例えばこんなゲマトリア   作:スカイブルーホワイトヘアー

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メンタルは案外脆く壊れるもの

「来たわよ」

 

「ああヒナ、いらっしゃ……い?」

 

空崎ヒナは約束通り小鳥遊家に来た。……何故か寝巻きの姿で。思わず困惑してしまい唖然としていると「入るわね」と言われおぼつかない足取りでリビングに向かい始めた。直後壁に激突し尻餅をついたので「あ、これは駄目かもしれない」悟ったホシノはヒナの肩を担いでリビングのソファーまで運んだ。

 

「と、とにかくここに座って休んで。今お茶を用意するから」

 

「……お茶……」

 

ーーああヒナ、どうしたのですか? ……落ち着かなくて眠れないと。ええ、そういう時もありますよね。本当はあまり夜更かしをして欲しくはありませんが今日は特別です。お茶でも飲んで談笑するとしましょうーー

 

「う゛ぇ゛ぇ゛……」

 

「ヒナ!? 大丈夫!? あ、お茶の気分じゃなかったのかな!? そ、そうだジュース! アリスちゃんのだけどオレンジジュースがあるからそっちにする!?」

 

「ジュー……ス……」

 

ーーお酒が飲みたい? 私の飲み相手になりたいから? ヒナは健気ですね。ですが貴女にお酒はまだ早いですよ。ですので今日はジュースで乾杯と洒落込みましょう。普段コーヒーばかり飲んでいるヒナの為にノンカフェインですよーー

 

「あ゛っ゛……あ゛あ゛……」

 

「あれ、これもしかして特定の単語で思い出が呼び起こされて寂しいって気持ちが大きくなってるやつだ!? ど、どうしよう……下手に話を振ったらダムが決壊する!?」

 

普段メンタルが物凄い強くて何も受け付けない無双っぷりを見せつける彼女も大切な人が24時間離れるだけでこうなってしまう……その姿を見たホシノはいずれ自分もこうなるのかもしれないと明日は我が身の思考に至ったけれど既になった様な気がしなくもない複雑な心境になった。

 

「ヒナ、とりあえず鼻水を拭こう。ほら、沢山ティッシュはあるから何枚でも……」

 

「ティッシュ……」

 

「あっ」

 

「……ありがとう。貰うわね」

 

「う、うん! どんどん使っちゃって!(あっっぶない!! どの言葉がアウトか分からないから迂闊に発言出来ないね……)」

 

鼻をかむヒナと一安心して胸を撫で下ろすホシノ。このまま落ち着かせようとした矢先……天然爆弾が投下された。

 

「ホシノママー! アリスはお腹が空きました! 卵焼きが食べたいです!!」

 

「はいはい、後で作るから今は……あっ」

 

「ママ……卵焼き……」

 

ーー朝は食べない? それよりもギリギリまで寝ていたい? 気持ちは分かりますが朝食は食べなければなりません。この私がゲヘナ学園に来たからには毎日三食は徹底して貰います。試しに作りましたので食べてくださいね。……黒焦げ? ええ、私は殆ど料理をしてこなかったので腕はあまり……ど、どうして泣いているのです? そんなに不味いのであれば白米だけでも……ええ? 今まで食べてきたもので一番美味しいですって? ……貴女にお世辞を使わせてしまうのは申し訳ないので私も最低限の料理が出来るようになりますよ。……お母さんみたいですって? こんな顔の怖い母親が居てたまるもんですか。……マザー、ですか? ……悪い気はしませんねーー

 

「ま゛ざ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!!!!!!」

 

「ダ……ダムが壊れた……最悪のタイミングでアリスちゃん爆弾が起動しちゃったよ……どうしよう……」

 

「あ゛い゛た゛い゛よ゛ぉ゛!!!!!! さ゛ひ゛し゛い゛ぃ゛ぃ゛!!!!!!」

 

アリスによって紡がれた致命的なキーワードによって感情のダムが決壊し泣き叫び始めたヒナ。小鳥遊家に来てからものの数分で壊れてしまった彼女を見てホシノは思考をどうにか巡らせて何とか出来ないかと考えるも既に手遅れの可能性が……

 

「どうすればヒナを落ち着かせられるの……?」

 

「ホシノママ、スマホが鳴ってますよ?」

 

「今はそれどころじゃ……あれ、先生だ。……もしかしてベアさんが見つかったのかな」

 

「ほんとう?」

 

「……えっと」

 

涙と期待が入り混じった瞳で見てくるヒナに思わず「そうだよ! なんて言ったって私の先生は私が知る大人で一番頼りになる人なんだからね!」と安心させる様な事を言ってしまった。……もう後には引けない。後は自らが信じた彼に賭けるしかない。

 

「せ、先生。いきなり電話だなんてどうしたの?」

 

『ええ。実はマダムの件で進展がありましたのでホシノ経由でヒナに伝えて頂ければと思いまして』

 

「ほ、本当!? 見つかったの!?」

 

『私が実際に見つけた訳ではありませんが居場所を特定した形で』

 

「どこ?」

 

『……おや、私はホシノと話していた筈ですが……』

 

「マザーの場所を教えて

 

『いえ、今から私が迎えに行くのでお待ちを』

 

「やだ。私が行く。会いたい抱きしめられたい愛を受け取りたい」

 

『しかし……』

 

「……そんなに私とマザーを引き離したいなんてもしかして貴方とマザーの事が好きなの?」

 

『それだけは絶対にあり得ないのでお待ちしておりますね。場所はマエストロの家です』

 

「分かった。ごめんホシノ、折角家に招いてくれたのに申し訳ないけど急ぎの用事が出来ちゃった」

 

「ううん、気にしなくて良いんだよ。ベアさんが見つかって良かったね」

 

「うん」

 

「他のゲヘナの子達には伝えておくからヒナは着替えて……あ、どうせならアビドスの制服着ていく? その方がベアさんも喜ぶかもしれないし」

 

「そうするわね」

 

いつの間にか普段の調子に戻っているヒナ。ダムの再構築が早いなぁと謎の関心をしてしまったホシノであった。あとアリスには少し注意した。

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