例えばこんなゲマトリア   作:スカイブルーホワイトヘアー

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複雑な家庭事情

『今日はお休み』と書かれたドアプレートを付けた後、アツコは向かい合う形で椅子に座る。年相応の少女といった表情をしている彼女を見つめていると「今日来てくれた理由は知ってるよ」と言って席を立ち何故か隣に座ってくる。

 

「子供の作り方、教えてくれるんだよね?」

 

「違いますが??」

 

「うん、揶揄っただけ」

 

そう言って笑う彼女はもう一度向かい合うように座って本題を切り出してくる。

 

「私のお母さんに会いたいんだよね?」

 

「貴女の母親…マダムの事では?」

 

「ううん。あれもお母さんだけど私にはもう一人お母さんがいるから」

 

「そうですか…」

 

もしやアツコの本当の母親が例の迷惑デバフばらまき女だったとは…そのような繋がりがあるとは思ってもみなかったので相当驚いてしまう。それにしては若い見た目だった気はするがまあいいか…

 

「それでその母親に会わせて頂けるのですね」

 

「うん。でもあくまでこの端末のデータ上にしか居ないからどうにかして会ってね」

 

「? ああ、シッテムの箱のように端末内で存在しているのですね」

 

差し出された端末には僅かながら神秘を感じるので何かしらのものがあるのだろう。早速借りてその母親とやらに会ってこの嫌がらせデバフを解いてもらおう。

 

「…で、これはどうすれば起動するのですか?」

 

「『今からそっちに行く黒ボケが何とかしてくれます』ってお母さんが言ってた。だから何も触らずに放置してた。任せたよ」

 

「…何故起動していないのに貴女の母親が居ると理解しているのですか?」

 

「愛、かな」

 

「何故そこで愛…まあいいです…」

 

一先ず電源を入れてみるとパスワードを入力する画面が出てきたので適当に『ベアトリーチェ』と入力してみた。『それはNGワードです☆』と見たことがある顔のデフォルメキャラのような存在が腕を交差させて『×』を表現している。それを見て何故だかイラっときた黒服は即座に暗号解読ツールとハッキングツールを用いて解析を始めた。前にもシッテムの箱に似た何かを解析した事もあるので意外にも楽に解析は進んでいる。『乱暴はやめてください!!』とか『エロ同人みたいになっちゃいます!!』なんて聞こえた気がするが無視し続けた。ハッキングを終えパスワードを自動入力させてロックを解除した途端、まるで画面に触れたら中に入れそうな砂浜が映っていた。

 

「流石大人だね」

 

「多少は手ごたえがありましたがホシノの乙女心よりは単純でしたね」

 

「それはクソボケだね」

 

「…まあいいです。それでは貴女の母親に会ってきますね」

 

「私も行きたい」

 

「そうですか…」

 

圧に押されつつ画面に触れると視界が暗転する。数秒暗闇に囚われたと思えばいつの間にか透き通る海が見えている浜辺に寝転がっていた。海水が靴や服に侵入してきて不快感を味わえているのを考えると生身のまま端末の中に入ってこれたのかもしれない。

 

「この水はしょっぱいね」

 

ふと顔を上げるといつの間にか水着に着替えて海水を飲んでいるアツコが居た。なぜ水着、とはもう突っ込む気が起きなかったので「海水は飲まない方がいい」とだけ伝えておいた。

 

「ここで私の水着に触れないから乙女心が分からない大人なんだよ」

 

「何故着ているのかは疑問ですが…私よりもほかの方の感想を聞いた方が良いのでは?」

 

「皆にはもう見せたよ。…で、私の水着はどう?」

 

「白くてホシノの水着みたいですね」

 

「はい減点。女の子を褒めるときに他の子を例えに出すのはだめだよ」

 

「そうですか…」

 

仕方がないでしょう、ホシノ以外の生徒に興味がないのですからと思いつつも頷いておき、さっさと用件を済ませてしまおうと神秘の反応を確認しそこに向かって歩き始める。水着のままついてくるアツコに誰かに誤解されないか多少不安になるものの一先ずは先を急ぐ事にした。

 

「あ、ここを右に曲がった先にお母さんの気配がする」

 

「本当ですか? 神秘の反応はこの先にある大きな建造物の中から感じますが」

 

「神秘云々はよく分からないけど『ロイヤルブラッド』の私の勘がこっちにいるって言ってる気がする」

 

「…まあいいでしょう。右に曲がりますか」

 

遠くにある神秘の反応は後で確認すればいいか…と考えつつ右に回り進んでいくと不器用に整備された道と所々寂れた教会の跡地のような場所に着いた。

 

「ここに貴女の母親が居るのですか?」

 

「うん。この付近に絶対…あ、居た」

 

突然駆け出して行ったアツコを目で追うと視界におぞましいものが映った。探している少女ではなく醜くほうれい線が見えそうなほどに老化している赤いおばさんが花を育てている姿が。何が悲しくてあのような品性の欠片もないクリーチャーに出会わなければいけないのか…

 

『黒服、あいつはベアカスです!! 私ではありません!!』

 

(自己紹介ですか?)

 

『あ?』

 

なんて脳内茶番を行っていたら赤いおばさんに抱き着いているアツコに手招きをされる。どうやら近づいて来てほしいとの合図なのだろうか? 正気か?

 

「成程、何故急にアツコが来たのかと疑問に思いましたが…貴方の仕業ですね、黒服」

 

「そうですね。では私は他に予定がありますので失礼します」

 

「私に用事があるのでしょう? 遠慮せず言いなさい。わざわざこんな場所まで来たのですから相当深刻な内容なのでしょう?」

 

「いえ貴女に用事は…」

 

「面倒ですね。いいから来なさい」

 

断り続けたにも関わらず赤いおばさんは遠慮なく黒服の首根っこを掴んで寂れた教会の中に入っていった。

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