ホシノが起きる数時間前、まだ朝日が登りきっていない頃。自分の布団で寝ている時に何度もスマホの着信音が鳴る。アラームの時間にはまだ早いと思いつつも手を伸ばして画面を見ると後輩であるユカリの名前が表示されている。モーニングコールかな? と軽いノリで「おはよう」と返事をすると
「大変ですのぉ!?」
と鼓膜が破けそうな大声で目が覚めた。耳鳴りに頭を悩ませつつも「どうしたの?」と問いかけた。混乱しているのか殆ど聞き取れなかったものの『百鬼夜行に不審者が現れた事と様子のおかしい生徒を保護した』という内容は把握した。とりあえず百花繚乱の集会所に連れて来るよう指示を出して顔を洗い制服に着替えてから多少怠い身体を無理やり動かして家を出た。
…到着するや否やその異質さに自分がまだ夢を見ていると疑いたくなる程だった。数人の一般生徒達が虚な瞳で何かを呟いている。聞き取ろうとして彼女達に近づくと「ファーザー」と言っているようだ。…この時点で原因に対する心当たりが出来たので受け入れたくはないが現実だと認識してしまった。
(例の気色悪い黒先が来ちゃったのか…それで片っ端から何かをしてるっぽい。多分裂け目を通ってきたんだろうね。はぁ、昨日の時点でさっさと裂け目を対処しておくんだった…)
これを気に面倒な事を後回しにする癖を治そう、そんな風に考えながら対策を練り始める。第一に周辺地域の見回りを強化する事、第二にややこしくなるので事態が収束するまでは普通の黒先とホシノを家から出さない事。第三にこれ以上被害を増やさせない事。ただでさえ百鬼夜行は他校と違い担当の先生が決まってまだ間もない状況なので変なものに掻き乱されたらより面倒になる。以上の点を洗い出して続々と集結した百花繚乱のメンバーに指示を出し自分もホシノ相手に暫く家から出ないでと連絡をしてから見回りを行う事にした。
…結論から言うと変態はすぐに見つかった。生徒に熱い口付けを交わしている所を目撃した一般市民から通報を受けてその場所に向かうと善良な一般生徒を口説いてお持ち帰りしようとしていた見た目だけなら黒先と瓜二つなイカれ野郎と目が合った。こちらを見た途端気味の悪い笑顔を浮かべて近寄ってくる。
「おやおや、おやおやおやおや。貴女は昨日イブキを連れてきてくれたアヤメではありませんか。おはようございます」
「あーうん。一応聞いておくけどあんたは何をやってるの?」
「イブキに百鬼夜会は花が綺麗に咲いてて優しくて綺麗なお姉さんがいっぱい居ると聞きまして。ヒナの場所を教えて頂いたお礼も兼ねて百鬼夜行の生徒達を味見…もとい挨拶回りを行っておりました。あ、こちら御礼の金百封です」
「あー…どうも。気持ちは嬉しいんだけどさ、私今からあんたを猥褻容疑で捕まえないといけないんだよね」
「猥褻…? それは心外ですね。私はただすれ違う生徒を抱きしめて唇を奪ってから○○して○○の後○○を…」
「OK分かった、もうその姿で喋らないでね」
これ以上黒先の姿で気持ち悪い事を言われたら色々と困るから麻酔弾をひたすら打ち込んで鎮静化させた。昔マエ先から貰った対変態抑制用の強力なものだ。彼の想定だとベア先に対して使うものだと認識していたがまさかエアプ黒先に使う事になるとは思っていなかった。
「とりあえず騒動はこれで一旦片付いたかな。ホシノさん達にも片付いたって連絡をしないと」
なるべくこの変態を見せるのは避けておきたいし牢屋に隔離しておこう。その後裂け目の事を黒先に相談しよっかな。
「ホシノ、スマホに通知が届いていますよ」
「わ、分かったから早く離してぇ///」
「耐性は全くついていなさそうですが致し方ありませんね」
アヤメからの連絡が来るまで数十分ホシノは黒服に後ろから抱きしめられ続けた。それで耐性が上がる事もなく顔を真っ赤にしていたおかげで冷房がついているにも関わらず汗だくになっていた。どうにか抜け出せて汗の匂いを嗅がれていないか心配になりつつスマホを見ると
『お待たせホシノさん! 解決したよ!」
と連絡が届いていた。結局何だったんだろうと思いつつも先生にそれを伝えて一緒に百花繚乱の集会所へ向かった。道中先生を見てひそひそと何かを話している人が居たがきっと先生がカッコよすぎるって話をしていたに違いない。そうじゃなかったら撃つしかない。
「…ホシノ、一つ嫌な予感がするのですが今伝えても良いでしょうか?」
「どうしたの先生?」
「先程小さな声で話していた方々の内容を盗聴したのですが…私の事を『あれが噂のファーザー?』と仰っていたのです」
「ファーザー? 何それ、先生はアリスちゃんとケイちゃんの父親でそれ以外に子供は……」
そこまで言って思い出してしまった。昨日ファーザーと呼ばれていた先生に姿だけは似ているクリーチャーの事を。もしかして先生と私に手伝わなくても大丈夫なんて念押ししてたのもあいつが来てるって分かってたから…?
「ねえ先生…私このまま百花繚乱の場所に行くの嫌になってきちゃった」
「奇遇ですね、私もです」
数分考えてから先生とそれを目指している人である以上避けては通れぬ道だと理解して向かう事にした。