ゲヘナで起きた悲劇を他所に自室へ帰ってきた後、一息ついてから改めて端末を解析してみる。未知の技術と余計な妨害を受けつつ中身を見ると確かにロックはかかっているもののキヴォトスという箱庭を自由に改変出来る機能を秘めているのは確定した。…何故こんな端末が存在してしまっているのか? 言ってしまえばこれは某小説投稿作品でもワンパターンで出てくるタイプのチートアイテム、世界の法則を揺るがしかねない恐ろしい代物だ。とても一人の生徒が持っていた事が理解出来ない。既に数回とはいえ機能を利用したから分かるがこれは表に出してはいけないものだろう。使い方次第では即座にキヴォトスが崩壊する案件なので誰にも見つからない場所に隠しておこう。本来は破壊した方が良いとは理解しているもののホシノの耐性がまた下がってきたらお世話になるので…
「私利私欲で利用するのは如何なものかと思いますが…悪い大人なのでその辺りは許されるでしょう」
といつも通り誰に言う訳でもなく悪い大人という言葉を免罪符にしてホシノにしか分からないパスワードを設定し金庫の中に閉まっておいた。ついでにゴルコンダの様子を見てみたが何も変化がないので押し付けて正解だった、と思えた。…何故か見る度にセリカが近くにいる事を除けば問題ないだろう。一体全体どうして懐いているのか…まあゴルコンダなら距離感を弁えてくれるだろう。見た目が絵画なのでそういう行為に及ぼうにも出来ないから尚更良い。そう思ってホシノを起こそうとした所、スマホの通知音が鳴った。見知らぬアドレスからメッセージが届いている。
『凄い今更なんですが、そろそろ面白い事が起きますよ。具体的にはアビドスにピンク髪の生徒が攻めて来ます』
…例の生徒からの連絡だった。ピンク髪云々は解消された筈なのに何故攻めてくるのか? 決まっている、この連絡してきた彼女が余計な事をしたのだろう。
『きっと黒服先生はこう思ってるんでしょう。『どうせ貴女のせい』だと。ええその通りです、波乱は大きい方が面白いですからね! あ、あと今回は色々とパワーアップさせたので更に面白くなりますよ。具体的には『全ピンク髪の生徒と元から黒服先生に好意を抱いている生徒全てに貴方を狙うようにする』という概念を与えました』
「は?」
思わず素っ頓狂な声を出してしまった。一体この生徒は何を考えているのだろうか? 毎回余計な事をしでかして既婚者に未成年を仕向けるのはイカれているとしか言いようがない。
「先生♡」
背中に密着する暖かみと甘い声に寒気が走る。少し離れた所でショットガンの弾を装填する音が聞こえ始めたので即座に抱きついてきた生徒…セリナを引き剥がした。
「な、なんて離しちゃうんですか? 折角救護をしていたのに…」
「このままだと貴女が救護される側になるからですね」
こうしている間にも盾を展開する音が聞こえてきて尚更焦りが生まれる。このままだと久しぶりに『暁のホルス』が目覚めてしまう。というか既に目覚めている。多少離れていても殺意を感じている以上戦争が起こるのは確実…
「なんだか大変な事になりそうですね〜☆」
「そうですね。で、何故抱きついているのですか?」
「やっぱり本家、と言いますか…本物の黒服先生に勝るものはないなって思いまして♣︎」
困った、まさか十六夜の狂気に魅入られてしまうとは。黒犬に向けられていた歪んだ愛をこちらに向けられる日が来るなんて思いたくもなかった。右手にセリナ、左手にノノミという生徒好きと巨乳狂いの二人が見たら羨ましがられるかもしれないがそれは大きな勘違いだ。『目の前に鬼神の如き殺意を隠すことなく近づいてくる小鳥遊ホシノこと暁のホルス』がいるのだから。
「うへへ〜…死ぬ準備は出来てる?」
「いいえ? 私は黒服先生に甘えてるだけですので♪ まさかホシノ先輩とはいえ先生に甘える後輩の邪魔をしませんよね?」
「え〜まさかノノミちゃんに人の旦那を寝取る趣味があったんだねぇ。…そこのピンク髪の子もまとめて表にでなよ」
「望むところです!」
「えっあぁ…ええ!?」
自業自得とはいえ突然の戦争に巻き込まれたセリナに同情しつつホシノとノノミの目に見えて分かる戦いを見送り部屋に戻った。どうせ結果は分かりきっている以上見る必要はない。そう思っていたものの物凄い銃撃音や爆撃音が響き渡っているので他校のピンク髪の生徒が乱入してはホシノと争っているのかもしれない。それは修行にもなるのでまあいいか…と呑気にコーヒーを淹れ始めた。途中アヤメがホシノを訪ねてきたが暴れている事を伝えたところ背中に抱きついて甘えてくる。
「ホシノさん、今日は凄く暴れてるね」
「そうですね。もう慣れたものですが」
「落ち着いてくれないと祭の話が出来ないから困るんだけどなぁ…まあいいや、このまま背中に張り付いてていい?」
「ええ、構いませんよ。それも慣れたものです」
そう許可を出しつつホシノと他生徒の争いの音を聞きながら一緒にコーヒーを嗜んだ。尚この争いは1日以上続いた。