戻ってきて早々に仮住まいの家に向かいノートパソコンの電源を入れて起動させる。他のゲマトリア達に連絡して緊急性のある会議を行う事を案内した。丁度そのタイミングでホシノが帰宅し興味がありそうにこちらを見てくる。
「ただいまーって先生、何してるの?」
「おかこれから緊急で会議を行う予定でして。本来であればいつもの場所で会議を行うのですが一部の方はどうしても持ち場から離れられないようで」
「そうなんだ。ねえ、隣で聞いてても良い?」
「勿論です」
パソコンの操作を行い4分割にされた会議の画面で待機する。まだ他のゲマトリア達は来ていないようだ。ホシノの頭を撫でつつ参加してくるのを待っていると見慣れた絵画が参加してきた。ゴルコンダだ。何故か隣にプリンが添えられている絵面で。
『こんにちは。長い数日を得て漸く光明が見えてきた私でございますが如何お過ごしでしょうか?』
「お久しぶりです。前回連絡を頂いた際に不安になるような文言でしたので近いうちに訪ねようと思っていたのですが問題なさそうですね」
『問題ないかと言われましたら大いにあります。ですが最近一人の生徒に救出されましてこうして正気を取り戻したという訳です』
「成程。おや、デカルコマニーはどちらに?」
『プリンを作るのに忙しいので不参加と言っていました』
「そうですか…」
彼らは一心同体であった筈なのに何故こうなってしまったのか? レッドウィンターの生徒達に毒されたのかあるいは…と考えている内にマエストロとマダムがほぼ同じタイミングで会議に参加してきた。
『ヒナーヒナーあ、テストコールです。聞こえていたら返事をして…おや、どうしましたヒナ? え、抱きしめて欲しい? どうぞ!!』
『相変わらずの能天気で安心すら覚えるな…こっちは爆破予告のせいで警戒せざるを得ないと言うのに』
ヒナと抱き合ってカメラすら見ていないマダムと後ろから誰かに肩を揉まれているマエストロ、そしてプリンとツーショットしているゴルコンダ。一体いつからこうなってしまったのか。一先ずそれは置いておいて簡潔に伝えてしまおう。
「皆様お忙しい中お集り頂きありがとうございます。緊急で伝えねばならない事がありまして…『奴』が動き始めました」
『ほう…』
『何…?』
「つきましては彼の対策について話し合いたいと思い…」
『ちょっと待ってください。奴とは誰の事を言っているのですか? まさか同志黒服の事ですか?』
「違います」
『ならば問題ないでしょう。ヒナとホシノの強つよパワーで何とかなりますよ』
『待て、私の妻を忘れるな。キヴォトスで一番強いのは間違いなく彼女だ』
『キヴォトスを理解出来ていませんねマエストロ。キヴォトスでは幼児体型であればある程パワーが強いのはヒナが証明しているのです!!』
『それは聞き捨てならないな。強さ=幼児体型であれば私の妻やミカ、百鬼夜行出身の災厄の狐の強さをどう説明する?』
『グッ…』
「お二人とも、そのような些細な問題で争っている場合ではないのです。ホシノが一番強いので議論する余地もないのですから。はっきりいってホシノとそれ以外、に分けるのがよろしいかと」
『『戦争か?』』
『…皆様楽しそうで何よりですよ。ただそういう惚気話を聞く為に会議をしているのではありません。ここは一つ私のプリンに免じて本質を思い出しましょう』
「…失礼、つい興が乗りすぎましたね。話を戻すと私に千件ほどメールを送ってきてシャーレを爆破する、といった内容のメールを送ってきたのは『地下生活者』です」
『成程…』
『はぁ…』
『…誰ですか?』
「ほぼマダムと入れ替わる形で存在すら忘れたかった厄介者です」
『私の崇高を『小生はそんな崇高を認めない!!』とか言って殴りかかってきた事もあったな…』
『自分の好きなものしか認めずそれ以外は許さない、そんな精神なので我々とは別々の道を歩み始めた元ゲマトリア、といった立ち位置の方です』
『マダムの方がマシだと思える奴だったな…』
『私よりも酷い奴だなんて許せませんね。私も警戒網を張るとしましょう』
『あいつめ…顔を合わせたらぶん殴ってしまいそうだ』
「そういう事ですので皆様お気を付けてください」
『ええ』
『はい』
『ああ』
想定よりも長引いてしまった会議を終えてホシノと目を合わせる。彼女は会議中大人しく待っていてくれたものの内容を聞いていたので質問をしてくる。
「ねえ先生、さっき言ってた人って先生にとっての敵?」
「敵のようなものです。相反する存在と言いますか…」
「そっか…うん、分かった」
ホシノはそれだけ聞くと百鬼夜行に訪れてからずっと開封していなかったスーツケースを開く。中には拳銃と防弾アーマーが入っており…
「それは一体?」
「ちょっと前に用意した『戦闘モード』になる為の武器防具。どうかな先生、似合う?」
くるくると回転して防弾アーマーを見せてくるホシノ。元々彼女が着用しているシャツは防弾性のものであるがそれの上に着ることで更に強固な守りになるのだろう。
「よくお似合いですよ。言葉にするなら『臨戦』って感じがします」
「そうなの? じゃあ臨戦モードに名前変えようかな…とにかくこれで先生の敵を全員ぶったおすね!」
そう笑顔で微笑むホシノを見て今回は大きな被害も出なさそうで余裕を持てそうだと考えた。