ホシノ達が和気藹々としている最中、黒服はセリカにぶっ飛ばされていたフランシスに呼び出されていた。乱雑に机に置かれた彼を見下ろすと目が合い、なんか泣いていた。
「何故我はセリカに受け入れられないのか理解出来ない。所謂一目惚れという概念を用いたというのに本気にされず拒絶しかされないのはおかしい」
「絵画に愛を伝えられても困惑するのは致し方ないと思いますが」
「それもそうか。ならば諦めよう」
そう言うと絵画に映し出されていた涙は消え、普段の某叫びのような絵に戻った。正直早くゴルコンダに戻ってほしいが彼がどういう理屈で元に戻るのかを理解できていない。強い衝撃を与えれば戻ると思っていたが全力猫パンチを喰らって戻らないのであれば分からない。頭を悩ませていると突然部屋の空気が変わりただならぬ雰囲気が背筋に伝わっていく。
「世間話はここまでにしよう。早速本題に入るが…いつまでこの茶番を続けるつもりだ?」
「いつまで、と申しますと?」
「惚ける必要はない、既に状況は理解している。もう時間はそこまで残されていないんだろう?」
「何の話ですか?」
「この箱庭の崩壊についてだ」
「…ほう? それは些か興味深いですね」
突拍子のない発言に思わず興味が惹かれてしまう。あまりにも突然すぎる言葉に思わず彼を見つめ話を聞く姿勢に入る事にした。
「簡単な話だ。この先に待っているのは破滅、それだけだ。お前達はやりすぎた、罪状を言えばキリがない程に」
「そういうお説教をされた所で私は大半の行動に罪悪感は持ち合わせていません。私は唯ホシノ達が青春を満喫できる手助けをしたに過ぎない」
「その『先生ごっこ』も気に食わない。お前達はゲマトリアであって先生という概念には適していない。存在してはならないんだ。その結果が破滅。自身を舞台装置であると勘違いした哀れな集団にはおあつらえ向きな終わり方だな」
「…私達は生徒達に関与してはいけなかったと?」
「そうだ。私達は生徒を利用する大人としての地位を揺るがせてはいけなかった。一度入った亀裂は広がっていき取り返しのつかない瞬間まできている。…はっきり言ってやる、明日死者が出るのを皮切りにこの箱庭は崩壊していくだろう」
「死者ですか。その程度未然に防げば良いだけの話。今更私達にそのような問題は起こり得ません」
「未然にか…まあいい。いずれ分かるだろう、物に執着した奴の末路がな」
そう言いたいことだけ言うとフランシスは何か異質な触れられない液体を放出し…絵画に映る顔は背後を向いている。どうやらゴルコンダに戻ったようだ。
「…自分がセリカに振り向いて貰えなかった嫌味でしょうか? 積み重ねない事には何も始まらないというのに」
そう茶化して苦笑しつつも彼の言葉は少々引っかかるものがあった。
(明日誰かが死ぬ。実に不愉快な発言ですね。今まで救えなかったのは悪い大人のまま亡くなったマダムと大人の責任を取ったユメの先生…私の知る限りではこの二人だけが犠牲になったと言えるでしょう)
そういう他の世界からの来訪者が死ぬのか、それとも私の生徒が死んでしまうのか…もしそうなった時私はどうすればいい?
(一先ずアビドスの生徒は学校に泊まってもらうとして…この際ゲーム開発部にも来てもらいましょうか。あとはアル達と…アヤメ達にも泊まってもらいますか。交流やらなんやらの名目で頼めば聞いてくれるでしょう)
他ゲヘナ生はマダム、ミレニアムやトリニティの生徒はマエストロがどうにかするだろう。彼らに共有するのも考えたが杞憂で終わる可能性もある為一旦は様子を見よう。仮に本当だとしても過去を改竄すればいいだけの話。…少なくともこの時まではそう楽観的に考えていた。
そうやって対策を練っていると端末の通知がなった。液晶に表示されている名前を見た後、応答し端末越しに声をかける。
「どうしました?」
『ちょっと話したい事があって…今電話してもよかった?』
「ええ、構いませんよ。ですが貴女がこうして電話をしてくるのは珍しいですね、ユメ」
電話の相手、ユメは恥ずかしそうな声で『まあね』と答える。心を開いてくれてからは定期的に連絡をくれていたが突然電話をしてくるのはとても珍しい、というより初めてだった。
『仕事がひと段落したから気分転換にね…そっちはどう』
「今はホシノ達が祭の準備をしているのを見守っています。…巻き込まれましたがね」
『百鬼夜行との合同砂祭だよね、話には聞いてるよ。良いなぁ、こっちのアビドスの子達は青春を満喫出来て』
「貴女も参加して良いのですよ? 私の生徒なのですから」
『ふふっありがとう。…本当に感謝してるよ。けど大丈夫、私はお客さんとして楽しませてもらうからさ』
「そうですか。もし参加したくなったら何時でも連絡してくださいね」
「分かった。ありがとう先生。…また明日ね』
「ええ」
ユメとの電話を終えて再度誰が死ぬのかを考える。…阻止すればいい、そう分かっていても何か胸騒ぎが止まらない。もしかして昔からずっと何か選択を間違えていたのかもしれない、そういう焦りが…
「きっと、きっと気のせいでしょう」
自分に言い聞かせるように言葉を紡いでから皆を呼び寄せて大規模なお泊り会を実行することにした