人気のない場所、アリウス自治区に黒服とケイは
非常時なのでこの場所に避難していた。
この場でホシノを待つと決めていたが一向に連絡が
つかない為何かトラブルがあったのではないかと
不安になり黒服は苛立ちを隠せなくなっていた。
「……ケイ、もう充分でしょう。ホシノを迎えに
行きましょう。何か不測の事態が起きてしまって
いるのかもしれません」
「落ち着いてください。焦る気持ちも分かりますが
約束した通り母が戻ってくると信じましょう」
「……はい」
「しかしかれこれ一時間は経過しています。
……少し確認して来ますので父はこのまま此処に
待機していてください。安全そうであればすぐに
戻って来ますので」
「……分かりました」
ケイは自らの武器に搭載された機能でワープを行い
アビドスに向かったようだ。……それと同時に端末
に通信が入り急いで応答して「ホシノ!」と叫ぶが
帰ってきた返事は彼女のものではなかった。
『私はホシノではありませんよ』
そう、マダムだ。普段から苛つく人間ではあったが
今回に限ってはいつも以上に気分が悪くなって
通信端末を握りつぶしそうになり自然と力を込めて
いる事に気づきもしホシノから連絡があった際に
この端末が使用できないと困ると思考を巡らせて
多少は冷静になれた。……とはいえ人と話す気分
にらならないので即座に切りたい。
「二度と連絡しないでください」
『待ってください! そちらは無事なのですか?
今ゲヘナが大変な事態に陥っていて……』
甲高い声が脳に響き苛つきが加速する。
ゲヘナなんてどうでもいい。くだらない内容を
ベラベラとその声で喋るな。……五月蝿い。
「五月蝿い!」
鬱陶しい。何故こちらの邪魔をするのだろうか。
自分の事で手一杯なのに他人の話なんて聞く余裕は
ないというのに。
『く、黒服!? どうしたのですか!?
貴方らしくもない発言ですよ!?』
「……申し訳ありません。実はこちらも今大変な
状況でして……」
『……そうでしたか。一先ずは合流しましょう。
詳しい話はその後にでも。理想としては私達が
普段会議に使用しているあの空間ですが……
生徒を連れていける保証がないのでとりあえず
誰も使用していないアリウス自治区に行くと
しましょう。黒服は今どちらに?』
「……丁度アリウス自治区に居ます」
『成程。それは好都合ですね。すぐに向かいます』
「……はい」
……何故こうも精神が不安定なのだろうか?
今までに何度もホシノとは離れ離れになった経緯が
ありその度に再開して普段通りの日常に戻っていた
今回もそうなる筈だ。そうなってくれないと困る。
ホシノは私にとって誰よりも……
「戻りました」
「……お帰りなさい。それでホシノは……」
戻ってきたケイは俯いて何も答えない。
……そもそもホシノを連れて帰らなかった時点で
答えは出ていた。そう……
ホシノは既にいな
「答えなさい! ホシノは居たのでしょう!!」
絶対に認めない。ホシノが負けるなんて。恐らく
後輩達を傷つけないように手加減しているので
時間がかかっているだけだ。そうに違いない。
「それならば私も応援に行かねば。さあケイ。
私をアビドスに転送させて……」
「……アビドスには誰も居ませんでした。
戦いの痕跡と……これが床に……」
「何故そんなものを拾っているのです?」
差し出された左手に乗っているのは金属の破片。
銀色に見えるそれは元がどういう形状なのかが
分からなくなっている。
「手を切ったら大変ですよ。そんなもの早く
捨てておきなさ……」
「……気づきましたか?」
銀色の金属片の一部分に彫られた文字。
『小』と『黒』同じ文字が刻まれた金属を自らも
身につけている。ーー指輪だ。
「……アビドスに連れて行ってください」
「アビドスには既に誰も……」
「いいから早く!!」
「は、はい!」
信じない。信じない信じない信じない信じない。
こんな事かあっていい筈がない。悪戯の域を
遥かに超えている。この目で見るまでは絶対に
割れていた金属片が指輪だなんて信じない。
「……ではアビドスに行きますよ」
ケイの合図と共にアリウス自治区から見慣れた
アビドス学校へ転送された。先程と同様に静寂に
包まれているその場所に踏み込んでホシノと別れた
部室前に来た。……ケイの言う通り誰も居ない。
部屋の散らかりようから争いがあった事は事実だ。
では何故ホシノが居ないのか?
「……成程。隠れんぼをして遊んでいるのですね」
「……父?」
「全く、多少は成長したと思っていましたが中身は
まだまだ子供のようですね。仕方ないですね、私が
鬼を担当して差し上げますよ」
「いきなり何を言っているのですか? ここには私達
以外誰も居ないんです。現実を見てください」
「そんな事分かってる」
「確かにこの教室には居なさそうですね。では次の
教室を確認してみましょう」
「そういう意味ではなく……既にこの学校には誰も
居ないって事なんです」
「嘘だ。騙されるな」
「何故そこまで居ないと言うのですか?
……まさかサプライズ等を考えていると?
貴女も長女の身でありながらまだまだ子供で……」
「いい加減にしてください!」
「っ……」
「……ごめんなさい。声を荒げてしまって……」
「……気にしないでください。貴女のお陰で冷静に
なる事が出来ました。……本当はアビドスに来た
段階で理解していたんです。ホシノは此処に居ない
と……神秘の反応が無かったのですから」
「………」
「少しだけでいいので一人にさせてください。
数分だけで構いませんので」
「……はい」
……何故こうなってしまったのだろう。
何故ホシノを一人にさせてしまったのだろう。
判断を間違えたのは何故だ?
その驕りが招いた結果がこれだ。
何がゲマトリアだ。何が教師だ。何が大人だ。
「私は大切な人すら守れない……」
そして……弱い。