「ホシノの耐性を上げる為にはどうすれば良いのでしょうか?」
ゴルコンダが研究を行っている最中、部屋に入り愚痴を吐くかのように黒服はそう言った。
「俗に言う『イチャイチャ耐性』という概念でしょうか。然し昔からそうだった訳ではないのでしょう? そこに答えはあるかと思いますが」
「確かに昔のホシノは素直でもありつつ気難しい反抗期の娘みたいな存在でしたが…いつからと言うとホシノが三年生になり実験結果に満足したあの日から彼女の様子はおかしくなっていった気がしますね。独占欲の様な粘着質を発揮し始めていた…」
「惚気話、ではなさそうですね。その辺りの話は前にゲマトリア会議で聞きました。その辺りだと睨んでいるのであればそこに原因があるのでは?」
「ふむ…」
その辺りのホシノの言動を思い出してみる。いつも通り日常を過ごしている間健康診断と偽って実験を行い彼女を反転、基テラー化させた。その後抱きついたホシノは元に戻り帰ろうとした際に小さく「好きだよ」と言われ知っていると返事をしたら盾で頭を殴られて…それ以降更に依存されたように…
「…もしあれが原因だとしたら未だに引きずっているのも違和感があるので流石に違うと思いたいのですが…いえ、あれが起点で間違いないとしても…」
「何か思い当たる節があるようですね」
「起点はありますが流石に前の話なので…今のホシノが引きずる可能性が無いに等しいのですが…何より前のホシノは頭を撫でた程度で気絶はしませんでしたし」
「頭を撫でて気絶は話を盛りすぎでは?」
「いえ、先程も会議中に頭を撫でたら気絶しました」
それを聞いたゴルコンダは数秒黙ってしまった。甘え下手とかそういうレベルではなくそういう病気なのでは? と疑う程には。
「そういう精神的な病を患っているのではないでしょうか?」
「いえ、何度も検査をしましたが身体は健康体そのものなんです。毎日の栄養管理も睡眠時間も運動能力も平均水準以上に仕上げておりますし学力も磨きつつあるので」
「その熱量があるのに何故原因には気づかないのでしょう。『恋は盲目』とはいいますが…まあそこは置いておいて…私の仮説を聞いて頂けますか?」
「伺いましょう」
「突然ですが『覚醒』には副作用があるのはご存知ですか?」
「覚醒ですか…ホシノやヒナ、マエストロの嫁になったユメが行える反転とはまた違ったもの、ですよね。それに副作用があると?」
「はい。例えば空崎ヒナの場合数分間身体に力が入らず無防備になる、梔子ユメの場合色彩の汚染を抑える為か常時覚醒を維持し続ける必要がある為寿命が普通よりも短くなっている等ですね」
「そんな副作用があるとは…然し何故それを知る事が出来たのですか?」
「時間だけはあるので前に頂いた資料を基に研究したのです。覚醒というのは『本来キヴォトスという箱庭では起こらない事象』でしたので崇高を満たす意味でも良い暇潰しにはなりましたので」
覚醒、副作用。彼から発せられる声は興味深いもので研究者としての好奇心が刺激されるがそれと同時に嫌な予感がしてくる。
「お待ちください、貴方の仮説通りであればまさか…」
「…黒服のお察し通り小鳥遊ホシノの覚醒による副作用は『恋愛耐性なるものが著しく下がる』事ではないかと推測しています」
「その推測は流石にくだらなくて何ですかとなってしまいます、馬鹿馬鹿しい…」
と言いたいが思えばホシノが初めて覚醒したのは激しい戦いの中抱きしめて口付けを交わした時だったと記憶している。もしや普段の日常を過ごしている中彼女が覚醒するきっかけを与えてあり副作用だけが積み重なっていったとしたら…?
「そんなシチュエーションもあり得てしまう…のでしょうか?」
「あくまで仮説なので絶対ではありません。可能性の一つとして考えて頂ければと」
「仮にそうだとしてもどう対策すれば良いのでしょうか?」
「仮説に仮説を重ねる事になってしまうので私からはこれ以上何も言えませんが…少しずつ改善していくのが一番かと」
「そうですか…分かりました。一つの考えとして捉えさせて頂きますね」
その後ゴルコンダが用意した非実在砂糖という瓶に入った何かを受け取り自室に戻ってアリスとケイに抱きつかれて微笑みながら眠るホシノを見つつどうしたものかと考えていた。前提としてその耐性以外は全てが高水準と言える程によく出来た生徒であるのに何故そこだけ…となってしまう。それもチャームポイントだと言えばそうなのかも知らないが予想の数百倍は弱いので…所謂過酷本のような猥褻行為とは程遠いスキンシップ程度で気絶する子とどう接すれば良いのか分からない。どうすれば治るのかも分からない。
(…まあ、それも私が追った永遠の課題なのかもしれませんね)
なんだかんだでホシノのこういう部分は嫌いじゃない。だからと言ってずっとこのままなのは困るが。何事も少しずつ改善していけばいいので長い目で見ていよう。それが大人というもの。
『それっぽい事を言った気になっている所申し訳ありませんが日に日に退化していってる以上傍観するのはどうかと思いますよ』
…今回に関しては脳内ベアトリーチェを殴れなかった。やはり早急に対処しないといけないのかもしれない。