深夜。ホシノはいつも通りパジャマを着て寝ようと寝室に向かっていたがたまたま視界に入ったテーブルの上に黒服が口をつけていたであろう氷と透明な液体が入っているグラスが置いてある。周囲を見渡して誰も居ない事を確認してから手にとって中の液体を一口飲んだ。
「うへへ、間接キス…」
両手を頬に添えてアホ毛をぶんぶんと動かしながらホシノは間接的にキスが出来た喜びを味わって余韻に浸っていた。それに満足しベッドに向かおうとしたら急に身体の力が抜けて床にへたり込んでしまう。視界がぶれてぐるぐると回るが何だか楽しい気持ちになってきたのか「うへへ〜」と笑っているホシノ。そのまま天井を見上げていると大好きな人の顔が見えたので思わず腕を伸ばして掴もうとしてみるも届いていない。それが何故か面白くなって更に笑ってしまった。
「ホシノ…?」
先生はとても優しい。心配する声も表情もホシノの身体を熱くさせて心臓の鼓動を早くしてくれる。それがあまりにも心地良いので幸せを噛み締めている。それだけでは飽き足らず更なる幸せを求めて「先生、抱っこして〜」と甘えてしまう。困惑しながらも抱きしめてくれる感覚に更に溶けそうになる。…気持ち良い。暖かい。愛おしい。この温もりを離したくない。ずっとずっと独り占めしていたい。
「もしやテーブルの上にあるグラスの中身を飲みました?」
「うん〜一口だけね。間接キスだよぉ〜♡」
「通りで…あれは酒ですよ。嗜んでいる最中少し離れている間に飲んでしまうとは…」
「だって間接キスしたかったんだもん〜いいじゃん、家の中なんだし〜」
「まあ、ホシノがアルコールに耐性がないと知れたのは大きいでしょう。ですがそろそろ寝た方が良いですよ」
「先生と一緒じゃないと寝たくない」
「分かりました、グラスだけ冷蔵庫にしまってから寝室に行きましょうね」
ホシノを身体に抱きつかせながら黒服は支度をして寝室に向かうその間にも酔いが回っているのか急に力を入れてきて骨を折られそうになったりしつつも無事にベッドに着いたので優しく引き剥がして寝かせようとした。…やはり離れない。それどころか引き剥がそうとした事で更に力が増していった。仕方ないので諦めそのまま抱きつかれながら眠りにつく事にした。最近はここまで素直に甘えてくるホシノを見た記憶がないので珍しい。
「うへへ、先生…ごめんね」
「良いんですよ。貴女が幸福ならばそれで」
「それもそうだけど…違うの。私が言いたいのは先生に私の感情を押し付けちゃってる事なんだ」
「と言いますと?」
「先生に私が一番って思われたくて…先生がどう思っているのかとか考えても見て見ぬ振りして…貴方の精神を弄った。どうしても離れて欲しくなかった。私の生き甲斐になってくれた先生が遠くに行ってしまうのが耐えられない。キヴォトスにはもっと魅力的な子達がいる。私なんかよりも…」
「そうでしょうか? 少なくとも私は精神を弄られる前からホシノの魅力(神秘)に惹かれていたのでこのような関係にならずとも他の人に目移りする事はありませんでしたが」
「先生…」
「そんな不安そうにしなくて良いんですよ。それとも私が本当に他の生徒に目移りしていると思いますか? 確かに抱きつかれたり距離感がおかしい生徒に詰め寄られたりはしますが一線を越えたのはホシノだけです」
「…先生、好き」
「そうですか」
急に情緒が不安定になったホシノを宥めていると彼女は穏やかな表情になり綺麗な寝息を立て始めた。心の何処かでまた捨てられるんじゃないかなんて考えていたのだろうか? 残念ながら捨てられる事はないというのに…こうして悪い大人に一生執着される愚かな人生を歩むことしか許されない悲しみを背負ってもらわないと…なんて無理に悪ぶっても無駄だろう。
「貴女が幸せになる為に必要ならば私は側に居ますよ。私にとってホシノは永遠の輝きにも匹敵する存在なのですからね」
その言葉はヘイローが消え完全に意識を夢に向けていたホシノの耳には通り過ぎてしまうものであったが彼女は愛されている。それを裏付けるには充分な言葉だった。
そうやって甘い言葉を囁かれて幸せになる生徒も居れば突然大切な人が失踪し行方不明になってしまい不眠不休で探し回り絶望する生徒も居る。今日もまた身体よりも大きい銃を抱え輝きを失った瞳で彷徨い歩く。
たこシあしすぎて本編進まない問題