「嗚呼、私ではなくあれに会いたかったのですね」
数分説明して漸く赤いおばさん事元淑女は納得したように紅茶を飲み干している。誤解が解けたのでその場を去ろうとするがアツコが足を絡めてきて逃がしてくれない。
「そういう事なので私はそろそろお暇したいのですが」
「駄目だよ、まだ家族会議の途中なんだから」
「誤解を招く言い方はやめてください。どう考えてもこれと交際するのも婚約するのも地獄ではないですか」
「同感です。こんな得体のしれない先生ストーカーの化け物と恋愛するくらいなら死んだ方がマシです。…まあ、私はもう死んだ筈なんですがね」
「では何故この場にいるのですか?」
「知りませんよ。黒服の探しているあれの茶番に付き合わされたと思えばこんな辺境の地に飛ばされて…非常に迷惑なのでさっさと眠らせてほしいんですがね」
ふん、と腕を組みながらもそう言いつつ彼女は満更でもなさそうな表情を見せる。こう見ると普段のヒナ暴走ババアと比較してもまだ話しやすそうな存在なのでは? と考えたがまた脳内で話しかけられたら面倒なので一瞬で考えるのをやめた。
「それよりも黒服、貴方はあれに会いたいのでしょう? お察しの通りあそこの建物内に居るので用事があればそちらに行きなさい」
「そうしたいのですがアツコが足を絡めて…」
いなかった。いつの間にかアツコは赤おばさんの膝に座って困惑させている。随分と悪戯好きな甘えん坊のようで…
「引き留めて悪かったですね。ではまた機会があれ…アツコ、今更ですが何故水着なのですか? 確かに一時期シャーレの当番は水着を着るといった噂がありましたがそこまで俗世に染まらなくても良いのですよ?」
…もう放っておこう。毎回このように回り道をしてしまうのもどうかと思うのであとは二人の好きなようにやらせておく。『黒服、あいつをしばきなさい!! 私のアっちゃんがNTRれてしまいます!!』とか言っていたがそれも無視した。
先程の分かれ道に戻り改めて建築物に向かって歩き出した。途中あまりにも鬱陶しくなったので脳内に埋め込まれたものを取り出して握り潰し海に向かって放り投げた。これでもう脳内ベアトリーチェに話しかけられる事はないだろう。軽くなった身体で歩いていき建物の入り口に到着して認証式の扉に触れた途端、探し求めている存在のホログラムが表示された。
『どうして来ちゃったんですか!?』とかなんとか言っている間にハッキングをして扉をこじ開けエレベーターに乗りどうせ最上階に居座っているであろう奴の顔を拝みに行く。途中『今すぐ回れ右してくれたらいちごみるくを差し上げますよ!!』という謎の誘惑をしてきたがやはり無視した。そのまま無視をし続けて最上階に到着し見るからに『私の部屋!!』と書かれたドアプレートが飾られている扉があったので取っ手を掴みこじ開ける。
思っていたよりも殺風景な部屋。その中心で椅子に座って僅かに震えている存在を見つけた。…やっとだ。
「こんな所に居たんですね」
「え、えぇっと……お久しぶりですね☆」
「単刀直入に伺いますが…私の身体で遊んでいるのは貴女ですよね? 戻しなさい」
「このままの方が面白いから嫌です!!」
「今はホシノの大事な時期なんです。くだらない事で邪魔をされる筋合いはありません」
「くだらないとは何ですか!? ずっとイチャイチャして恋愛耐性が~云々言ってるよりはマシでしょうに!!」
「大きなお世話です。いいから早く戻してください」
「お断りします!!」
図体は大きめなのに何故ここまで幼児のように話を聞いてくれないのだろうか? バッジが足りていないから…? なんてゲームではないので流石にないか…
「早く出て行ってください!! ここは神聖なる私の空間ですよ!? 悪い大人は立ち入り禁止なんですよ!!」
「それならば早く戻して頂けませんか?」
「分かりました!!そんなに『ピンク髪の生徒に好かれる能力』を気に入っていたとは思いませんでしたよ!!」
「違います」
「そうですか…わかりました。このままだと話が平行線になって『貴女を受肉させてエロ同人みたいな事をして無理矢理言う事を聞かせる』みたいな発言をされかれないので一度冷静になって話し合いましょう」
「私はずっと落ち着いていますがね。貴女が勝手に荒ぶっていただけで」
「細かい話はいいじゃないですか。気にしすぎると禿げ…あ、元から髪がないですね。ごめんなさい」
無意識のうちに悪意ある言葉をかけられつつ勝手に暴れていた彼女と向き合うように座った。改めて彼女の衣装を見るとマエストロの嫁になっている方のユメが着ているものに酷似している。この際誰なのかはどうでもいいので率直に「私に移したであろうホシノの耐性を消してください」と伝えた。
「うーん、私としては面白くなりそうだったので消すのは惜しいですが…仕方ないですね。分かりました、またここまで来られても困るので他の人に移行しますね」
「移行? 消せばいいのでは?」
「この概念、ホシノさんから抽出したものなのでなんか消せないんですよね。最大の神秘とかよく言うじゃないですか、多分それの影響です」
「適当言ってません?」
「適当言ってないです。一旦この概念はベア先生にでも押し付けておきますね」
「お願いします」
一先ずマダムを犠牲にして事なきを得た。これで自身もホシノも一時的とはいえ例の現象に悩まされなくなるだろう。然し肝心なのはここから。覚醒後の副作用を解消して貰わなければ事態は好転しない。
「そういう事なのでホシノが覚醒した後の副作用を解消して頂けませんか?」
「それは無理です。力が強すぎるといいますか…ほら、外の世界にある龍に願いを叶えてもらう漫画でも神の力を超えた願いは叶えられないですよね。そんな感じで…」
「…ならばどうすればいいのでしょうか?」
「恋愛耐性くそ雑魚のホシノさんと過ごせばいいと思います」
「…そうですか」
ここまで来たのに振り出しへと戻された感覚になり残念という感情が大きくなっていった。どうすればホシノとの平穏な生活が戻ってくるのか…と悩むのが尽きない。果たしてどうなってしまうのか…
Q 何故会長は失踪してこんなところにいるのか?
A 『仕方ないじゃないですか、仕事きついしお給料やすいし休みないし!! もうやだーってなっていた時に赤い先生が来たので本来の先生とは別の人だけどこの人に押し付けようってしたんですから!!』