例えばこんなゲマトリア   作:スカイブルーホワイトヘアー

410 / 500
唐突なファーザー呼びによって彼女のライフは0になりました

ベア先生はキヴォトスに降り立って初めてヒナという崇高している存在から『おばさん』と言われた。今までは相思相愛であり『マザー』と慕ってくれていた彼女からのおばさん呼び。頭では自身が知るヒナとは違う存在だと理解していても駄目だった。同じ姿、同じ声から発せられた声は同一人物であると脳が紐づけてしまう。

 

「このお姉さん、綺麗で面白い人だね~♪」

 

血の雨が降り注ぎ絶望の淵に立たされた彼女の耳に飛び込んできた『天啓』。それは純粋無垢のイブキから発せられた『お姉さん』という言葉。まるで天の上から垂らされた一本の蜘蛛の糸にも例えられる程にベア先生の心は満たされた。

 

「そうです私がゲヘナ代表の素敵なお姉さんですよ!」

 

自身に満ち溢れた声で埋まっていた頭を引き抜き笑顔…? を向けてヒナ達に語り掛けるベア先生。

 

「どう見ても不審者ね。イブキに近づかないで」

 

然し残念ながらヒナからは拒絶されてしまう。その言葉を聞いたベア先生は笑顔のまま石のように固まった。何だか哀れに見えてきたので今度何かしらの埋め合わせはしようと思えた。

 

「…あ、ファーザー♡」

 

黒服に気づいたヒナは小走りで近づいていき腹部に顔を埋めるように抱き着いた。今回は頬ずりを行わなず角は刺さらなかった。そのまま息を吸って吐いてを繰り返しほんのりと暖かい息が腹部辺りに触れている感覚を味わった。そして少し暗さが増した目で見つめながら口を開いた。

 

「もう、勝手に出歩いたらダメじゃない。前に30分くらい離れたら情緒不安定になるって言ったでしょ? それにゲヘナ以外の自治区なんて何処からファーザーを襲おうとする女が現れるか分からないもの。次からは気をつけてね」

 

「…はい」

 

この感覚はホシノに近しいものを感じる。理解し難いが何故生徒はここまで依存体質になってしまうのか? 恐らく最初に出会った段階では実験に利用するか、或いは学園に滞在する理由があり彼女を言いくるめている可能性はあるもののここまで重い感情を抱かせる意味はあるのか? それとも生徒達は愛に飢えている可能性も…?「ん、ただのクソボケ。恋愛漫画の無自覚主人公みたいで気持ち悪いくたばって」シロコの発言みたいなものが聞こえた気がするが気にしないでおこう。

 

「ところでファーザー、そこにいるおばさんは知り合い? 頭が二つある人や頭がなくて絵を持ってる人、あとは白髪の目玉が大量についてる人なら見た事あるけど」

 

「知り合い…まあ、同志みたいなものですね」

 

「ふうん…まあ知り合いなら良いわ。被害が出る前に牢屋に突っ込んでおこうかと思ったけれどファーザーの知り合いなら大丈夫でしょう」

 

ヒナはこちらの目を見て話している為気づいていないが彼女が何かを言う度にマダムが痙攣して面白い事になっている。泡を吹いて倒れていたが急に我に帰ってこちらの胸ぐらを掴んできた。

 

「黒服あんた何やらかしてくれてるんですか!? よ、よりにもよってヒナに手を出すなんて!! 確かにロリコンだとはずっと煽ってきましたがまさか本当に幼児体型の子にしか興味ないとは思いませんでしたよ!? あれですか、世界線が違うから現地妻でも作ってやるぜクックック…みたいな思考なんですか!? そんな事が許されるのはゲームの中だけですよこの大馬鹿者が!!」

 

「ねえ」

 

「なんですかヒナ、今私はこの情けない大人にお説教を…」

 

今私のファーザーを馬鹿って言った?

 

「…ァ」

 

ふふ…

 

ふふふ…

 

ふふふふ…

 

 

 

 

 

 

殺す

 

ヒナは怒った。その姿には何故だか懐かしさを覚える…かつてはホシノもこんな風に怒りに身を委ねて恐怖に染まったのだろうか? 非常に興味深い。間違いなくマダムはボコボコにされるとは思うが良いか…

 

「おや、ヒナはそのように怒るのですね。思えばヒナからは一度も純粋な殺意を向けられた事はないような気がします。これも良い経験にはなりますね。それはそれとして流石の私も命の危険を感じますが。はてさて、どうしましょうかね」

 

意外にもマダムは冷静に分析をしていた。愛しているヒナに殺意を向けられた事で頭がおかしく…いや、ゲマトリアである以上元から頭はおかしいのでそれはないか。そうして見ている間にヒナはマダムの顔面に蹴りを入れて数10メートル吹き飛ばした。…ふむ、ホシノ程ではないにしても中々の力強さだ。どの世界線でも彼女は相当な実力なのだろう。然し吹き飛ばされたマダムは想像よりも軽やかに立ち上がって埃を振り払っていた。

 

「…これは中々痛いですね。尤も心の傷の方が痛かったのですがね」

 

「今の蹴りをまともに受けておきながらそこまでダメージを受けていないのね。耐久力は高いのね」

 

「お褒めの言葉を頂きありがたい限りです。ならば私も手加減せず甘やかさせて頂きます」

 

突然、ヒナの背中に寒気が走った。本能が危険信号を発している、そんな感覚を味わった。それもその筈、目の前にいる大人は『空崎ヒナ』という存在に関する事なら大抵の事は把握している存在。それがどれだけ恐ろしい事か…

 

「それはそれとして私はそろそろホシノの元に戻りたいのですが」

 

勝手に争う分には問題ないが本筋を大切にして欲しいものだ。




ヒナにお父さん呼びされたいなって時々思います
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。