例えばこんなゲマトリア   作:スカイブルーホワイトヘアー

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狙われる存在

時間というものは無慈悲だ。どのような時でも

狂う事なく時を刻み続けている。

あと一秒早く辿り着けていれば。そんな状況にも

なり得てしまう。……私が今見ている予知夢は

そんな数秒の遅れの影響で絶望に叩き落とされた

大人と命の灯火が消え掛かっている生徒の最後が

映し出されていた。

 

ーー×××!! ヘイローにヒビが……

 

ーー……先生、ありがとう。

私は貴方と生きれて幸せだったよ

 

ーー待ってください! 私を置いていかないで

ください……×××……

 

大人は強く抱きしめる。それに応える様に生徒も

寄り添おうとしたが既に力を込める事も出来ない。

愛するものに抱かれながらその生徒のヘイローは

粉々に砕け散り大人はその現実を受け止められず

亡骸を抱いて泣き喚いている。……嗚呼、なんて

絶望なのだろう。彼が歩んできた道の終着点が

こんな夢も希望もない結末なんて……今まで

積み重ねてきたものは一体何の為に……

 

「……朝か。酷い夢だったね」

 

最近はこんな悪夢ばかり見る様になっていた。

あの日ユメに先生との惚気話を聞いた日から

だろうか? 私自身は既に失恋から立ち直って

いる筈なのだけど……まだ嫉妬しているのかも

しれないね。潜在意識が諦めきれていない自分

を投影してこんな夢ばかり……

 

「考えていても仕方ない、かな。早く準備をして

ティーパーティーとしての責務を果たそう。他の

二人があまりにも使えな……忙しそうだからね」

 

ゲヘナとの仲を取り持つ親善大使のミカ

とあるゲヘナ生に執着して仕事を放棄したナギサ

そして仕事くらいしかやる事のないセイア

色々と問題があるが慣れとは恐ろしいもので……

いつしか三人分の仕事をこなせる様になっていたり

支持率も上がっていたりする。そして今日もそんな

一日と過ごそうとしたが家の扉に手をかけた途端に

強烈な耳鳴りに襲われた。セイアは獣耳もあるので

二倍の痛みが彼女を襲っており頭も割れる様に痛み

立っていられなくなってしまった。

 

「なんだこの痛みは……! 知らずのうちに頭に

海綿体を詰められて……!? いや、違う……

何かの映像が脳裏に……」

 

頭痛と共に昔に見た予知夢の内容を思い出した。

アビドスの学校で割れた指輪。

黒い大人がこちらを処分すると言った事。

その姿はアビドスの教師である黒服に瓜二つであり

前に脅威として訪れた淑女の様に悪い大人である事

そいつが今朝見た夢の内容にも登場していた事。

違いがあるとすればネクタイの色……だろうか。

 

「もし今朝見た夢が私の失恋からくる内容ではなく

予知夢だとしたら……アビドスが危ない。急いで

ユメに伝えなければ……!!」

 

友人の学校が危険だと理解するや否や部屋の扉を

開けて走り出した。周りにはちらほらと耳を抑えて

痛みに耐えている生徒やこちらを睨んでいる生徒が

存在している。しかし構っている暇もなくそれらを

通り抜けてアビドスに向かおうとして……

 

「セイアちゃん、おっはよー☆」

 

「っ……ミカか。おはよう」

 

何故こうもこのピンクはタイミングが悪いのか。

普段は準備に時間が掛かって朝早くにすれ違う

事なんて一度もなかったと言うのに……

 

「そんなに急いで何処に行くつもりなの?」

 

「……ちょっと野暮用でね」

 

「そっか。……じゃあセイアちゃん、死んで☆」

 

パンッ

 

……何が起きた? ミカが私に発砲した?

彼女が撃った弾が左の頬を掠れて血が出ているが

現実味がなくこの状況を受け入れられていない。

 

「ねえセイアちゃん。私ね、疲れちゃったんだ。

魔女やら追放しろやらずっとそればかり言われて。

確かに私は悪い事をしたよ? でもさ……

先生から貰った大切な水着を捨てられたり、

いじめられ続けるのっておかしいよね? だから

先生に相談したんだ。どうすれば私が元の日常に

帰れるのか。そうしたら「セイアさんを消せば

貴女は平穏な日々を過ごす事が出来ますよ」って

教えてくれたんだ。だからお願い、死んで?」

 

「……何を言っているんだい? ミカは誰にも

いじめられてなんていない。それどころか親善大使

として活躍して尊敬されている立場じゃないか。

だから一度話し……」

 

「五月蝿いなぁ。早く死んでよ?」

 

「ミ……ミカ?」

 

「私より幸せそうに生きている時点で……

死んで貰うしか選択肢はないんだよ☆」

 

ミカの様子がおかしい。瞳孔が大きくなり眼から

大粒の涙を流し壊れた様に笑い始め全身に血が

こべりついている。その姿に思わずたじろいで

後退りしてしまうが彼女は獲物を捕捉したかの

ようにゆっくりと近寄ってくる。

 

「あっはははは!!!!」

 

「ひっ……!?」

 

変わり果てた友人の姿に脚がすくんでしまい

身体は震え恐怖を感じている。逃げなければと

頭では理解しているのだが動けない……

 

「(ユメ……すまない……)」

 

心の中で死を覚悟して眼を閉じてしまう。

私はもうミカに撃たれて命を……

 

「……貴方達は誰?」

 

「誰とは心外だな。トリニティの教師である

この私を忘れたのか?」

 

「先生、セイアちゃんは無事だよ。頬に傷が

ついてるからその子に撃たれたのかもしれない」

 

「そうか。後で救護騎士団を呼んで傷の手当を

して貰うとしよう」

 

……嗚呼。どうやら私は生き延びたようだ。

さっきまで絶望の底に落ちていた世界にいる

ような感覚であったが今は希望に満ち溢れている

場所にいると錯覚するくらいに安心している。

 

「二人とも……助かったよ……」

 

「気にするな。それよりもこの状況について説明

して貰おうか」

 

「……へえ? 随分と偉そうじゃんね。

ムカつくから貴方から先に殺すね」

 

「……どうやら話が通用しないようだな。一度

冷静になって貰いたいがミカを止めるのは簡単

ではないぞ……」

 

「待ってくれ先生! 私はミカがこうなった原因

に心当たりがある。今この場で彼女と交戦する

のは得策ではない。この場を離れるべきだ」

 

「原因だと? そうか、予知夢で見たのか。

ならば一先ずはこの場から離れる事を優先し……」

 

「あはは、逃がさないよ?」

 

「戦いは避けられないようだな……」

 

「ここは私に任せて。先生はセイアちゃんと

一緒安全な場所に向かって」

 

「それは出来ない相談だ。私にとって一番安全な

場所はユメの隣だからな」

 

「そっか。それじゃあ全力で守るね♪」

 

こんな状況でも惚気をする二人に謎の安心感を

覚えつつセイアは保護された。心が壊れた魔女を

止めるべくユメはショットガンを構えて深呼吸

を開始する。三回ほど繰り返した後に彼女は魔女に

急接近をして銃を撃つ……のではなく腹を殴った。

 

「……わーお。なんで銃を使わないの?」

 

「……弾を装填し忘れちゃってたからだよ」

 

「ふうん……じゃあ私もグーで……」

 

 

弾をリロードしていなかったが故に拳と拳の対決

が始まる……前に水を差したのはトリニティの制服

を着た一人の生徒。彼女は後方からミカの背中を

撃ち、それが効いたのかミカは瞼が閉じてその場で

眠り始めてしまった。

 

「間一髪でしたわね。ナギサ様に聞いていた話では

トリニティに居るピンク髪の腕力はゴリラ以上との

事でしたので……間に合って良かったですわ」

 

「待て。お前は誰だ? トリニティの制服に身を

包んでいる様だが……」

 

「彼女はハルナだよ。最近ナギサが連れてきて

自分の姓を名乗らせるくらい愛しているゲヘナ生」

 

「そうですわ。私は桐藤……ではなく!

黒舘ハルナですの! 美食研究会という部活の

部長……ではあるのですが今はナギサ様に教育

されてティーパーティーの補佐として滞在して

いる状態でしたの。ただ……三食ロールケーキ

なんて正気ではない拷問に耐えかねてしまい

こうして脱走を図りこの場に居るのですわ。

あんな生活を続けていたら糖尿病一直線になって

美食どころの話ではなくなりますもの!」

 

「そ、そうか……私の生徒がすまなかったな」

 

「……とりあえずミカが大人しくなった以上早く

トリニティから離れた方がいい」

 

「よし。ではミレニアムにでもワープを……」

 

「なるべく生徒の居ない場所にした方がいい。

ミレニアムにもミカの様に記憶を改竄された

生徒が居る可能性が高いからね」

 

「キヴォトスにそんなところがあるのかな……

あっアビドスとかはどう? 私含めて六人しか

生徒が居ないから安全だよ」

 

「……いや、それよりも生徒が居ない自治区が

近くにある。アリウス自治区だ」

 

「アリウス……マザーがゲヘナに来る前に接触

した学園があった場所ですわね」

 

「ああ。今は無人の場所になっている筈だ。

暫くの間はそこを拠点として今後の対策を練ろう」

 

方針を決めた芸術家達も他の先生同様にアリウス

自治区へ向かうことにした。セイアとユメとついで

のハルナ。奇妙な四人組ではあるものの戦力として

考えれば他二人のチームよりも遥かに良い。




ーー魔女は役目を果たせなかったと?
構いません。単独ではその程度でしょう。
百合園セイアさんを取り逃がしてしまった責任は
取らせますがそれよりも今はこの二人ですよ。
白洲アズサ、そして浦和ハナコ。彼女達の記録を
拝見したところ素質があると判明しました。
……ええ、良き手足になってくれますよ。
それと……ゲヘナの副風紀委員長にも手足となって
働いてもらうとしましょうか。まだまだ悲劇的結末
を迎えた生徒の数が不足しておりますので。
……ですが砂の神は過去の因縁がありますので彼女を
追加するのは躊躇います。なので代わりとして
ミレニアムとSRT特殊学園に接触する予定です。
はい。全ては崇高を満たす為に。
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