砂狼シロコ。私が着任して最初に出会った生徒
学校の借金を返済する為に銀行強盗を計画したり
少しやり方はズレているけど学校と仲間が大好きな
普通の女の子。そんな彼女は今悪い大人に利用され
絶望の記憶を埋め込まれている。このまま何もせず
黒服を倒しても埋め込まれた記憶は元に戻りこの
悪夢を見た事すら忘れるのかもしれない。けれど
彼女が苦しんでいる姿は耐えられない。だから私は
シロコを救う。彼女に限った話ではないのかも
しれないけれど……
「"シロコ、私の話を……"」
彼女と対話しようとした時『カチャ』という音が
聞こえた。ーーこちらに銃を構えている。
あの日と同じ小さな拳銃を。
「………」
先程黒服が言っていた。奴の命令に忠実に従って
いる。今の彼女はただ命令を聞くだけの存在
なのだと。その吸い込まれる様な瞳で見つめて
くるが彼女に対して自分はとる行動は決まって
いた。
「"撃っていいよ"」
「……えっ」
「"私があの日事故に巻き込まれてからシロコは
ずっと一人で頑張っていたんだよね。肝心な時に
側に居られなかった私を憎むのは当然だよ。
だから受け入れるよ"」
「なんで……」
「"それが大人の責任だからだよ。撃ってシロコが
満足するのであればそれでも構わない。いつでも
その引き金を引いて良いからね"」
「先生……」
本当は理解していた。撃っていいと伝えても彼女が
その引き金を引ける筈がないと。あの日も君は銃を
降ろして涙を雨で隠しながらこう言っていた。
「……撃てないよ」
「'シロコ……"」
「私は先生を憎んでなんていない……
命令させていても撃ちたくない……
私にはもう先生しか居ないの……」
彼女の身体は震えている。その姿を見て思わず
いつもの調子に戻ってしまいそうになるが今は
ふざけてなんかいられない。ただ寄り添う様に
彼女の頭を撫でてこう伝えるだけでいい。
「"シロコは悪くないよ"」
あの日彼女が泣いていた時この一言を伝えられたら
少しでも腕が動いて手を伸ばせたのなら
もし爆発に巻き込まれていなかったら
君がその記憶を背負う必要はなかったんだ
「"……ごめんね。私が弱いばかりにシロコをこんな
酷い目に遭わせちゃって……"」
「先生……私……私は皆を……」
「"……うん。ゆっくりで良いよ。……そうだ、
膝枕でもしてあげようか?"」
「……お願い」
冷たい床に正座をするとこちら側に顔を向けて
目を閉じ休み始めるシロコ。……この選択は
きっと間違っていなかったのだろう。大丈夫だよ。
これは悪い夢。君が持つ本来の記憶とは違う。
だから今は休んで。目が覚めたら学校の皆と一緒に
また楽しく過ごせる筈だから。それまではこうして
君を支えさせてもらうね。今だけはまだ君の先生で
いれるから……
「"黒先。この子の為にもホシノを……皆を絶対に
救出するんだよ"」
時折寝息をたて始めた彼女の頭を撫でつつ吉報を
待つ。後の事はこの世界の先生に任せよう。
「何とか片付いて追いついたのはいいが……
何だあれは? シロコがまた元の姿に戻って……
違う、まさか先生とシロコの娘か!? しかしその
成長速度は常軌を逸している……何故なのだ!!」
「"うるさいよマエストロ"」
「すまん」
「"ほら早く行って。黒先達なら先に居るから"」
「黒先?」
「"黒服が二人居ると呼び方に困るからロリコンの方を
そう呼ぶ事にしたんだ"」
「そういう事か。理解した。……ところでそのシロコは
先生の娘なのか?」
「"そんな訳ないじゃん。私は生徒に手を出す様な
理性が抑えきれないゲマトリアじゃないよ"」
「そうだな。黒ふ……黒先とマダムもその精神を
見習ってほしいものだ」
「"君もだけどね"」