アリウス自治区。そこに集うのはこの状況を如何に
打開するかを考える為に身を隠す人達だ。
既に着いていた黒服、ベアトリーチェ。そして
最後に到着したのはマエストロ一行。彼らが入り口
付近に訪れた気配を感じてベアが出迎える。
「マエストロ、こちらです」
「マダムか。此処に居るという事は……」
「はい。ゲヘナは既に……」
「……どうやらセイアの言う通りのようだな。
此処を選んで正解だった。一先ずは情報交換を
したいが……黒服はどうした?」
「彼の事は一旦気にしないでください。
とても荒れている状態ですので」
「そうか。本来ならばあいつを待ってやりたいが
今は一秒たりとも無駄に出来ない状態だ」
「……ええ、理解しております」
黒服とケイを除いて集まったメンバーで話す内容は
どうしてこの様な状況になってしまったのか?
……その答えを知っている生徒が一人いる。
「セイアよ、聞かせて貰おうか。私達をこのような
状況に陥れた犯人とやらを」
「分かった。今回の騒動を引き起こした犯人は……」
「犯人は?」
「……黒服だよ」
その言葉を聞いた周囲の人がざわつく。
黒服が犯人。セイアは確かにそう言ったのだ。
「黒服が……? 待ってください、彼はむしろ
被害者です! それにロリコンになった彼が
こんな悪事を引き起こす理由が……」
「落ち着けマダム。確かに私達の知る黒服が
この悪夢のような出来事を生み出す理由はない。
つまりセイアはこう言いたいのだろう?
……別の世界から来た黒服の仕業だと。それこそ
純粋な『悪い大人』のな」
「そこまで即座に理解するなんて流石は先生だね。
先生の言う通りこの状況を生み出したのは別の世界
から訪れた黒服が原因なんだよ。目的も理由すらも
分からないけどそれは確実だと言い切れるよ」
「……もしその黒服が犯人だとするならば目的は
単純ですよ。実験、あるいは崇高の為です。あの
ロリコンも昔はそれしか興味のない欠陥品でした」
「本来ゲマトリアというのはそれぞれの崇高の為に
集いし存在。私達のように生徒に執着している方が
異端なのだろう。だからこそ目をつけられた、
という可能性もあるがな」
「ですが犯人が分かればどうってことないですね。
その黒服をボコボコにすれば解決です」
「……確かに解決はするだろうね。でも……
このままだと悲惨な未来になってしまう。
星の光が永遠に失われてしまうんだ」
「星の光……?」
「……すまない。セイアは時々難しい言い回しを
使う生徒なんだ。今の言葉の意味は……」
「……ホシノちゃんが死ぬって事……?」
「……そういう事だよ。経緯は分からない。
だけど何も対策せずに解決しようとしたら確実に
そうなってしまう」
小鳥遊ホシノの死。もしそのような出来事が本当に
起きてしまったら……絶望なんて言葉では済まない
レベルで恐ろしい事態に発展する。
「それだけは避けなければならないな……絶対に
生徒を死なせる様な事態は起こしてはいけない。
何としてでも対策を練るんだ」
「対策といっても一体どのような事をすれば……」
「それを考えるのが我々教師の役目だろう!
弱きになるなマダム!」
「……そうですね。何としてでもホシノを救って
一緒に添い寝とお風呂に入るのです!」
「その原動力はおかしいが良く言ったマダム!
という訳で此処からはどの様にこの窮地を
乗り越えるのかを話そうじゃないか」
「そうですね。とはいえこちらの戦力が絶望的
なのは変わりがありません。ケイ、ヒナ、リオ、
フウカ、ユメ、セイア、ハルナ……いくら何でも
七人で立ち向かうには無謀過ぎます」
「それだけしかこちらの味方が居ないのか……
ゴルコンダとシャーレの先生に連絡はしたのか?」
「連絡はしました。ですがゴルコンダからは返信が
無くシャーレの先生はセクハラが原因でまた牢屋に
捕まっているとかなんとか……」
「ゴルコンダはともかく先生がクソすぎる……!
何故あんなのが先生として生きていけるのだ!」
「この際別の世界の先生と交換して……!?
そうですよマエストロ! 別の世界の先生ならば
協力してくれるのではありませんか!?」
「……ああ、そういえばマダムには伝えていない
事があったな。実は最近世界を繋ぐゲートが
不安定になっていたんだ。原因が分からず解明
出来ていなかったが恐らく黒服に先手を打たれた
と考えるのが妥当だろう」
「……本当に嫌な奴ですね。ロリコンになった
彼を見習ってほしいですよ」
「誰もロリコンを見習いたくはないだろう」
「それもそうですね。……まさかとは思いますが
八方塞がりなのでしょうか……正面特攻して
大量に居る生徒達を相手にするだなんて……
このまま逃げてしまいたい気分ですよ」
「そうだな……」
前向きに考えようにも案を出せば出す程絶望に
打ちひしがれてしまい自然と重くなる空気。
そんな状態の中二つの足跡が聞こえてくる。
それはアビドスに出掛けていた黒服とケイの足音
であった。彼らを見て無事を喜んだ……ものの
黒服の様子がおかしい。魂が抜けた様にぐったりと
してケイに担がれている姿で現れた。小さな声で
何かを呟いており明らかに異常をきたしている。
「只今戻りました」
「あ、ああ……」
「その……黒服は大丈夫なのですか?」
「生きてはいるので大丈夫です」
「少し休ませてやってくれ。見るからに精神が疲弊
しきっている。そのままベッドに運んで……」
「……今後の策を考えているのでしょう?
私は構いません。話を続けてください」
「休める時には休んでおけ。そんな状態では話を
聞いてる最中に倒れてしま……」
「話を続けろと言っているのです!!」
黒服が叫んだ途端、周囲は静寂に包まれた。
混乱しているのだ。彼が声を荒げて叫んだ事に。
それと同時に皆理解した。今の彼は余裕がない。
「……黒服。一旦休んで落ち着くべきだ。
事態は想定しているよりも深刻なんだぞ」
「ええそうですよ! ホシノが攫われてしまい
ましたからね! ご丁寧に愛を誓った指輪まで
割られてしまいましたよ!! 絶対に犯人を
見つけ出して殺してやります!!」
「父! 一度冷静になってください!
頭に血が昇りすぎています!」
「ケイ、離しなさい! 早くホシノを攫った奴を
殺しに行かねばなりません!」
「ですから落ち着いて……」
「私は落ち着いている! 離せ!」
「いい加減にしてください!」ドスッ
「うっ……」
ケイが放った渾身の一撃が腹部に当たり黒服は
意識が遠のいていった。完全に気絶した彼を運び
ながらこちらを向いて
「……ごめんなさい。来たばかりで申し訳
ありませんが私達は一度休んできます」
と一礼をしてベッドに運び始めるケイ。
「……マダム」
「はい……まさかあそこまで黒服が取り乱すなんて
思いもしませんでした。余程ホシノの事が大切なの
でしょうね……彼の為にも出来る事はやらねば」
「そうだな。……そうと決まれば出来る事から
始めよう。私は何とか世界を繋ぐゲートにアクセス
出来ないかを探ってみよう」
「私はどうにか戦力になってくれそうな生徒を
探してみようと思います。もしかしたらリオや
ハルナのように私達の味方をしてくれる生徒も
何人か居るかもしれません」
「分かった。なるべく交戦は避けておけ。
それと元凶である黒服の居場所を特定したい。
もし情報が得られそうなら探してみてくれ」
「分かりました」
「……黒服の為にも何としてもホシノを救うぞ」
「フウカさん! ああ……懐かしいですわ……」
「……ハルナ? なんであんたがここに……
もしかしてこの人達と協力して何か悪事でも働く
つもりなの!?」
「悪事だなんて……三食ロールケーキ以上の悪事を
私は知りませんわ!」
「何それこわ……って三食ロールケーキなんて栄養
が偏るじゃない。あんたただえさえ少食で栄養失調
になりがちなのに大丈夫なの?」
「多少ふらつく程度ですわ」
「重症じゃないの。……仕方ないわね。即席だけど
栄養があるものを作ってあげるから私の縄を
解いてくれる?」
「フウカさん……ありがとうございますわ」
「……あとさっきの人も見た目は怖いけど中身は
私の知ってる先生に似てるし軽く食べれるものを
差し入れでもしようかな……」
「? フウカさんの想像している先生はマザー
ではないのですか?」
「誰よそれ。先生って言ったらシャーレの人に
決まってるじゃない。本当に大丈夫なの?」
「え、ええ……多少は問題がありますがなんとか……」