終幕の舞台
私は随分前に予知夢を見た。最もそれは今まで見た夢の中で一番知りたくない内容でもあった。
夜中、トリニティのとある場所でサンドバッグにされていたフランシスは二人の大人に連れ出されていた。
「今更私に何の用がある?」
当然の問いだ。彼にとって目の前にいる二人は自身をこのような目に遭わせた張本人とも言える存在なのだから。
「ヘイロー破壊爆弾作成の技術を寄越せ」
「は? 何故貴様達がそれを要求する?」
「寄越せ」
「…良いだろう。但し条件がある。何に使うつもりだ?」
「崇高。それ以外に理由が必要か?」
「…いいや、それで充分だ。私は傍観者として貴様達が何をするのかを見させてもらおう」
そう言って技術を渡しフランシスは去る。…然しもう一人の手によってあっさりと殺処分された。
「良かったのか? まだ利用価値があったかもしれないぞ」
「私には君が居ればいいからね」
「…私も同意見だ」
…そこで夢は終わった。これだけではあるものの嫌な予感がしてならない。杞憂に終わって欲しいという希望的観測の元夢に出てきた大人…自身の教師であるマエストロ先生の様子を伺ったりサンドバッグが残っているかを見て回ったりした。…それらを数日観察し何も起こる気がしない。友人は今日もシャーレで業務をこなしサンドバッグもありマエストロはアロハシャツで私を接客し喜ばせてくれる。
(嗚呼、考えすぎだったようだね)
完全に安心しきった私はそう思い友人に『明日一緒に紅茶を飲まないか?』とお茶会に誘い返事を待っていたがそのまま寝落ちしてしまった。朝起きた時にはスマホの充電が切れており暫く電源が付かなそうだったので日課の見回りだけ行う事にした。
「……ぁ」
昨日までそこにあった筈のサンドバッグが無くなっている…急速に汗が背筋を伝い顔が青ざめていく。急いで自室に戻り起動しているスマホを見るとユメからの返事が来ておらず更に嫌な予感が頭を過ぎる。…実は彼女が吐血して苦しんでいる姿を予知夢で何度も見ていた。当時は彼女が話したくないのであれば問わないでおこうと思っていたが現状を考えるに話を聞いておけばよかったと後悔した。
そうした焦りの中、突然校舎の中心で轟音が響いたと思えば強い頭痛が襲ってくる。頭を抑えていると不意に自分の頭に本来ある筈のもの…ヘイローが存在していない事に気づいた。そしてその時点で自分の運命を悟りすべてを受け入れてベッドに寝転ぶ。
「私は間違った選択を取ってしまったようだ」
天井を見つめながら目を閉じる。次々に聞こえてくる銃声と悲鳴から目を背けるように。…もう終わりだ。私達の先生は狂ってしまったようだ。それとも元々この日の為に猫を被って教師をしていたのかもしれない。逃げる足音、大きな悲鳴が反響する中、部屋の扉が蹴り破られる。
「おはよう先生」
私は血だらけのスーツを着ている彼にそう語りかける。「ああ」と言いながら彼は私の隣に座りこちらを見てくる。
「虐殺は楽しかったかい?」
「ああ。これが私の求めた崇高の形だったのだろう。命の輝きが失われる瞬間はとても心地よい」
「そうかい。…じゃあ、一思いに終わらせてくれないか?」
「…何故セイアは自身の死を受け入れられる?」
「なに、一方的ではあるが約束したからね。さ、今日のお茶会に遅れない為にもその引き金を私に向けて引いておくれ」
彼がここまで心が壊れている原因は分かる。…ユメが旅立ったのだろう。そしてそれは私が彼女の状況を彼に伝えていれば解決していた可能性だってあった。…私の選択が間違っていたんだ。その自責の念に駆られているのかもしれない。故にこの殺意を受け入れる姿勢が出来ていた。
「マエストロ先生。彼女に伝言があれば聞くよ」
「…『不幸にしてすまなかった』と伝えてくれ」
そう言った彼は引き金を引いて…私の頭を弾丸で貫いた。意識が遠のいていく中頭の中で「先生を止めて欲しい」と願う。それはきっと叶うだろう。全てをやり直せるチャンスは彼らなら作り出せるだろう…
「…私はもう、戻れないんだ」
亡骸となったセイアの体に吐き捨てると彼は部屋を出て生き残りがいないかを探し回った。教え子が涙を流し恐怖にひきつった顔を浮かべている姿をみて愉悦を極め凶器に身を任せる彼。トリニティから生命が消えるまでこの虐殺は終わらないだろう。