例えばこんなゲマトリア   作:スカイブルーホワイトヘアー

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あの日からずっとこの為だけに

マエストロとリオ、ユメの三人は別世界への扉に

再度接続出来るようにする為、ミレニアム奥地の

廃墟……かつてリオがアリスを破壊しようとして

失敗に終わったあの場所に訪れていた。そこに

強力なエネルギーの反応があるからだ。道中に

謎の岩盤が設置されていたり壊れたロボット

(リオ曰くアバンギャルド君)が放置されていたり

理解は追いつかないものの幸いにも道中の妨害は

なく此処までは問題なく進めた。そして反応が強く

なったかと思えば奴が姿を現した。

 

「クックック……お待ちしておりましたよ、

同志マエストロ」

 

目の前にいる黒い大人が不敵に笑っている。

その雰囲気に懐かしさを覚える程に久しいが

かつての悪い大人である黒服そのものだ。

何故彼が此処に居るのか。それはエネルギーの

反応源となっているのは黒服であったから。

 

「初めまして、と言うべきか?」

 

「ええ。実に不思議な感覚です。この眼で貴方を

見るまではこのような可能性があると信じては

おりませんでしたので。必要がないと思いますが

念の為に自己紹介を。……ああ、失礼しました。

私個人に名前はないのでしたね。とある神秘の

保有者からは黒服と呼ばれておりまして。是非

そう呼んでいただければと」

 

「そうさせてもらおう。それでその黒服が私達に

何の用なんだ?」

 

「惚けても無駄です。『魔女』が百合園セイアを

処分出来なかった時点で貴方達の身に起きている

状況の犯人が私だと伝わっている筈。やはり子供

は使い物になりませんね」

 

「……おい。私の生徒を魔女だなんて呼ぶな」

 

「何故? 貴方にとっても忘れられた神々

である生徒は搾取対象でしかない。その根幹は

変化していない。何故そのように自らの地位を

下げてまで彼女達の肩を持つのです?」

 

「……私が生徒に崇高を見出したからだ。彼女達

との交流を得て己の求めた崇高に辿り着いた。

理由なんてそれで充分だろう」

 

「ククッ、結構です。我々は個々が異なる崇高を

見出しそれを追い求める組織。貴方が生徒に崇高

を見出し執着をするのであれば何も言いません。

それが間違っているとも正しいとも私に決める

権利はありませんので」

 

「ならば何故この様な事態を引き起こした?

私が生徒に執着していると理解した上で何故?」

 

「理由ですか? 実験。それ以外に言葉は必要

ありません。私は崇高を追い求める者であり

研究者でもあります。知りたくなったのですよ。

このタブレット端末を効果をね」

 

憎たらしい笑みを浮かべてこちらにタブレット

端末を見せつけてくる黒服。……ただの端末

にしか見えないそれに何の意味が……

 

「……『シッテムの箱』なのか? 何故黒服が

それを所持している……まさか先生から奪って

逃げ隠れるようにこの世界に来たのか?」

 

「違います。この端末は砂漠に割れた状態で放置

されていたのを修理したに過ぎません。その為

多少のデータは消去されてしまいましたが」

 

「砂漠にシッテムの箱が割れた状態で……?

待て、それはまさか……」

 

「はい。恐らくそちらの……ユメという方と

接点がある先生が遺したものでしょうね」

 

「……やはりそうだったか」

 

あの日黄昏の領域でユメの先生と出会った時。

その際に箱について聞いておくべきだった。

まさかこんな奴の手に渡っていたとは……

 

「……先生。あの黒服は消していいよね?

全ての元凶なんでしょ? それに……その端末は

あいつが持っていて良いものじゃない」

 

「そうだな。だが落ち着くんだユメ。今この場で

戦いを始めるべきではない。マダムが今戦力を

集めている最中なんだ。だからもう暫く……」

 

「この端末が欲しいのでしたら構いません。

実験が終了次第お渡し致します。今操っている

生徒達も元に戻します」

 

「それなら話が早い。私としても無謀な争い

を起こすつもりはない。それに元に戻すのならば

ホシノも無事なのだろう」

 

「ほう? 貴方も暁のホルスに興味が?

ですが彼女の身柄を返すつもりはありません。

何故最大の神秘を保有しているホシノさんを

手放さなければならないのでしょうか」

 

「先程と言っている事が違うぞ? 操っている生徒

を元に戻すという話だろう?」

 

「ご冗談を。私はこうも発言しましたよ?

実験が終了次第、とね」

 

「貴様……!」

 

「ふむ。その反応から推察するに納得をして

頂けていない様ですね。では仕方ありません。

私の実験の邪魔をするのであれば争いは絶対に

避けられませんので。……ですがこちらもまだ

全ての記録を紐解けている訳ではありません。

ですので貴方達にはこの実験体との戦闘をして

頂きたいと思います」

 

そう告げてシッテムの箱を操作し始める黒服。

その間にユメが黒服に向けて発砲するも何故か

弾の軌道が逸れて一発も命中していない。

 

「随分と活きが良い様で……ではマエストロ。

この子を可愛がってあげてくださいね」

 

言いたい事だけ言って黒服はクククと笑い

その場から消えていった。場に残されたのは

アリスだ。しかしその眼はケイのように赤く

染まりこちらを見下す様に眺めている。

 

「アリス……? いや、ケイか?」

 

『否定。私は忘れられた神々を率いる

王女として存在する個体、AL-1Sです』

 

「王女……あの時私がアリスを破壊しようと

した理由……まさかこの様な形で誕生するなんて

想定外よ……」

 

「……成程な。あの黒服は最悪な奴だ。

あの天真爛漫で純粋だったアリスをこのような

醜い存在に変えてしまうとは……」

 

「許せない……これが実験だなんて馬鹿げてる

あいつは私がよく知る最低最悪の悪い大人」

 

「そうだな。生徒を自らの私欲を満たす為に

利用する非道行為は見逃せない。だがまずは

アリスを止めなければ……」

 

「私が止めるよ。差し違えるつもりでね。

だからその間に先生とリオちゃんはアリスちゃんを

元に戻せる方法を探して」

 

「……分かったわ」

 

「すまない……任せた」

 

『……理解出来ません。何故人間は自らの

命を捨てる行いをするのでしょうか』

 

「夢を守る為、かな。……カッコつけすぎかも」

 

『戯言を。戦闘を開始します』

 

操られたアリスとユメの戦闘が始まってしまう。

これ以上被害が大きくなる前にどうにか解決策を

見出さなくてはならない。

 

「アリスをハッキングして行動を抑制するか?

しかし土壇場でそれが出来るのかどうか……」

 

「駄目よ。先程からずっと試しているけれど

手数が足りないわ」

 

「そうか……だが解決策を見つけねば……」

 

ユメとアリスの実力は一見拮抗している様に

見えるが恐らく無尽蔵の体力を持っているアリス

の方に分がある。このまま勝負が長引けばユメが

劣勢になるのは明白。それまでに何とか……

 

「……先生、大人のカードは持っているかしら?」

 

「どうした急に。確かに所持してはいるが……」

 

「シャーレの先生は大人のカードで奇跡を起こすと

聞いた事があるの。貴方も出来るのでは?」

 

「そんな都合のいい話はない。あれはあくまで

シャーレの先生だけが出来る技だ。ただの教師で

ある私が出来る道理がない」

 

「そうかしら? 貴方の志はシャーレの先生にも

劣らぬものだと思うのだけど」

 

「土壇場で奇跡など起こせるか。……だが今は

そんな悠長な事を言っていられない。分かった、

試すだけ試してみよう」

 

マエストロは大人のカードを取り出して数秒迷った

後に空高く掲げて願う。この状況を打破する助力を

ユメを助けてくれる事を願って。

…………

………

……

「……やはり何も起きないか。そう都合良く協力

してくれる奴なんて……」

 

「ーー此処に居るよ」

 

「なっ……」

 

それは突然現れた。灰色の髪を靡かせて黒いドレス

を見に纏い空色のヘイローが浮いている少女が。

 

「まさかお前は……」

 

「後は任せて」

 

ーーそれは本来起こり得る筈のない可能性。

何故彼女が此処に居て力を貸してくれるのか……

 

『イレギュラーな存在を検知しました。

即刻処分をします』

 

「どうして君が此処に……」

 

「……ん、恩返し」

 

かつて恐怖に染まり永遠に一人で生きる運命を

定められていたが二人の大人によってまた未来を、

大切な者を得た。その恩を返す為に彼女は……

砂狼シロコは此処に存在していた。




シロコテラーを出した理由はこうしたかったからです
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