「なるほどねぇ…」
休憩時間中に先程アヤメとの会話や行動、どう対処するべきかをホシノに相談する。こういう内容はマダムの方が詳しそうではあるものの劇物の件がある為信用できるホシノを頼る事にした。暫く考えた彼女は絶対に言わなそうな提案をしてくる。
「メンタルケアとして一緒にお出掛けしてあげるのはどう?」
「???」
「勿論抱き合うとか膝に座らせるとかえっちな事はダメだよ! でもアヤメちゃんにはお世話になってるし節操は弁えるって言ってくれたのならいいかなって。それにアイツのせいでそうなっちゃってるなら尚更ケアしてあげてほしいなって」
ホシノにとっての卑猥の定義がズレてはいるもののあれだけ独占欲駄々洩れな彼女の口から他の生徒と出かけるという提案をされるとは思っていなかった。それ程例の化け物が与えた影響が大きかったのかもしれないが…
「私が慰めるよりも先生の方が得意そうだし…任せていい?」
「二人で出かける事を許可して頂けたのであれば構いません」
「ありがとう先生。あ、一応言っておくけど先生とイチャイチャしていいのは私だけだからね! 浮気厳禁だよ!」
「ホシノ以外に恋愛感情を抱く理由がないので浮気はしないです」
そう言って顔から湯気が出ているホシノの書類整理を手伝いつつ本日の業務を終えた。結果としてアヤメと二人で出かける方針になったものの彼女自身が了承しなければ意味がないのでアヤメに連絡をする事にした。
『大丈夫だよ。どうしたの黒先?」
『え』
『いや』
『ちょ、え』
『ふふふたりきり!?』
『えっ』
『いきたい』
『行かせてください』
『いいいいえに!? だ、ダメだよ黒先、既婚者なんでしょ!?』
『そ、そっか。そうだね。じゃあ黒先、明日待ってるね』
やけに動揺していたが無事約束を取り付けられた。これで少しでも彼女の気分転換になれば今後もスムーズにホシノの成長を見守れるだろう。
「先生、どうだった?」
風呂上がりのホシノが問いかけてきたので「上手くいきましたよ」と伝えた。彼女は「そっか、良かった」と膝の上に座って身体を預けてくる。
「そういえばアリスちゃん達っていつ来るのかな?」
「今は部活の存続の危機らしく徹夜でゲーム開発に勤しんでいるようです。『ムービーで本編に出ない謎のおじさんを吹き飛ばすゲーム』があまりにもクソゲーだったようでケイ監修の元バグがなくてある程度遊べるゲームを用意しているのだとか」
「うへぇ…しらないおじさんが吹き飛ぶゲームよりもまた先生と恋愛できるVRゲームとか開発してくれれば私的には嬉しいのに」
「おや、実物の私では物足りないのですか?」
「実物が一番だよ。ほら、認めたくないけど私先生に甘やかされるのに弱いからゲームとかで耐性つけられないかなって」
「ああ…まあ、そういう改善しようとする姿勢は良いと思いますよ。それよりもホシノがアリス達と連絡を取っていないのが意外と言いますか…」
「連絡は取ってるよ? 『暑いから水分補給はしっかりね』とか『お昼ご飯はしっかり食べた?』とか『門限はしっかり守ってね』とか」
「まるで母親みたいな…いえ、母親でしたね」
その歳で母性を出すには少々早すぎるのではないかと多少心配になる。何処かの先生は『"時には生徒にバブみを感じてしまう事もあるんだ。特にユウカ"』なんて馬鹿げた事をラーメンを食べながら言っていたが年下の未成年に求めていいものなのかは疑問だ。少なくともホシノにはまだ早い。
「年相応の対応をすればいいと思いますよ。それこそ友人感覚でアリス達と接すれば良いかと」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど…アリスちゃん達に対してはなんかそういう感じになっちゃうんだよね。満更でもないっていうか、このままでも良いかなって」
「ホシノ自身がそういうのであれば私からは何も言う事はありません。嫌々母親代わりになっていないのであれば」
「先生って無意識かもしれないけど私に対して心配性だよね。そういう所も好きだよ」
さりげなく愛を伝えてくるホシノに抱きつかれつつそのまま布団に運んで寝かせた。疲れていたのかすぐに眠りについた彼女の側で一息ついて外を眺める。満月が綺麗な光を放っており結構明るい。この時間帯でもまばらまばらではあるが通行人が居て百鬼夜行がアビドスよりも栄えている事実を改めて痛感する。
「だからどうしたと言うのでしょうね」
そういう当たり前の事を考えてしまう辺りもうどうしようもない。精神的に疲れているのでもう寝よう。寝るしかない。