例えばこんなゲマトリア   作:スカイブルーホワイトヘアー

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今度は君の番

大切な人が居なくなってから一か月以上が経過した。ずっとお通夜状態が続いていて仕事も集中出来ず悪事を起こす気力が湧いている生徒も居ない。心に穴が空いている、そんな感覚になりつつも足は止まらず今日も探しに行く。

 

…あれ、いつから寝ていないんだっけ? と一瞬疑問に思ったけれどその感情すらも虚無感に包まれて消える。やがて足に力が入らなくなって地面に倒れこむも起き上がる力すら腕に入らない。意識が薄れていく中、「会いたい」という小さな悲痛を呟いて目を閉じこのまま人生を終えようとした。

 

しかしそんな私の頭上から「大丈夫か?」という声がかけられる。返事がなく反応がない私を見て困惑しているであろう声の主は私の身体を持ち上げて「まあ、大丈夫であろうとなかろうと関係ないがな」と言っているのを聞いてから意識を失った。

 

 

 

…目が覚めた時、私は液体の入ったカプセルの中に閉じ込められていた。不思議と呼吸も出来る。現状を把握しようとしていた時、カプセル越しに意識を失う前に聞こえてたのと同じ声が聞こえた。

 

「目が覚めたようだな」

 

顔が二つある人形の存在が話しかけてくる。応えようと口を開いたが人形が右手を挙げて『声は出さなくていい』というジェスチャーを行ったので従う。

 

「最愛の人を失う。それだけでこの箱庭において最強と定義していい存在であるお前は最弱へと早変わりした。感情というのは非常に興味深いものだ。私はそれに興味を見出した」

 

…正直何を言いたいのかは分からない。ただその中でも目の前にいる人形が碌でもないのは理解した。でもこの際どうだっていい。むしろ楽にしてくれるなら好都合だ。もう探すのにも疲れていたしここで死なせてくれるならそれでいい。

 

「そんな表情をするな。命を奪おうなんて考えてはいない。散り際は美しくないと意味がないからな。残念ながらお前一人が死んだところで美しい芸術性のある物語は生まれないんだ。安心しろ、実験に付き合ってくれた暁にはあいつに会わせてやる」

 

それだけ言うと突然何かを入れられているのか吸われているのか、そんな不思議な痛みに脳が支配されて全身が悲鳴を上げているのが分かる。次第に意識は薄れていき…大切な人の顔を思い浮かべまた視界が暗転した。このまま死ねるならそれで充分だ。…そう思っていたのに。

 

「大丈夫?」

 

突然誰か見知らぬ人に声をかけられて手を差し伸べられていた。水着を着た謎の存在に。

 

「こんな道のど真ん中で倒れてたら車に轢かれちゃうよ? あ、でも最近はここも車が通らなくなったかな…とにかくほら、立って立って」

 

差し伸べられた手を掴んで立ち上がると自分が普段の制服ではなく黒いドレスのような衣装を纏っているのに気づいた。…さっきの人形の趣味だろうか? 少しばかり窮屈ではあるがどうでもいい。

 

「私を殺して」

 

初めてこれを出したかと思えばとても物騒な言葉になった。それを聞いた彼女は困惑しながらも「そんな事を言っちゃダメだよ」と頭を撫でてくる。その手を払いのけて殺すように迫るも困った表情をするだけでその身体に装備している銃を構えようともしない。

 

「そんな事を言っちゃ駄目だよ。誰にだって生まれて来た意味があるんだから…」

 

無責任な事を言う。どうせ私の気持ちは分からない。自分の命よりも大切な人が急に失踪して一ヶ月以上経過した私の気持ちなんて…

 

「だから…ね? 大丈夫、悩みがあるなら私が聞くからさ。もし私が頼りにならないのであれば学校の後輩達もいるし…君の力になれるよ!」

 

「…その後輩達は貴女にとって大切な人なの?」

 

「勿論! 頼りにもなるし可愛いし…知らない間に来ていた先生も含めて大事な人達だよ」

 

「そう…」

 

…この世界は不平等だ。私がこんなにも絶望感に満ちているのに目の前の彼女は輝いていて幸せそうな笑顔を見せている。ずるい。羨ましい。…憎い。

 

「…ふふ。うふふ…こんなにも世界は非情なのね。それならもういいわ。ねえ貴女、名前はなんていうの?」

 

「私はユメって言うの! 君のお名前も知りたいな!」

 

「私の名前は…貴女に言う必要はないわ」

 

「えっ?」

 

『私は今から全てを破壊するもの』

 

憎悪が身体を支配していく。元から黒くなるのには慣れていたがそれ以上に力が溢れていっているのが分かる。あの人形に何かをされたのか? そんな事はどうでもいい。今はただこの衝動が心地良くそれ以外に考えられない。

 

「ちょ、ちょっと待って!? 身体から何か黒いのが溢れてるよ!?」

 

『五月蝿い』

 

「んぐっ!?」

 

騒ぐ喉が鬱陶しいので首を絞めた。体格差はあるものの羽があるので問題なく窒息させられる。けれど簡単に殺すのはつまらないので遠くに見える学校のような建物に向けてぶん投げた。キヴォトス人なら死なない程度に加減して精々苦しんで死ぬといい。嗚呼、愉しい。このまま全て壊して満足してから死のう。今まで我慢してきたんだ、このくらいの我儘は許される筈。仮に許されなくても良い。私を裁こうとする奴らも潰してしまえばいい。

 

『見ててね、ファーザー♡』

 

貴方へのお土産、沢山用意するから♡

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