揚げ物。それは黄金色に輝く衣を身に纏う欲望と誘惑を引き寄せる高カロリーの食事。カラッと揚がったそれを口内で噛むとサクッと心地よい音が身体全身に染み渡る感覚を覚える。つまり揚げ物というのは芸術。高級なフレンチの飾り付けの美しさには劣るかもしれないが……とにかく揚げ物には魅力が詰まっているという事だ。現にアロナとユメはテーブルの中心にある揚げる隙間に夢中になっている。そう、この店は調理して後は揚げるだけになった食材を串に刺し客自らが揚げて食べる事が出来る……好きな時に好きな揚げ物を熱々な状態で頬張れる。嗚呼、なんて幸せな事なのだろうか。安全面に配慮した設計になっており火傷する事もなく目の前で油が奏でる音色を聞いて揚げ物が出来上がるのを待てるのだ。実に素晴らしい。テーブルの中心に高温の油が入った溝があるのは危ないとは思うがキヴォトスに常識は通用しないので気にするだけ無駄というものだろう。
「さつまいもとじゃがいも丸々一個揚げれるなんて珍しいお店だね。自分で衣をつける為に調理をする必要があるのも含めて」
「同意します。ですがこういうのもありだと思います。油が跳ねそうで怖いのを置いといて」
うむ、二人ともなんだかんだで楽しんでくれているみたいだ。ユメがじゃがいも丸々一個を揚げられる事に困惑している様にこの店のメニューはとても豊富だ。野菜から肉、ありとあらゆるものを揚げて食べられる。バターなんて馬鹿みたいなメニューすらある程だ。他にもハンバーガー、ピザ、ケーキ、ホシノサクサクやユメサクサクまで取り扱っている他にはないオリジナリティーがある……
「……ホシノサクサクって何だ?」
「ホシノちゃんがどうかしたの?」
「いや、何でもない……」
ホシノサクサク……? ホシノサクサクとは? おかしい、他のメニューは画像が添えられているのにホシノサクサクとユメサクサクだけは写真が添えられていない。値段は強気の1万クレジット……なんなんだこれは……黒服に聞いてみるか。あいつならホシノについて誰よりも詳しいだろう。
『黒服、ホシノサクサクを知っているか?』
我ながら意味不明な内容だな。まだホシノサクサクが小鳥遊ホシノに関連があると決まった訳ではないのに……お、黒服から返信が来た。早いな……
『ホシノサクサク……? 聞き慣れない単語ですね。それよりもマエストロ、ユメサクサクについて何か知っている事はありますか? ホシノがずっと「ユメ先輩がサクサクになっちゃった……」と謎の落ち込み方をしてるのでもし知っていたら何か教えて頂きたいのですが』
『すまない、ユメサクサクについては何も知らん。今丁度天ぷら屋のメニューにホシノサクサクとユメサクサクと書いてある謎のメニューを見つけた程度の知識しかない』
『そうですか……そちらは注文したのですか?』
『一万クレジットなんだ。金に余裕があるとしても得体の知れないものに使いたくはない……』
『知的好奇心はゲマトリアを滅ぼすと前にマダムが言っていましたね。下手をしたら精神的にダメージを与えてきそうなので注文は避けるべきだと思います』
『そうだな。すまない、感謝する』
黒服の言う通り注文しない方がいいだろう。さて、気を取り直して私もさつまいもの天ぷらでも注文し……
「みてみてアロナちゃん、ホシノサクサクとユメサクサクだって。私の名前が入った天ぷらがあるなんてびっくりだね」
「注文しましょう。値段は一万クレジットですがシャーレの経費で落とせば問題ありません」
「アロナちゃん天才。二つとも頼んじゃうね☆」
「………」
黒服とモモトークで会話している間に注文されていた……ホシノサクサク……ユメサクサク……何なのだろうか……
「あ、きたきた。……えっ?」
「……理解不能」
「何だ……これは……」
配膳用の皿の上に乗っているエビ……の様なホシノ? とユメ? がなんとも言えない表情でこちらを見ている。まるでそれは人工的に作られた様な不思議なもので……
「これ……ぬいぐるみだ。ホシノちゃんと私のぬいぐるみがエビフライの着ぐるみを着せられてる」
「お土産の様なものでしょうか?」
「……よく見たらメニューの項目に『グッズ』と書いてあるな。もっと注意深く見ておけば良かったな。わざわざ悩んだのが馬鹿らしくなってきたぞ……」
「あーだからさっきスマホと睨めっこしてたんだね。でもホシノサクサクなんて誰が流行らせたんだろうね」
「分からん。だが可愛いから問題ないな」
「そうだね」
この後天ぷらを堪能した後に店の店長を肖像権の侵害で裁いた。可愛いけれど勝手にアビドスの生徒を商品として使うのはダメだからね☆
ホシノサクサクって何ですか