「おはよう先生」
「"おはよう。今日も一日よろしくね、シロコ"」
「ん、任せて」
それはいつも通りの日常。記憶が蘇ったとしても
変わる事のない書類整理とその当番。
「"あれから何か変わった事はあった?"」
あれ、というのは先日の事件の話。私達に居場所を
くれた恩人達を助けた。その際に封印していたらしい
恐怖に染まっていた頃の記憶を私は取り戻した。先生
はそれのせいで私が苦しい思いをしていないか心配を
してくれているのだろう。……正直な所かなり辛い。
大好きなものが次々に離れていって最後には孤独に。
昔の事と割り切るのには重すぎる内容だった。だけど
先生にこれ以上心配はかけたくない。それにこの嫌な
記憶を取り戻したお陰で大事な事も思い出せた。
「アビドスの皆と……先生がもっと好きになった」
「"そっか。もし困っている事があれば言ってね"」
「……ん、分かった」
困っている事があれば。先生はいつも優しい言葉を
かけてくれる。私が困っているのは貴方の事なのに。
「(先生が好きって今言ったんだけど……)」
この人は恋愛に対しての質問はいつも曖昧に答える。
前にも黒い女狐に告白されていたが
「"生徒と恋愛関係を持つ事はできないよ"」と
断る。そういう最中で出た結論は襲うのが早いと
振られた生徒が仮眠室で寝ている先生を襲いに
来た事件が何度も発生していた。初めて襲いに来た
のはミレニアム生、そこからトリニティ、百鬼夜行
と様々な学園からの生徒が性欲に身を任せて先生の
貞操を奪いにくる。それを退治するのが私の役目。
完膚なきまでに叩き潰して反省部屋送りにする。
……時々先生から「"やりすぎはダメだよ"」って
注意されるけど。先生はもっと危機感を持った方が
いいと思う。……でも今日は私が反省部屋に行く
かもしれない。
「先生」
「"どうしたの?"」
「愛してる。私と結婚して欲しい」
言った。言ってしまった。もう後には引けない。
「"……本気なんだね"」
「うん」
「"……少し考えさせてほしい"」
そう言って先生は席を立ち部屋から出ていった。
残された私はもし振られたら……と考えて胸が痛く
なりながらも書類整理を再開した。
ーーー
「"どうしようマエストロ! 恐れていた事態が発生
してしまった!! 助けて!!"」
『落ち着け。何が起きたのか説明してくれ』
「"シロコに結婚して欲しいって告白されたんだ"」
『そうか。今度赤飯を用意しておこう』
「"ありがとう。……じゃなくて!! 冷静になって
考えてマエストロ!! シロコはまだ未成年!!"」
『ロリコンになるだけだろう』
「"馬鹿なの!?"」
『ゲマトリアだが』
「"ふざけてる場合じゃないんだよ!! どうすれば
いいか一緒に考えてよ!!"」
『どうするも何も応えてやれば良いだろう。大人の
責任をとってやればいい』
「"そういうけどさぁ……私先生なんだよ? 生徒に
手を出すのも生徒と結婚するのも重罪だよ?"」
『それならこう言えばいいではないか。……とな』
「"そ、それならまあ……ありかもしれない。
分かった、シロコに伝えてくるよ"」
『ああ』
ーーー
「"お待たせシロコ"」
「ん、待ってた。答えを教えて」
「"うん。……やっぱり私は生徒と恋愛は出来ない。
シロコには申し訳ないけど今は結婚は難しい"」
「………」
「"だからシロコが無事に卒業して先生と生徒の関係
じゃなくなった時まで気持ちが変わってなかったら
また告白して欲しい。その時はシロコの想いに応える
って約束するよ"」
「……ん、言質取ったよ。約束、だからね」
シロコは結果的に振られてしまった。但し未来への
期待を胸に抱けた。将来、先生と生徒の関係から
変わった時、それは夫と妻になっている……
かもしれない。
そんな訳がない