あれから少し準備をして私、イブキちゃん、アヤメちゃんの三人で行くことになった。浮気じゃないなら黒先に申し訳なさすぎるし百花繚乱の代表として手伝いたいと言ってくれた。そしてイブキちゃんの案内の元黒い裂け目? がある所に到着した。…確かに裂け目がある。何処かで見たような、それでいて懐かしさを覚える独特の雰囲気を感じる。
「ここを通って百鬼夜行に来たの?」
「うん、そうだよ。パパの後をついていったの」
「もしこれが本当に別の世界に繋がっているとしたらもっと百鬼夜行が盛り上がって…いや、治安維持が大変そうになるから用件が済んだらどうにか処理しよう…」
頭を抱えるアヤメちゃんを横目に裂け目にゆっくりと入ってみる。足場があって空気もある。遠くに百鬼夜行とは違う部屋の中が映った景色が見える。幻想的、そんな印象を覚えた。
「これって黒先達の技術なのかな? それとも天才だらけと噂に聞くミレニアムの技術?」
「多分先生達の技術かな。昔ミレニアムには出張した事があるけど大きなロボットしか記憶にないかも…」
「それはそれで興味があるけど…今はこの子を送り届けないとね」
そんな風に話をしながらも向こう側の景色…ゲヘナっぽさを感じる何処かの部屋に到着した。隣に同じようなゲートがあるのは置いておくとして…なんか他の世界って感じはしないなぁ…一先ず大きな廊下に出てイブキちゃんの知り合いを探そうとした。
「なんかゲヘナの割にはそこまで生徒がいないね」
「今は夏休みなんだ~。だから殆どの子達はお出かけしてるの」
「そうなんだ。夏だもんねぇ…」
「…ホシノさん、こっち来て。あれ…」
「? どうしたのアヤメちゃ…」
扉の先にある景色から目を背けるように上を見る。『風紀委員会室』と書かれている看板を見たうえで見たくはないけど見てしまう。二人のヒナがベアさんに説教されていた。しかも片方はギャン泣きしてるし…友達のそういう姿はちょっと見たくないな…あれには触れないでおこう。
「ゲヘナには白いもふもふ髪の姉妹が居るんだね…」
「あ、あはは…」
もう苦笑いしか出なかった。まあそうだよね、ヒナが居るならベアさんも居るよね。いつもの光景すぎて逆に安心感覚えたよ…まあ一応ベアさんも元々この世界に居る人の可能性はあるけどあれは私の知るベアさんに間違いない。…多分?
そんなこんなでゲヘナを歩いている内にイブキちゃんが所属している万魔殿、パンデモニウム何たらみたいな組織(後でヒナに聞いたら生徒会のようなもの)の委員会室に着いた。流石に夏休み期間とはいえ生徒会なら誰かしらいるだろう、そう思って扉を開けた。…それが間違いだった。
「おやおや、お客様ですか? アポなしで来るとは余程お急ぎのようで…いえ、構いませんよ。今ゲヘナ生徒の大半は絶賛サマーバージョン中で仕事も少ないのでね」
身体がその姿を見るのを拒絶する。聞き慣れた声から繰り出されるマシンガントーク…そして随分と薄い生地のスーツを着てこちらに近づいてくる異形の存在。
「ゲヘナへようこそ、他校の生徒達」
ウェルカムドリンクを差し出してきながら笑顔…? で話しかけてくるのは見た目だけなら私が大好きな先生だった。
「ん~? おや? おやおやおや!? 貴方達の背後に居る可愛らしい天使が顕現したと見間違えてしまうほどに可憐なゲヘナの至宝、イブキではありませんか!! もしや迷子になっていたイブキを他校の貴方達がゲヘナまで連れてきてくれたのですか!? 嗚呼、なんて素晴らしい人格者なのでしょう!! ささ、そんな入り口で立ち止まってないで是非ソファーにお寛ぎください!!」
「あ、私は用事があるので帰ります」。それが咄嗟に出た言葉だった。この劇物と話すのは身体だけではなく心も拒絶反応を起こしている。こんな世界きえちゃえ、と言いたくなる程に気持ち悪い。こんなの先生の尊厳破壊だよ。ダメだってこんな特急呪物を世に解き放ったら。
「まあまあそう言わずに。…おや、貴方はホシノでは? いつもヒナがお世話になっております。髪を切っていたからか随分と雰囲気が変わっておりましたので咄嗟に気づけませんでした。私もまだまだ生徒愛が足りませんね…精進します。そちらの青い布を羽織っている美しいお嬢さんは百鬼夜行の生徒ですね。いつか侵略…もとい出張にでも行こうと思っていたところです。私はゲヘナ学園代表、通称『ファーザー』と呼ばれている黒服と申します。以後お見知りおきを」
「あ、ああどうも…七稜アヤメです。宜しくお願いします」
普段フレンドリーなアヤメちゃんですら敬語になっちゃうくらい引いてる…キャラ崩壊ってレベルじゃないもんね…
「ホシノさん、どうする…? 一刻も早く立ち去りたいけど行為を無下にできないよ…」
「確かにそうなんだけど…あれは流石にきついよ…この世に存在してはいけない禁忌の生物だよ」
「二人とも仲が良いのですね。まぁまぁ続きは中でじっくりと聞きますので。ささ、こちらへどうぞ」
「…じゃあ、少しだけ」
「ホシノさん、良いの?」
「ちょっとくらいなら多分…」
…なんだか断りづらいので少しだけ話をすることにした。私は正気を保っていられるのかな…