から離れ

腰が抜けたようにその場に倒れ込んでしまう。

痙攣する身体を興味深そうに眺める彼の姿は黒服

そのものなのだが雰囲気は完全に別人だった。

 

「……やはりホシノさんには先程の電磁波が通用

していないようですね」

 

『……特定。左手の薬指に装着している指輪が

電磁波を防いでいるようです』

 

「ほう。この指輪がですか。何故そのような効力

を発揮するのかは非常に興味がありますが……

今はホシノさんを制御する事が最優先です。貴女

には申し訳ありませんがこの指輪は破壊させて

もらいますね」

 

「だ、だめ……それは先生と私の……」

 

「……ああ。こちらの私と貴女は婚約していて

愛を深め合っているのでしたね。愛ですか。

そんなもの……」

 

くだらないバキッ

 

「ぁ……」

 

『……制御率が急激に上がっています。これで

今回の任務は達成です』

 

「所詮暁のホルスといえど精神は未熟でしたか。

ではホシノさんを研究室に持ち帰って実験でも

するとしましょうか」

 

「せ……んせ……」

 

「はい、私が貴女の先生ですよ。ただし……

悪い大人の、ですがね」

 

クックックと邪な笑い声を響かせて男は去る。

愛を愚弄し星の光を奪って。

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