花見もひと段落して帰宅する人も現れる中、マエストロは黒服とホシノに呼び出されて二次会のようなものに付き合わされていた。内心早く帰ってユメといちゃつきたいと思いながら。
「……それで? わざわざ私だけを呼び出して何を聞きたいと言うのだ? あまり妻と娘を待たせたくないのだが」
「そんな時間は取らせません。さあホシノ、例の物を彼に見せて下さい」
「うん。……マエさん、これを見て」
ホシノから差し出されたものは手帳。内容から推察するに自身の妻ではなく彼女の先輩だったユメが待っていたものだろう。
「遺品整理をしている際に見つけましてね」
「そうか。しかし私に見せたところで何の意味があると言うのだ? 私の愛しているユメとは違うユメの記録を見たところで……」
「次のページ」
「次だと?」
次のページには『頭の二つある先生』と書いてある。……頭が二つある先生?
「ほう、これは興味深いな……私以外にも頭が二つある教師が存在していたとはな」
「いやいや、マエさんの事だよね?」
「何を言っているんだ? 私はアビドスに介入した記憶も無ければユメとも出会った記憶もない。当時はミレニアムとトリニティに接触して信頼を得る事に尽力していたからな」
「じゃあなんで先輩の手帳にこんな事が書いてあるの!? 私に言えない事でもあるの!? 先輩に口止めされているとか!!」
「ホシノ」
「あっ……ごめん」
「気にしなくて良い。今の必死さを見てホシノにとって亡くなったユメの存在が如何に大切であったのかを理解出来た。……だが本当に知らないのだ。仮に私の事が書かれているのかもな。力になれずすまない」
「……うん、分かった。ありがとうマエさん」
「引き留めてしまい申し訳ありませんでした。今後もより良い関係を築いていきましょうね」
「ああ」
その後は少し他愛のない話をしてそれぞれ帰路に着いた。一人夜の街灯に照らされて歩くマエストロは家族が待つ自宅へ足早に向かった
ーーー
「帰ったぞ」
「"お帰りー"」
「……何故まだ居るのだ?」
「"本当は帰ろうとしたんだけど……今夜はシロコと恋バナするんだってユメが言ってたからさ。だから明日の朝まではお世話になろうかなって"」
「先生なら構わんが……」
「"ありがとう。……それで黒服とホシノに呼び止められた理由は何だったの?"」
「そうだな……」
ーープレ先に説明中ーー
「"へえ、過去にもユメに接触を……ん?」
「どうした?」
「"その接触したユメって今シロコと話してる子じゃないの?"」
「ああ、そういえば言ってなかった気がするな……実は私のユメも他の世界から訪れた存在なんだ」
「"???"」
「……これを機に一度情報を整理しようか」
まず最初にパラレルワールドという概念について説明しようか。端的に言うなら可能性の世界。黒服が『貧乳』か『巨乳』、どちらが好みか、の様に些細な違いで分岐していくのだ。私達はその可能性の世界にある事がきっかけで接触し、その存在を確立させる事が出来た。
私は現在この世界を含めて四つの世界と関わりを持っている。
一つ目はこの世界、名付けるなら『ゲマ世界』だな。ゲマトリアが教師となって活動している異端……らしい。
二つ目はあまり関わりはないがシャーレの先生が大量の生徒にワンオペを強いられている世界、『基本世界』だな。名付け理由については分かりやすく区別する為のものだと思ってくれ。
三つ目はシロコが恐怖に染まってしまった世界。今は多少問題が残ってしまっているものの安定した日常を送れていると思うぞ。此処はどう名付けるか悩んだが『プレ世界』と名付けようか。
最後に私の妻と娘が過ごしていた世界。……詳細は聞かないで貰えると助かる。ユメもあまり過去には触れて欲しくないと言っていた。此処は『ユメ世界』とでも名付けようか
「雑ではあるが大体はこんな感じだ。何か詳細が知りたければ感想等で記載して頂ければ補足させて貰うぞ」
「"そっか……え、じゃあもしかしてユメも黒服みたいにこの世界に二人居るって事になるの?"」
「もし生きていたらな。……彼女は既に二年前に亡くなっている。キヴォトス人がそう簡単に死ぬ筈はないと思いたいが現に黒服とホシノは砂漠で冷たくなっているユメの亡骸を見つけた様だ」
「"砂漠で冷たくなってる……? ユメの亡骸って日中に見つけたのかな?"」
「暑い日差しの中日陰でホシノを休ませつつ、と記録がある。日中に見つけたので間違いはないだろう」
「"それっておかしくない? いくら亡骸でも砂漠みたいな暑い場所に放置されて冷たくなるって事はないと思うけど"」
「それは……確かにそうだが……」
「"……そういえば昔接触したマエストロは複製って言葉をよく使ったたんだよね"」
「複製か……確かにヒフミから貰ったペロロを増やしたりはしたが……」
「"人間も複製出来たりする?"」
「"出来ない事はない。但し必ずと言っていいほど複製した方は何かしらの欠点が生まれる。知能が極端に低下したり話が通用しなかったりな」
「"そっか、人間も複製出来るんだね……手帳に書いてあった事を考えるに……うん、やっぱりマエストロで間違いないね。君は過去に行っているんだよ"」
「しかし私にはユメと接触した記憶がない」
「"その理由も何となく分かったよ。昨日さ、マエストロは過去を変える事がどうたら〜って言ってたよね? ……あるんじゃないの、タイムマシンみたいなものが"」
「……察しが良いな。仮に可能性の世界への移動が縦であるなら時間の移動は横として考える事も出来ると思ってな。本来はユメ世界のホシノに接触して命を救えないかと考えていたんだ。ユメ自身は私とアロナが居るから寂しくない、と言っているが……」
「"えっ殆ど冗談のつもりだったのに本当にあるの? じゃあ折角だし行こうよ、過去に"」
「今からか?」
「"善は急げだよ。それに私も興味があるんだ、過去のアビドスに"」
「……仕方ない。私と先生の二次会として行こうじゃないか」
「"そうこなくっちゃ!"」
タイムマシンという単語に好奇心が止まらない先生と試運転がてら過去に訪れてみようとする芸術家の旅が始まる……?