「お母さん、準備出来たよ」
「本当に徹夜するのですか?」
「約束したからね。一緒に徹夜して花が咲く瞬間を見るって」
「……そうですね。約束したのですから。ですが無理をしてはいけませんからね」
「うん」
日付が変わり真夜中と言える時間帯になってきた頃、月の光に照らされながらアツコと化け物は椅子に座り花が咲く瞬間を今か今かと待ち侘びている。……実際のところ咲くかどうかはまだ分からない。だけど二人とも何故かこれが最後のチャンスだと本能的に悟ったのかもしれない。事実連邦生徒会長は一度眠れば現実に戻れると言っていたのでその本能は間違ってはいない。だからこうして無理をしてでもその瞬間を見たい。花が咲くのを一緒に。
「夜とはいえ多少蒸し暑いですね。熱中症にならない様に注意してくださいね」
「……うん」
「……既に意識が朦朧としているのではないですか? 眠ければ寝て頂いても構いませんよ」
「大丈夫……ちょっと眠いだけ……」
……あまり無理をさせたくはありませんね。アツコの為にも早く咲いて欲しいのですが……然し私の願いも虚しく時間だけが過ぎていきかれこれ数時間が経過してしまいました。時刻は午前4時。既にアツコは限界でこちらに寄りかかり瞼を殆ど閉じていました。このまま眠らせてあげようとした時……花の蕾が少しずつ、ゆっくりと開花させていき……花が開きました。その刹那、アツコはテンションが上がっており「お母さん、咲いたよ! ほら! と先程まで意識が朦朧としていたとは思えない程に声を荒げて喜んでいた。そう無邪気にはしゃぐ姿はまるで本当に娘の成長を見守っている気分になっている自分にも何か不思議な感覚になっていっている。……これが子供達の成長を見守る喜びなのでしょうか……
「………」
「アツコ?」
急に動きが止まったかと思えばこちらに向かって倒れてきて……そのまま眠ってしまいました。静かに寝息を立てて眠る彼女を抱き抱えて悟る……これがアツコとのお別れなのだと。
「貴女はこのまま仮想空間から現実に戻るのでしょうね。……今更別れるのが惜しくなってきました……ただ貴女には私よりも頼りになる親が待っている筈。その人に任せておけば良い未来に向けて歩いていけると思います。……多少変態ではありますが……」
とにかくアツコ。貴女は今まで以上に幸せになっていってくださいね。……お元気で。
「……お母さん」
朝起きた時に私は無意識にそう発していた。確かに最近会っていないので多少寂しくはあるものの……ここまで悲しくなる必要はあるのだろうか? 朧げながら夢で見た内容を思い出しているのかもしれない。とっても悲しい夢だったのかな……楽しい内容だった気がするけど……
「……とりあえず顔を洗って今日のお仕事を始めないと」
悲しい気持ちが強くなってはいるもののお花の世話も喫茶店の準備もしないといけない。お花を綺麗に咲かせ続ける為にも泣いている暇はないから。
「……見守っていてね、お母さん。……あれ、お母さんってどっちの方? ……どっちって何のこと?」
突然母親が二人いる錯覚に陥りつつも支度を済ませてお仕事場に向かった。今日も一日私の未来へ向けて頑張ろう。
これで試験は終わりです。悲しい事にこれから私は先生からお説教があるみたいです。