実体を持ってから数日が経過した頃。梔子アロナは
自らの身体を動かす事に慣れてきていた。最低限の
日常生活は不自由なく行え……ただし食事等の人が
生きる為に必要な行為をする必要があるので箱の中
に閉じこもっていた時よりは不便ではある。
「アロナちゃん、おっぱい吸う?」
「何故そのような行為をする必要が?」
「子供はお母さんのおっぱいを吸うって前に雑誌で
読んだんだ。さあ遠慮なく吸っていいよ!」
「吸いません。子供とはいえ産まれたばかりの乳児
辺りしか母乳を吸う行為をしません。お母さんの胸
を好む変態は別ですが。それこそ頭が二つあって
「これなら同時に吸えるな」と嫌悪感を抱くに
相応しい発言を行った方が変態に該当します」
「そっか……」
何故残念そうなのか。あまり理解したくはない。
実体化してからというもの親は無駄な知識ばかり
教えてくる。親の身体にあるホクロの数なんて何に
使えばいいと言うのだろうか?
「あ、そうだアロナちゃん。そろそろ今日の夜ご飯
の食材を買いに行くけど一緒に行く?」
「否定。私は今から休息、もとい昼寝をします」
「………」
「……何ですかその眼は」
「一緒に行こうよぉ〜さーびーしーいー!!」
「……仕方ないですね」
「やったー! アロナちゃん大好き!」
駄々をこねる姿はまるで子供だ。愛は感じるものの
親ならばもっと落ち着いて行動して欲しい。
「当然手は繋いでいこうね!」
「……貴女の好きなように」
ーーー
そう、これが今朝までの記憶。ユメと買い物をしに
出掛けた。その後の記憶は途切れており、今は縄で
縛られて暗い部屋に閉じ込められている。
「"起きたかな?"」
一番聴き慣れた大人の声。但し記憶している情報
から僅かながらに相違している為この先生も私の
知る先生ではなさそうだ。部屋の雰囲気と先生の
態度でこの状況を推察する事が出来た。どうやら
私は先生に誘拐されたらしい。
「"びっくりしたよね。ふとミレニアム近辺に用事が
あったからユウカでも抱きに行こうと思ったら……
こーんな癖に刺さるロリ、つまり君が居たんだ。
気づいた時には誘拐していたよ"」
「………」
「"君の言いたい事は分かるよ。誘拐は犯罪だ!
って言いたいんだよね。でも残念ながら私はそう、
シャーレの先生なんだよ。つまり何をしても良いと
連邦生徒会から許可を得ているんだ"」
「………」
「"見た事のない制服だけど……えっちなら大丈夫!
あ、黒タイツかニーソかだけは確認させてもら"」
「先生」
「"どうしたの? 前戯はいいから本番的な奴?"」
「その姿と声でそんな事を言わないでください。
それと……あなた死にますよ」
「"私が? 残念ながら私は先生だよ。もし私が
居なくなったらキヴォトス中の生徒が悲しんで
暴走してしまうかもしれない。そんな状況は誰も
望んでいない。つまり私は死なないんだ!"」
「普通に殺すが」
「"うわどっから現れたの!?"」
「ゲマトリアだぞ? それはどうだっていい。
貴様私の娘に何をしているんだ?」
「"えっ"」
「返答によっては例え貴方が先生であっても私達は
命を奪います」
「"うおでっか……"」
「貴様私の妻にも欲情したな?」
「"それは仕方ないでしょうが! こんなにでかい
たわわなんて滅多にお目に掛からないんだよ!"」
「ユメ、遺言を聞いたぞ。やってくれ」
「はい。ゴミ掃除を始めましょうか」
「"お慈悲〜!!"」
「ありません」
「"そ、そんなぁ! 一度くらい良いじゃないか!"」
「大人なら『責任』をとってください」
残念ながらこの世界の先生は屑人間のようです。
縄で縛られた私はあっさりと親に救出されました。
ーーー
「こ゛め゛ん゛ね゛ア゛ロ゛ナ゛ち゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ん゛!!!!!!!!!」
「強く抱きしめないでください。苦しいです」
「わ゛た゛し゛か゛め゛を゛は゛な゛さ゛な゛け゛れ゛ば゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!!!」
「別に何もされてませんので大丈夫ですよ」
「ほ゛ん゛と゛に゛……?」
「はい」
「少し目を離しただけで誘拐するとは……
仕方ない、少しシャーレの先生を教育して
最低限の常識は覚えさせないといけないな」
「とりあえず今はシッテムの箱を没収してまた
監禁しておけばいっか」
「そうだな。どうせならその箱の方にもいる筈の
アロナを実体化でもさせて姉妹にでもするか」
「……理解しました。この世界の悪い大人は
こうして粛清されていくのですね」
唐突にアロナの脳内には「そういうこった!」
と叫ぶ変な人が浮かんだとかいないとか。