例えばこんなゲマトリア   作:スカイブルーホワイトヘアー

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もうどうすればいいのか分からない、そんな時のあいつ

今日は非常に濃い一日だった。時間を無駄にしたとも言えるだろう。結局ホシノの元へは行けずトラブルメーカーに振り回されて消耗させられ、無害だったのは一般生徒とイブキだけだったゲヘナにうんざりした。帰るべき場所へ戻りたくて仕方がない。今からでも徹夜して元の場所に戻れる装置の開発に勤しむとしよう。

 

そんな事を考えていると突然目の前に黒い裂け目のようなものが現れ、中から救世主が現れた。

 

「久方振りだな」

 

嗚呼、同志マエストロ。この状況において一番心強い存在が来てくれた…

 

「何やら又面倒な事象に巻き込まれているようだな。まさかこのような場所に居るとは、捜索が難儀する訳だ」

 

「ええ。精神的に参ってしまいそうでした。貴方が来て頂いて助かりましたよ」

 

「それは何よりだ。さあ、ホシノも心配しているだろう。これを使って早く戻ると良い」

 

そう言ってこちらに灰色と黒い気体が二層に分かれている小さな試験管を手渡してきた。何やら強い神秘を感じる。

 

「これは?」

 

「大きいシロコから受け取った『ん、なんか原理はよくわからないけど知り合いの所に行ける物体』だ。色彩に接触し反転した生徒は転移能力を得るらしくそれを閉じ込めたもの…と言われたがあまり解析出来てはいない」

 

「ほう。それは些か興味がありますが…シロコに関わるものというのは抵抗がありますね。如何せん彼女に良い印象がないもので…」

 

「お前の生徒であるシロコは少々イカれているからな…まあいい、とにかくそれを使ってホシノに会ってやれ。使い方は手にもって会いに行きたい相手の顔を思い浮かべるだけだ」

 

「ありがとうございます。それでは早速」

 

彼に言われた通りホシノの顔を思い浮かべて…失礼、夜のホシノを思い浮かべてしまった。ちゃんとしたホシノの顔を…ふむ、今度は顔を真っ赤にしながら手づくりのネクタイを手渡してくれた時の顔だ。そんな思い出を振り返っている場合ではなく今のホシノを思い浮かべよう。その眩しさに目が眩むような笑顔のホシノを…

 

その想いに応えるように試験管に入っている気体が少量漏れ出して黒い裂け目が生成された。…先程マエストロが通ってきた裂け目の隣に。

 

「これ…マエストロが使った道を通れば良かったのでは?」

 

「…そうだな。想定よりも裂け目の維持される時間が長かったようだな。だが今作った裂け目の方がホシノの近くに行けるのではないだろうか」

 

「私としては助かるのでそれでも良いですね」

 

「さあ、早く戻ると良い。私はゲヘナ生に頼まれたマダムとヒナを回収してから戻るとしよう」

 

「そうでしたか。それでは先に失礼しますね」

 

「ああ」

 

マエストロに感謝をして黒い裂け目を通ってホシノの元へ。ここまで辿り着くのに一週間程かかったような…そんな体調の気怠さを感じながらその場を後にした。

 

「…えへへ、面白そう♪」

 

…可愛らしいトラブルメーカーもついて来ている事に気づかずに。

 

 

 

 

裂け目を通って到着した場所は夜桜舞い散る和の雰囲気が漂う百鬼夜行の自治区。マダムが言っていた通り自主的に先生見習いとして活動しているのだろう。時刻は深夜を回っているため一度何処かの宿で休んでからホシノの元へ向かった方が良いだろう。何がとは言えないがきっと彼女は飢えている筈、夜に顔を合わせたら碌でもない事に発展しかねない。大人しく宿で休むとしよう。すぐに会う為に色々とやってきたのにこういう行動をとるのはおかしいとは思うが疲れた状態で彼女に会うのは何だかよくないような気がしてならない。本来寝る必要はないものの人間であった頃の習性は未だに健在のようだ。…嗚呼、そんな思考を巡らせていたら瞼場重く…そう言えば瞼なかった。アイマスクをつけて寝よう。

 

 

 

 

 

 

 

「ホシノ先生、布団を敷いておきましたわ!」

 

「おーありがとう。いやぁ…思っていたよりも書類仕事が多かったねぇ」

 

所変わってこちらは百鬼夜行にある百花繚乱が集まる委員会室のような場所。深夜になってようやくひと段落して身体を伸ばすホシノと補佐役のユカリ。結構相性が良いのか比較的順調に仕事の方は進んでいた。

 

「でもあれだね、先生の仕事ってよりは生徒会の仕事っていうか…私が想像しているような内容ではなかったよ。もっとこう…大人! みたいな仕事だと思ってた」

 

「派手な内容のものはそこまでありませんわね。ですがそういう細かな仕事も治安維持の為に大切な事ですの。縁の下の力持ち! ともいえるくらい大事な仕事ですわ!」

 

「私もそう思うよ。だけど…私の知る大人達もこういう地道な仕事をしていたのかなぁ…見回りはともかく書類整理とか殆ど先生や後輩達に任せっきりだったし…」

 

「そうなんですの? 初めてとは思えない程の手際の良さでしたのに…流石はあびどすのえり~とですわね!」

 

ありがとう、と伝えつつ用意してもらった布団に入る。普段よりも頭を使った為パジャマに着替える余裕もなく制服のまま横になった。疲れた時に入る布団は良い、とても良い。一度入ったが最後ずっと出られなくなる程の魔力を秘めている、そんな存在。そんな暖かい存在であっても彼女の心に空いた穴は埋められない。

 

「先生…会いたいよ…」

 

小さな弱音を吐いてホシノは眠りについた。

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