7月8日。遂に来てしまったこの日。ホシノは服を仕上げる為にマエストロ宅へ行き黒服はアビドスの調理室で祝いのケーキを焼いている。そして小鳥遊家に残されたアリスとケイは飾り付けをしている最中。お祝いが始まるのは17時58分。半端な時間だとは思うけれど黒服とホシノが出会った時間らしいので半端ではあるものの一番適した時間とも言える。
「ケイ、ママがパパに17時58分に家の前で待機して欲しいという連絡を送ったそうです!」
「了解です。今父からメイン以外の料理が完成したとの事なので受け取ってきます」
テキパキと動くアリケイ。なんだかんだ家族四人でのお祝いは経験がないので二人も楽しみにしているそうでウキウキとしている。
「父から貰ってきました。お腹が空いている筈なのでと味見用の一口サイズのケーキも貰ってきましたよ」
「わーい!」
「……然し母の方は大丈夫でしょうか? ユメ先生に見守って貰っているものの苦戦してる様でして……」
「大丈夫です! ママは間に合います! だってアリス達のママですよ!」
「そうですね。私達に出来る事は父と母を待ち部屋を飾りつけるだけです」
ーーー
ホシノは時間になるまでマエストロ家で服を縫っている。慣れていない作業であるにも関わらず……
「いった!」
「ホシノちゃん大丈夫!?」
「ちょっと針が刺さっただけです」
「いくら時間がないとはいえ怪我をしちゃったら黒服も心配するし一回落ち着いて……」
「ですが……」
「大丈夫。多少遅れても黒服達は待ってくれるよ。だから……」
「……駄目なんです。どうしても完成させないと。これだけは譲れないんです。だから私は諦めません」
「ホシノちゃん……」
去年私が先生にプレゼントしたネクタイはお世辞にも完成度が高いものとは言えない出来だった。けれど今回はちゃんとしてものを贈りたい。去年よりも大切な存在になった先生の為に……私は縫う。大丈夫、最悪ケイちゃんに頼んでワープして貰えればいいからさ。
ーーー
一方黒服の方。こちらは想定よりも時間が余ってしまっていて逆に困っているようで……
「どうしましょう。既に家族四人分のマジパン人形すら完成させてしまいました。今からでも何か他に用意した方が良いのでしょうか……」
前菜、主食、デザート。ホシノが喜びそうなものは全て用意しました。それとアリスとケイの好みのものまで……然し何かが足りない気もします。一体何が……
「愛ですね☆」
「ノノミ? 愛が足りないとは?」
「それはもうそのままです。もっとホシノ先輩の事を想い考える為に必要なものなんて愛以外にありませんよねっ☆」
「ふむ……」
馬鹿げてる、なんて一年前なら切り捨てるだろうが今はノノミの言っている事もなんとなく理解できる気がする。ホシノに愛を伝える為にはやはりケーキだけでは物足りない。とはいえやはり形のあるものではなく行動で伝えるべきだと考えた。だから普段よりも大きな愛を言葉と共に伝えよう。
ーーー
17時40分頃に全てを終わらせて黒服は家の前で待機していた。入ろうとしてもアリスに「まだ早いです!」と止められてしまう。頭を撫でると一瞬だけ入っても良い雰囲気を出していたものの誘惑に抗う様に駄目です! と大きな声で抑制された。恐らくケイと共に飾り付けを行っているのだろう。本当純粋無垢な可愛い娘ですね。
「ふぅ……なんとか間に合った……」
「おやホシノ」
「せ、先生!? ちょっと早くない!? まだ約束の時間まで20分くらいはあるよ!?」
「ホシノを待たせるのは嫌なので。……ところで家に入ろうとしてもアリスに止められてしまうのですが何か企んでいるのですか?」
「べ、べべべ別に何も企んでないよ? 先生の方こそ最近忙しそうにしてたけど何かやってたりしたの?」
「い、いえ別に……ちょっとした野暮用ですよ」
「……お二人とも。仲良く玄関の前で話すのも良いと思いますがそろそろ入ってきて頂けると助かるのですが」
「申し訳ありません。ではホシノ」
「うん」
差し出された手を握って多少ドキドキしつつも手渡しを成功させる事に集中しているので気絶はしなかった。そして家に入った途端、まるでクリスマスの様に飾られている玄関とリビングに続く廊下が続いている。
「わぁ……」
「これは……」
「(凄い。凄いよアリスちゃん。リビングだけじゃなくて家中を飾りつけるなんて……季節感は違う気がするけど綺麗だから全然OKだよ)」
「(ふむ。ケイは流石ですね。多少季節感が統一されていないのは気になりますがホシノの目が輝いているので問題ありませんね。むしろ統一しない事でホシノを喜ばせられるのであればファインプレーと言えますね)」
してやったりとほくそ笑んでいる黒服とホシノ。互いに相手を嵌めていると考えているものの実際はアリスとケイに嵌められているだけだと知る由もなく呑気にリビングまで歩いてきた。テーブルには黒服が作っていた料理と『2周年おめでとう!!』と書かれた紙が置いてあった。
「今日は父と母が出会ってから二年目だと伺っております。その為盛大にお祝いしようと準備しておりました。父と母もそれぞれ祝う為に色々奔走していたようですし」
「そうそう、先生を喜ばせる為に徹底して準備を……あれ、ちょっと待って? 父と母もって事は先生も……?」
「ホシノからこのネクタイを頂いた時からこの日を忘れた事はありません。当然祝う気も……」
「先生……」
「ホシノ……」
「いちゃつきたい気持ちは深淵にぶつけてください。あくまで健全なスタイルでお送りしないと台無しになりますよ」
「確かにそうですね。続きは今夜にでも」
「うん」
深淵の約束をしつつ椅子に座って用意されているコップに青く透き通った炭酸飲料が注がれていき乾杯の合図が整った。
「パパとママの出会いを記念して乾杯!!」
「「「乾杯!」」」
突如始まる乾杯に戸惑いつつもアリスの成長を感じつつ炭酸飲料を口に含み転がして味を堪能している黒服と彼もこの日を楽しみにしていていて準備をしていた事実が嬉しくてにやけているホシノ。誰がどう見ても幸せオーラを周りに振り撒いている彼女は側から見たらただの可愛い女の子でしかない。並べられた料理に舌鼓を打ち足をパタパタとさせている姿は可愛いの一言で表せるものではなかった。
「(そろそろ頃合いでしょうか)ホシノ、私が用意した愛を込めたデザートを受け取ってください」
「愛……うん、受け取る///」
黒服が用意した渾身の一品。シンプルなショートケーキに小鳥遊家四人の砂糖人形を乗せたもの。無駄な装飾を省きただ純粋に感謝を伝える為のケーキ。ちなみにこの結論に辿り着いた際、試食を繰り返して感想を貰っていたあの時間は全て無駄になったとか。
「私達が乗ってるよ! 可愛い〜♪」
「(一番可愛いのは貴女なんですよね)」
「(母の方が可愛いです)」
「ママが一番可愛いですね」
「……こほん/// とにかくありがとう。こんな素敵な贈り物を貰えるなんて思ってなかったよ」
「そう言って頂けただけで用意した甲斐がありました。ずっと貴女から貰ってばかりでしたからね。まだ一割にも満たないものですが……ああ、それと……」
「?」
「私と出会ってくれてありがとうホシノ」
あの日ホシノから言われた言葉を返し彼女の頭を撫でて想いを伝えた。それを聞いたホシノはただ慈愛に満ちた表情で彼を見つめて……気絶していた。
「……これも駄目なのですか!? 貴女は何故そんなにも恋愛耐性が脆弱なのです……」
「父、何してるんですか。せっかくの雰囲気が台無しですよ」
「そうですよ! ママの耐性をちゃんと考えて立ち回らないとパパとして失格ですよ!」
「……はあ、締まりませんね。ホシノ、起きてください。今日の主役は貴女なのですよ」
「うへ、うへへへへ……」
「………」
この後どうにかホシノを呼び起こしてパーティーを再開した。時間が掛かったのでアリスとケイが用意したメッセージビデオは後日見る事となり一先ずはケーキを堪能して満足した四人は後片付けを行い就寝の時間に……なったものの。ホシノはずっと目に見えて分かるくらいにハートマークを出している。普段のスーツとは違い和服を着用した黒服に対して。
「うへ///」
「どうしました?」
「やっぱり先生に渡した服を半袖にして良かったなって思っただけだから気にしないで」
「は、はぁ……この服、ホシノの手作りなのですね。大切にしますよ」
「うん、そうしてくれると嬉しいな。……でも。一番大切にして欲しいのは私……な、なんちゃって……」
「………」
小鳥遊ホシノは魔性の女。かつて誰かがそう言っていたがまさにその通りだと今認識させられた。顔を真っ赤に染めながらも想いを伝えてくる彼女の姿が愛おしくて堪らない。だからこそ私は彼女への返答という意味を込めて……柔らかな唇を奪った。
小鳥遊家は永遠に。