砂漠で殴りあう二人の戦いは熾烈を極めている。殆ど実力は互角に近い、むしろテラー化している分ヒナの方に部がある筈だった。それなのに何故か目の前のホシノは食らいつき、追い詰めてくる。そのまま彼女のペースに乗せられ、少しでも動揺して隙が出来てしまったところを見逃されずヒナは攻撃をもろに喰らってしまった。拳と蹴りを浴びせられる程に身体中に痛みが走る。先程までダメージは喰らわなかった筈なのに身体から悲鳴が聞こえてくるようだった。
『どうして痛いのかしら…?』
鼻から流れる血を拭きながら疑問に思う。どうして痛いのか? こんなにも痛いのは…何故?
「もうやめよう。これ以上やっても無駄に傷がつくだけだよ」
『ふざけてるの? 私は貴女の大切な人を傷つけたのよ? 何故戦いをやめようとするの…』
「確かにさ、君がやった事は許される事ではないんだよ。…それでも私は君を許すよ。私の知る先生なら絶対にそうするから」
『…そうね。ファーザーも似たような事を言っていたわ』
(ファーザー? この子もしかしてあいつの…?)
『…どれだけ綺麗事を並べても大切な人を失った事がない人間に私の心は分からない。ある日突然居なくなって心に穴が空いた感覚のまま一ヶ月以上過ごして生きる希望が見えなくなった私の事なんて!!』
ヒナの身体はより黒く染まっていく。綺麗だった白い髪も黒くなり完全に恐怖へ呑まれてしまったそれはかつての自分の姿に似ており居た堪れなくなってくる。…然し突然元の色に戻り膝をついて息を荒くし困惑している。
「ど、どうして私の身体が元に…」
「慣れない事をしたから疲れたんじゃないかな」
「そんなの駄目よ…まだ勝負はついてないもの…!」
「どうしてそこまで戦いたいの? やっぱり気絶させなきゃダメかな…うーんでもなぁ…」
結局暴力で黙らせる方法を選んでしまいそうになるが他の方法を考えてみるけれど納得してくれそうにないので仕方なく助っ人に頼む事にした。
「もしもしベアさん、今大丈夫? 大丈夫じゃない? まあいいや、ちょっとお願いがあるんだけど…牢屋に入っているあいつ、こっちに連れて来てくれない? どうしても会わせたい子が居てさ。…さっきの爆発? ああ、色々あってね。座標は送っておくからお願いね」
ふう、と一息ついてヒナの隣に座ってどっと疲れた身体を休ませる。
「まあ、私も過去に色々あったからさ。ヒナの言う大切な人を失う気持ちは分かるよ。今は全員揃ってるけどそれも全部先生が居たからなんだよね。…私自身は今も昔も無力だよ」
「でも私は貴女の大切な人を傷つけて…」
「もういいよ。自責の念に駆られるのは良いけど今は今後どうするか、だよ」
「…随分と成長してるのね。心が…」
「うへへ、まあねぇ。…正直今までも大変な事が多かったからこういう事に慣れちゃったのかも。死にかけた事も沢山あったし」
「私はずっと甘えてばかりだったからそんなに死にかけてはいない…強いて言うなら暴走したホシノを止める為にシャーレの先生に頼まれて今みたいに死闘を繰り広げた時くらい。…あの時は私が勝ったけど」
「やっぱりそっちの私は暴走してるんだね。…ユメ先輩に固執しすぎてるのかな?」
本来であれば一年生の時に黒服と過ごすホシノの方が異端ではあるが彼女自身がそれに気づく事はなく「どうして私以外のホシノは大体一人で抱えて暴走しがちなんだろう」と疑問に思うだけだった。
そうこうしている内に遠くから走ってくる大人二人の姿が見えてきたので手を振って合図を送る。片方は先程電話をしたベア先生、そしてもう一人は牢屋に閉じ込めていた『ファーザー』だった。
「ヒナ…ヒナなのですか?」
「…この雰囲気…もしかしてファーザー…?」
「ああヒナ、やはり貴女なのですね。こんなにも傷ついて…しかもマエストロに何かをされていますね…私が不甲斐ないばかりに…」
『あいつには会わせてやる』という人形の言葉は嘘ではなかった。その事実を噛み締めて久しぶりの暖かい抱擁に涙を流しそのまま眠りについた彼女を見てホシノは一安心した。
「これで一件落着かなぁ…」
「しかし良かったのですか? 元同志ではありますがこいつ私の服を破いた野郎ですし」
「大事な人と再会させてあげたかっただけだよ。勿論許されない事はしたけれどそれはそれとしてね」
「それは一理あるような気はします。あいつの対処を放置していたのも事実ですし…責任は私が取りますよ」
その後ヒナを連れたファーザーはもう迷惑をかけないとホシノに誓い元の場所へと帰っていった。流石に非常識な大人ではあった彼もヒナの痛々しい姿を見て考えが変わったのだろう。少しだけ彼の微笑みに近い表情を浮かべていたのが少し羨ましい。
「私も精神とか弄るんじゃなくてちゃんと先生に愛されたかったな…」
「あいつは素直じゃないですからね。ですがホシノの事は最初から大切に扱ってましたし愛されてはいたのではないですか?」
「そうかなぁ…今度聞いてみよっと…」
こうしてちょっとした騒動はあっさりと愛の力で解決した。後日ベア先生は責任をとって犯罪者を逃した罪を背負いシャーレの仕事を徹夜でやらされたとか。