恋する乙女ホシノ
黒服「愛していますよ、ホシノ」
ホシノ「うへぇ!?い、いきなり何を……」
黒服「貴女は私のものです。一生側に居てもらいます」
ホシノ「せんせ…顔が近いよ…///」
黒服「ホシノ……」
ホシノ「あぅ……まだ心の準備が……///」
ホシノ「出来てないよー!!!」ガバッ!
………当然夢オチだった。先生だと思っていたものは昨晩抱きしめて寝た鯨のぬいぐるみ。ここ最近はずっとこんな夢ばかり見ている。
昨日はデートする夢、一昨日は誰もいない教室で……
ホシノ「……うへへ///」
小鳥遊ホシノ3年生。彼女は今、恋をしている。
最近になって疎かにしていた身だしなみに気をつけ始めた。シワひとつないワイシャツにしっかりとネクタイを締める。鯨柄のヘアピンも付けてみる。先生は可愛いと言ってくれるかな、なんて想像をしながら。
ホシノ「……ありゃ、ちょっと早く出すぎたかな」
腕時計は6時半を指している。
ホシノ「ま、いっか。その分先生と過ごせる時間が増えるし」
そう呟いて1人静かな通学路でステップを踏みながら学校に向かう。夏の日差しが気にならない程浮かれている。恋は盲目とはこの事なのだろうか。
ホシノ「……あっ!」
校門が見えてきた辺りで駆け出した。
そのまま勢い良く抱きついて「先生おはよう!」と笑う。
黒服「おやホシノ。今日も早いですね。おはようございます……ん?」
ホシノ「先生?そんなにジロジロ見てどうしたの?」
黒服「いつもより可愛らしいですね。そのヘアピン、お似合いですよ」
ホシノ「?!うへぇ……///」
可愛い、似合っている。その二言で私は満たされた。早起きして頑張った甲斐があったというものだ。
黒服「ただし……朝食を抜いてきてますね?いくら身だしなみを綺麗にしても基本が出来ていないことには評価は出来ませんよ」
ホシノ「うっ……」
黒服「……朝食を2人分用意しています。皆が登校してくるまで時間もありますし今日もモーニングに付き合ってもらいますよ」
ホシノ「いつもありがとねー」
黒服「外は日差しが強いですし涼みながら頂くとしましょう」
ホシノ「……うん///」
自然と差し伸ばされた手を握ってついていく。どうしよう、手汗とか大丈夫かな……
ーーー校内黒服の部屋(実験室)
黒服「本日はホシノの栄養バランスを考えてこちらの……」
そう言って献立を説明してくれる彼。先生と朝食を食べる。これも私のモーニングルーティンの一つになっていた。それにこの豪華なモーニングは先生の手作りなのだ。私が朝食を食べない事を改善しようと先生が考えた結果毎日一緒に食べることになった。しかもどの料理も私好みの味付けになっている。
黒服「……聞いているのですか?」
ホシノ「……あっ……ごめん先生、ぼーっとしてた……」
黒服「集中力がありませんね……ですが朝食を食べれば改善されるでしょう。それでは……」
「「いただきます」」
ーーー数十分後
ホシノ「……♪」
食器を洗いながら先程食べたものを思い出す。どれもこれも私の事を考えて作ってくれたと思うとついにやけてしまう。
ホシノ「……せーんせ、洗い終わったよー」
黒服「いつもありがとうございます。でしたら皆が来るまで自由時間に……」
ホシノ「じゃあ…いつものお願い」
黒服「……仕方ありませんね。どうぞ」
ホシノ「それじゃあ失礼しまして……うへぇ///」
最近のマイブーム。それは先生の膝に座る事。今までだと恥ずかしくて出来なかったけど今は違う。それよりも側に居たい。ただ後輩達に見られるのは恥ずかしいので2人きりの時しか出来ない。
ホシノ「えへへ……落ち着くなぁ……」
黒服「それにしても……最近の貴女は随分積極的になりましたね」
ホシノ「だって……聞かれちゃったからね。もう隠す必要もないかなって」
黒服「自分に正直になれるのは素晴らしい成長ですよ。立派になりましたね」
ホシノ「えへへ……///私がこうなれたのは先生のおかげだよ」
黒服「そこまで素直な感情をぶつけられると困りますね……」
ホシノ「先生、もしかして照れてる?可愛いところあるじゃーん」
黒服「……あまり揶揄うようであればこのまま拘束して後輩達にこの姿を見てもらう事になりますよ?」
ホシノ「それは勘弁してよぉ……」
ーーー皆が登校してきた後
ホシノ「せんせ、この内容だとこっちの方が……」
黒服「確かに。でしたらこちらもそのように……」
セリカ「………」
ノノミ「セリカちゃんの言いたい事、分かりますよ」
アヤネ「私も何となく……」
シロコ「私も」
「「「「(ホシノ先輩、黒服と距離近くない?」」」」
セリカ「あんなに露骨だったかしら……」
ノノミ「無意識のうちに近づいてる……みたいなやつじゃないですか?」
アヤネ「触れないでおいた方が良さそうですね……」
ホシノ「ちょっとー皆聞いてるのー?砂漠の対策を考える大事な会議なんだよー?」
セリカ「き、聞いてるわよ(やり辛いわね…)」
ノノミ「ホシノ先輩が珍しくやる気になってるなぁって話してたんですよ」
ホシノ「そうなんだよー原因は分からないけど最近やる気に満ち溢れていてねー……遂に先輩としての自覚が出てきちゃったかなぁって」
セリカ「(違う違う)」
シロコ「(多分そうじゃない)」
アヤネ「(それは……黒服さんに良いところを見せようとしているのでは……)」
ノノミ「(つまり『愛』ですね)」
アヤネ「(何故そこで愛!?)」
黒服「……当分の活動方針は決まりましたね。一度昼休憩を挟みましょうか」
セリカ「もうお昼なのね。そんなに時間が経ってないように感じるけど……」
ノノミ「お昼ご飯ですね〜♪」
シロコ「ん、空腹」
皆がゾロゾロと部屋を出ていく。この部屋から食堂は100M程離れている。
ホシノ「………」
目の前には先程まだ先生が座っていた椅子がある。誰も見ていない事を確認して腰をかけてみた。
ホシノ「……うへぇ///」
ほんのり残っている温もりと先生の椅子に座っているという背徳感を同時に堪能している。
ホシノ「……こんな感じに肘を置いて……ククッ、愛していますよ、ホシノ……なんてね」
我ながら恥ずかしい事をしていると感じて途中でやめてしまった。慣れないことをするもんじゃないね。
ホシノ「それじゃあ皆が戻ってくるまでここでお昼寝でも……」
黒服「ホシノ」
ホシノ「うへぇ!?」
黒服「今度は昼食を食べないつもりですか?そうはいきませんよ。食堂に連行します」
ホシノ「1人で行けるからだいじょう……」
ぶ、と言い終わる前にお姫様抱っこをされた。……お姫様抱っこ?さっき食堂に連行って……?
ホシノ「ふぇ///」
黒服「貴女は自分を労わる事を覚えなさい」
ずっとこうしていたいけれど後輩に見られたらなんて言われるか分からない。でもお姫様抱っこはやめて欲しくない。こんなにも悩ましい選択をしなければならない日が来るなんて……
ホシノ「……分かった。食堂に行くから降ろしてよ……」
黒服「その言葉を待っていましたよ」
結局私は後輩に見られるのを避ける為にお姫様抱っこを諦めるという苦渋の決断をした。
ーーー放課後
黒服「それでは皆様本日もお疲れ様でした。気をつけてお帰り下さい」
挨拶と共に皆が下校する中小鳥遊ホシノは座っている黒服に後ろから頭を乗せていた。
黒服「……何をしているんです?」
ホシノ「2人きりだし……これくらい許してよ」
黒服「まあいいですけど……そうでした、ホシノ」
ホシノ「どしたの先生」
黒服「付き合ってもらえますか?」
ホシノ「ヴェ」
思わず変な声が出た。え、この人今なんて言ったの?付き合って?恋人って事?
ホシノ「(いやいや落ち着け小鳥遊ホシノ。これは買い物に付き合ってとかそういうやつだよ。変な期待をしたらだめだよ。……でも先生が私を裏切るなんて事をするかな。いやしない。つまりこれはそのままの意味!?もっとロマンチックなシチュエーションで告白して欲しかったけどこれはこれで悪くないねぇ。……さては先生も遂に私の魅力に気づいて独占したくなったんだよね?んもう、ちょっと遅いんじゃないかな。まあでも私は先生のそういう所も好きだから許してあげるんだ。そうと決まれば返事をしないと!)えっと…不束者ですが……」
黒服「ありがとうございます。実は明日連邦生徒会から呼び出されていて代表の生徒1人を連れて……」
ホシノ「………」
黒服「……ホシノ?」
ホシノ「先生のばかぁ!」ガンッ!
……恋する乙女の苦難はまだまだ続きそう