「マザーを出して」
「……何故此処に居ると思ったんだ?」
「ホシノの旦那から聞いた」
「あいつ……まあいいか。その部屋の奥にある機械に乗ればババ……マダムの居る場所に着く」
「ありがとう」
このヒナを止めてはいけないと本能で悟ったマエストロはタイムマシンである事は伏せて彼女に道を示した。身の安全とユメの胸を優先したのである。要するに変態だ。……ともあれヒナは少し離れた場所で談笑している黒服と先生を横目にタイムマシンに乗り込んで一人旅立って行った。全ては最愛の人を迎えにいく為に。
「"あれ、今タイムマシン起動しなかった? 実際無くなってるし"」
「恐らくヒナが来たのでしょうね。先程電話をした際に此処に来ると言っていたので」
「"そっか。……それって大丈夫なの? そろそろマエストロと私もユメに会いに行く予定が……"」
「大丈夫、ヒナがマダムを連れ戻してくれます」
ーーー
「ここは……ゲヘナじゃない。大層な機械に乗って着いた場所がここだなんて随分と回りくどいわね。……気配を感じる。本当に居るみたいね。早く会いに行かなきゃ」
過去に来ようがヒナのやるべき事は変わらない。ただ大好きな人の元へ行くのみ。途中で何故か喧嘩を売ってくるゲヘナ生をボコりつつ彼女は辿り着いた住み慣れた家の扉を開ける。そこには探し求めたベア先生の姿と……
「……私?」
他でもない空崎ヒナが抱きついている形で眠っていた。どうして自分がもう一人居るのか? そんな疑問なんて関係ないと言わんばかりに彼女の視線は幸せそうに鼻提灯を出して寝ているベア先生に向いている。
「………」
眺めていると徐々に芽生え始める黒い感情、嫉妬心。今までどんな相手でも最終的に自分の元に帰ってきてくれるからという正妻の余裕を持っていた彼女には絶対と言ってもいい程に縁のない感情。然し相手が自分となれば話は別。ベア先生からの連絡が途絶えていた分目の前で寝ている自分自身に苛つきを覚えてしまう。そんなNTRをされた気分に等しい嫉妬心を抱いた彼女が起こす行動はただ一つ。
「もう逃がさない」
こうしてヒナは無事(?)ヤンデレ化した。その後この一室でどの様なやりとりがあったのかはご想像にお任せします。
ーーー
「何故ヒナを一人で行かせた」
「百合の間に挟まる男は駆逐されるのみですので」
「ババアとヒナを百合扱いするな」
「"ワカモに膝枕してたら脚が痺れちゃって"」
「もっとマシな言い訳を考えろ。脚が痺れようとも声を掛けるくらい出来たのではないか?」
「そういうマエストロは何を?」
「ユメを堪能していた」
「"君が一番悪くない?"」
「そこのロリコンが悪い」
「いえマエストロが悪いです」
「"2体1なので認めてね"」
「なんて理不尽な。……そんな話はどうでもいいんだ。とにかくマシンが無ければ過去に行けないじゃないか」
「それなら大丈夫ですよ。もう時期戻ると思います。あの雰囲気から察するに……」
「待て、どうやら本当に戻ってきたようだ。……おいババア、お前が勝手な行動をしたせいでこんな面倒な事に……」
「ひなっ☆」
「あ?」
「マザーは『申し訳ありません。今後はこの様な行動は控えます』って言ってるよ」
「は、はぁ?」
「ひなひなひな!」
「マザーは『本日はこれにて失礼致します。ヒナを寂しがらせた分労ってあげなければ』って言ってるよ。それじゃあ連れて帰るね」
「あ、ああ……」
「"……何あれ"」
「考えても見てください。マダムが過去のヒナと接触、そして堕としていると過程すると一緒に行動している可能性が高い。その状態で今のヒナと出会ってしまったら……」
「……『ヒナサンド』か? まさかこんな形でババアの願いが叶うなんてな」
「"ヒナサンドって何……?"」
「ええ。そしてヒナサンドという崇高を超える事象を経験したマダムは脳容量を超えて廃人になってしまった……と考えられます」
「"そんな馬鹿な……"」
「仮に廃人になってしまったとしてとババアだからいいか」
「はい。むしろ面倒ごとが減って助かります」
「"ベア先生が煙たがられてるのはどこの世界線のゲマトリアでも変わらないんだなぁ……"」
白い秩序は風紀を乱す