例えばこんなゲマトリア   作:スカイブルーホワイトヘアー

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血に染まる手帳

それは普通の日常。当たり前のように仕事をして、当たり前のようにお風呂に入り当たり前のように眠る。きっと私の日常はそうやって変わらない日々を紡いでいくのが密かな楽しみになっていた。

 

私と同じくキヴォトスに居る生徒達も同じように普段通りの日常が過ごせるよう陰ながら手助けをするのも贖罪でもあり生き甲斐でもあった。シャーレの先生代理になってからはそんな事を考える事が多くなった。アビドスにしか興味がなかったのにいつの間にか他の学園に興味を持ち楽しみが増えていった。

 

時々セイアちゃんも遊びに来てくれていた。彼女はトリニティの偉い子で、私の友達。一緒に過ごしている時間は成人している身であっても童心に帰れた。…気を遣わずに話せたのはセイアちゃんくらいかもしれない。ありがとう、私の友達。

 

大好きな家族。ちょっとおっぱいが大きい子に目移りするも街中で愛を叫んでくれた人形の貴方。唯一私を知ってくれている存在で好奇心が強くかわいらしい一面を見せてくれるアロナちゃん。この三人で過ごす時間も私の人生に彩りを与えてくれていた。お風呂に入った時も川の字で寝る時も心には安らぎと平穏を感じていた。

 

一番忘れてはいけないのがホシノちゃんの存在。あの子にとって偽物である私にも手を差し伸べてくれて温もりを感じさせてくれた。お互い偽りの存在だとしても君が生きている姿を見れたのは心のつっかえが取れたのと自分の罪が如何に重かったのかを理解させられたよ。…優しい君の幸せを心から願っているよ。

 

…どうしてこんな事を考えているんだろう? シャーレから見る外の景色が普段と変わらない日常を映し出していたからなのかな? それとも偶々一人でお仕事をする日だから色々と考えてしまうのかもしれない。…でも、かえって好都合かも。そう思って私は胸ポケットに入れて何故か反ってしまっている『遺書』と書かれた封筒を机の引き出しにしまった。

 

…私はもう長くない。きっと近いうちに心臓の鼓動が止まる。皆の前では心配をかけたくなかったので気丈に振舞っていたが見えないところで吐血をして手帳を血で濡らしたりもしていた。最後に過ごす時が一人なのも当然の末路、だと思えてしまう。

 

…ふと、最近親身になってくれている先生の顔を思い浮かべた。彼にはずっとお世話になっているからこそ最後に声を聴いておきたい。嫌いだった筈なのに今では安心する大人の声になっていた。…急に電話をして迷惑じゃないか? なんて思いはあったものの彼を信用してつい電話をかけてしまった。

 

『どうしました?』

 

彼は期待通り電話に出てくれた。それだけでも嬉しいがこの感情を悟らせないように話しかけなければ。

 

「ちょっと話したい事があって…今電話してもよかった?」

 

『ええ、構いませんよ。ですが貴女がこうして電話をしてくるのは珍しいですね、ユメ』

 

珍しい、という言葉に思わず何か勘ぐられないか焦ってしまい思わず「まあね」と雑な返事をしてしまったものの彼は納得したのかそれ以上追及はしてこなかった。

 

そこからは現状についての話をした。…砂祭、参加したかったけれど私はその時には生きていない…なんだか悔しいな…でも私が我儘を言える立場じゃないよね。

 

「分かった。ありがとう先生。…また明日ね』

 

「ええ」

 

電話を切った途端、突然せき込んで制服に血が付着してしまった。…もう限界なのかもしれない。全身から力が抜けていく中仮眠室に行きベッドに寝っ転がる。

 

「…私は、ここで終わる。けれど皆の日常は変わらず続いてくれる筈。私よりも頼りになって強くて…大切な人を守れる子達。そんな君達が羨ましかった」

 

 

黒服先生、マエストロさん、アロナちゃん、セイアちゃん、ホシノちゃん…ありがとう。どうか私の事を忘れて幸せになってください。…先生、私も今そちらに行きますね。

 

 

 

 

 

 

こうして梔子ユメは亡くなった。彼女の長い物語はあっさりと終わってしまった。…ここからは破滅を辿るのみ。…この物語に救いはない。初めから救いなんてなかったんだ。これはその始まりに過ぎない。




重い感情を与え続けるのもかわいそうなので楽にしてあげました
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