「本日皆様にはとても大切なお仕事をして頂きます。これはアビドスの危機に関わるものなのです」
「何よそれ」
「このネクタイをつけ始めて一年が経過する……と言えば伝わるでしょうか?」
「買い換えたいって事?」
「買い換えませんよ。まあ、何のことを言っているのかは見た方が早いでしょう」
次々と机に置かれていく楕円形の物体。……並べられていくそれらはどうみてもケーキだった。
「大量のケーキ? ……分かった、砂祭りの代わりにアビドスケーキ祭りを開催して地域復興をする気なんだね! 大半の人は甘いものが好きだって事を考えると盛り上がる事間違いなしだよ! 流石アビドスの先生、名案だね!」
「開催しても観光客は増えると思いますがアビドスに定住する方は居ないと思います。まずはライフラインを整えて他の自治区と変わらない程度に生活出来る環境を整えるべきかと」
「あ、そっか。そうだったね。じゃあその大量に並べられたケーキは一体何の為に? まさか私達へのご褒美!?」
「まあ……そんなところです。実はもう時期ホシノと出会ってから二年が経過するのです。去年は私の方で何も用意していなかったので何かお返しを用意しようと思いまして」
「それがこの大量のケーキとどう関連するのよ?」
「そのケーキは試作品です。皆様には味見をして頂きたいのです」
「嫌よ」
「何故ですか?」
「甘いものは美味しくて魅力がある反面カロリーが高くて女の敵なのよ
「普段山盛りのラーメンを食しているセリカも体重に気を遣っているとは思いませんでした。致し方ありません、この一切れ10キロカロリーの甘さ控えめなケーキについては他の学園の生徒にでも差し入れして味の感想を……」
「美味しいじゃない。これならいくらでも食べれちゃいそう」
低カロリーと発言したとたん本能を解き放つかのようにケーキを切り分けて味わい始めるアビドスの将来有望な後輩のセリカ。彼女に続くかの如くノノミとアヤネもフォークを手に取り試食してくれた。既に食べていたユメとシロコは置いておくとして……ナギサが押し付けてきた甘味に合う紅茶を添えておき生徒たちががケーキを食べ終わり感想を述べてくれるのを待っていた。
「食べ終わったわよ」
「早くないですか? 小さめのサイズですがホールで八個は用意したのですよ?」
「女子高生が五人いるなら余裕ですよ☆」
……アビドスフィジカルを甘く見ていた。彼女達の胃袋は他学園の生徒と比較しても大きい。それでいて普段ホシノ以外はだらけていないので消費カロリーが上回っている子しかいない。……何故セリカは自身の体重を気にしているのか? 現状太る理由が無いというのに。
「ね、ねえ。結構食べちゃった後に聞くのも怖いんだけど本当に一切れ10キロカロリーなのよね? 私達の事を騙していないわよね?」
「ええ、ホールで食べたとしても100キロカロリーしかありません」
「あんたがアビドスの先生で良かったわ」
「そう言って頂けると幸いです。それで味の方は如何でしたか?」
「とりあえずもっと用意して欲しいわ」
「私も欲しいです〜☆」
「ん」
「………」
この後何度もおかわりを要求され合計20個程焼いた後に頂いた感想は
『低カロリーだから全部用意していいんじゃない?』
という身も蓋もない感想だった。
「当然そういう感想でも頂けるだけ嬉しいものです。然し大切なホシノに贈る為のプレゼントです、妥協は許されない」
「それはいいけど何でこっちに来たの? 帰って欲しいんだけど」
「やはりホシノの好みを知るにはホシノ自身に聞いた方が早いかと思いましてわざわざ貴女を訪ねたのですよ。なのでどうぞお召し上がりください」
「え、私に黒服が用意したケーキを食べろって言うの? これ以上黒服と結婚して幸せな道を歩んでいる私の手伝いをしたくないから断りたいんだけど」
「そこを何とか」
「ごめんこの後先生とご飯食べに行くからなるべくお腹を空かせておきたいんだよね」
「おや、それなら仕方がありませんね。誰か甘味を好む生徒に贈ると致しましょう」
とはいえ私の知り合いと言える生徒はアビドス以外だと限られている。その上で甘いものを普段から食べている生徒……ああ、彼女にしましょうか。この紅茶を押し付けてきたナギサにでも。
ーーー
「そういう事ですのでこちらをお召し上がり下さい。前に頂いた紅茶のお礼も兼ねております」
「ご足労頂きありがとうございます。久しぶりにロールケーキ以外のデザートを食べる機会を設けて頂き……」
「何故縛りを課しているのかは知りませんが是非紅茶と共に食して頂ければ幸いです」
「はい。一日遅れの誕生日ケーキとして頂きます。後でハルナさんにも食べてもらいますね」
「ハルナ……ああ、そういえば最近ナギサの側近として拘束しているとか噂で聞きましたね」
「純愛です。将来の事も見据えてハルナさんとの子供の名前も考えているのですよ?」
「そうですか」
この後ハルナに対するナギサの歪んだ愛の話を聞き流しながらケーキの感想を伺い当日に焼くケーキに活かす事にした。尚ハルナから届いたモモトークの『HELP』という文字は見なかった事にする。
ナギサ曰く名前を付けるならワカナだそう