先生の記憶処理が上手くいったのか悪夢に悩まされた百鬼夜行は何事もなくいつも通りの日常が戻ってきている。まるで災厄の大人が搔き乱していった事がなかったのように生活しており不安因子は見当たらない。先生と百花繚乱の子達と協力して私の先生研修を進めて…進め…
「何かおかしくない?」
「どうしたのですか?」
「すぐに解決したっていうか…結構な大騒ぎだったのにあんなにあっさり解決して良かったのかなって」
「容易に解決できるのであればそれに越したことはありません。本来我々は先程の呪物のような異端者を呼び寄せず不安の種を事前に潰し平穏な生活を維持させるのが目的です。それが生徒を導く先生としての責任ともいえますね」
へへ…見なよ、私の先生を。こんなにも頼れてカッコよくて人格者な最高の大人を。もう先生しか勝たんよね。世間ではベアさんやマエさん、ゴルさんが良いとか言ってる人はいるけど断然私の先生が一番良いのはもう証明されたようなものなんだよね。あ、勘違いする人がいるかもしれないから一応補足しておくとあくまで私にとっては、だからね。
「ホシノ? 急に壁を見始めてどうしたのですか?」
「ううん、やっぱ先生はカッコいいなって思ったから壁を見てた」
「? まあいいでしょう。それよりも書類整理は苦ではありませんか?」
「正直少しだけ…今まで先生や後輩達に任せてたからかこんな面倒だとは思わなかったよ」
「もう少し経験させてくべきでしたかね…当時は身体的な成長を優先してしまったのでかえって成長の妨げになってしまった可能性も…」
「そこはそんなに気にしてないよ。先生のお陰で私は凄く強くなれたんだから」
「ホシノが後悔していないのであれば幸いです」
そう言って微笑む先生。やだもう好き! って気持ちを抑えながら改めて書類の束に目を通す。…数多くない?
「『お祭りの予算案計画書』『忍術研究部の登録者を伸ばす計画書』『地域貢献活動』…ねえ先生、アビドスの書類整理もこういうまじめな奴とお遊びっぽい書類が来てた?」
「アビドスの書類は…主に地域貢献のものが多かったです。殆ど生徒達が居ないのでこういった若さを感じる、青春を象徴するかのようなものはありませんでしたね」
「そっか…」
そうだよね、アビドスは現状どうにかなってるけど確実に廃れていってる…そう思うとこんな事をしている場合じゃ…
「先生研修を受けている場合ではないと考えていますね?」
「うぇ、どうしてそれを…」
「顔に出ていましたので。こう見えて誰よりも貴方と過ごしてきた時間が長いのです、考えている事くらい理解出来ます」
こういう事をしれっと言ってくる辺り先生は本当にカッコいい。すごく好き。
「確かにアビドスの現状は芳しくない状態です。然し貴方には後輩と先輩が居ます。彼女達を信じ自分を磨くのが今貴方がするべき行動なのではないでしょうか。それに本当に不味くなったら私がどうにかするので今は気にせずに自分の為に時間を使ってください」
「先生…うん、分かった。そうだよね、皆頼れる子達だし信じてるよ。歳の割にしっかりしてるしね」
「それはホシノにも言える事ではありますが…まあいいでしょう。もう暫くしたら見回りに行っている百花繚乱の生徒達が戻ってくるのでその際に休憩の時間を挟みましょうか。頃合いを見て書類整理を中断してくださいね」
「はーい」
先生からあったかい言葉を掛けられてやる気が出た私は書類整理に身が入った。これが将来役に立つかは分からないけど何事も経験として頑張ろう。そして先生くらい立派な頼りになる大人になるんだ!
ホシノが書類整理に集中し始めたので距離を取り様子を見ていると背中から何かに抱き着かれた。少しばかり距離感がおかしくなったアヤメだ。
「見回りご苦労様でした。何か異常はありましたか?」
「小さな喧嘩とかはあったけどそれくらいかな」
「そうでしたか。後で報告書にまとめておきましょう。所で何故抱き着いているのですか?」
「え? …わっごめん黒先! つい無意識で…」
「成程、無意識ならば仕方がないですね。ただホシノに見られたら戦争が起きるので今後は控えてくださいね」
「うん。二人きりの時だけにするね」
「はい。…はい?」
もしや殆どの生徒達は愛情に飢えているのだろうか? 大人に抱き着きたいとはこれ如何に…年頃の子が何を考えているのかは理解しかねる。
「あ、先に言っておくと節操は弁えてるからね! 黒先がホシノさん一筋なのは知ってるから! …でもさ、見回り中に考えたんだ。黒先が私を選んでくれる可能性もあったのかなって…」
「ふむ。どうやら相当お疲れのようですね。本日は早退して休んだ方が宜しいかと」
「…そうかも。今日は帰って休むね。変な事言ってごめん! また明日ね!」
「ええ、お気を付けて」
彼女は少なからず劇物の影響を受けているようだ。昨日までの態度とあまりにも違う。恐らく一番汚染されてしまった影響なのだろう。黄昏の時と言いアヤメは不憫な生徒だ。…先程濁した答えも彼女が満足のいく答えは出なかっただろう。当時は生徒が秘める神秘、それも最大の神秘であるホシノにしか興味を示さなかった。
「…ただ、不快感を周囲にまき散らす黒服が居るのと同様に何処かの世界には居るのかもしれませんね。アヤメという存在に一途な黒服も」
例えそういう存在が居たとしても私の生徒であるアヤメが救われる事はないだろう。今後の為にも何かしてあげられる事を考えるとしよう。
明日から仕事が忙しくなるかもしれないのでもしかしたら一週間くらい更新途絶えるかもしれないです。問題なさそうならそのまま続けます