「……どうやら戻ってきたようだぞ」
「"今回は揺れなかった……"」
「お帰りなさいマエストロ」
「ああ……あ?」
お帰りと声を掛ける女性の声はアロナでもユメでもない。年老いた赤いババア、学名『ゲヘナセイトタラシアカクソババア』でお馴染みのベア先生その人であった。彼女がわざわざマエストロの家に来たとなると大抵碌な事にはならない。
「何故居るんだ……さっさと帰ってくれ」
「お断りします。時間の移動だなんて面白い事を耳に挟んでしまったら引き返すなんて無理な話ですよ」
「何故その事を知っている?」
「ふっ貴方は数ヶ月前の記憶すら消し飛んでしまう程に能天気になってしまったのですか? 第六部『芸術家と縁』にて私は貴方の端末をハッキングして盗聴していた事を忘れてしまったのでしょうか?」
「あったなそんな事も……それはそれとして帰ってくれ」
「お断りします。過去に行けると聞いたらそれはもう若きヒナに会いに行くしかないでしょう!! 元からヒナは若いですがね!!」
「"何か変な事を言ってる……"」
「さあさあ善とヒナを甘やかすのは急げと言いますしさっさと行きますよ!! お、座席が三つあるではありませんか!! これは私が乗り込む事を想定していたのですね!! 流石マエストロ、伊達に頭が二つ付いてはいませんね!!」
「それは褒めているのか? それよりも勝手に乗り込むな、おい勝手に弄るな!」
「おや、音声認識システムがありますね。この構造から察するにここに吹き掛ければ希望する時間に行けそうですね!! では早速……二年前の初々しいヒナに会いに行かせてください!!」
「おいババア調子に乗りすぎだぞ!! 私欲に動きすぎだ!!」
「何を言いますか!! 高校生になったばかりのヒナを愛でたい人なんて外の世界では大量に居るのですよ!! その夢を私が代弁したに過ぎません!!」
「私利私欲以外の何者でもない!! 私と先生は真剣なんだぞ!? 何故一人の狂ったババアに妨害をされなければならないんだ!!」
「"……ねえ、言い合ってるところ悪いけど……なんか動いてない?"」
「それは動くだろうな!! このババアが音声認識でタイムマシンの座標を設定して起動させてしまったからな!!」
「先程からババアと言い過ぎではありませんか!? そこまで連呼される筋合いはないのですが!!」
「その自己中心的な思考回路は老害のそれだろうが!?」
「何ですって!?」
「"……私は揺れに備えておこう……"」
言い争う大人と冷静な大人の三人は今度こそ過去へと向かった……
ーーー
「"ふう、どうやら上手く転移出来たようだね。多分過去に行けたのかな……ねえマエストロ、今が何年かって何処で分かる……マエストロ? ベア先生? 二人とも何処に行ったの? だからシートベルトを着けないと危ないってあれほど言って……なかった。そもそもシートベルトを着けてなかったからと言ってなんで居なくなるの? 色々とおかしくない?"」
一人ツッコミが長い先生はその後諦めたように一人歩き始めたとか。彼は彼でまた新しい物語を紡ぐ事になるにはなるのだがそれはまた後程に。
ーーー
「……何故私は砂に埋まっている?」
言い争いに夢中になってしまいシートベルトを装着していなかったが故にこうなってしまった。故に掘り起こされるのを待つしかない。然しその時は想定よりも早く訪れる……かもしれない。