例えばこんなゲマトリア   作:スカイブルーホワイトヘアー

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それが先生というもの

「私が生徒を殺したのはただの憂さ晴らしだった」

 

迫り来る異形から攻撃を回避しながらマエストロは語る。

 

「『虐殺は崇高』と私は先程ある生徒に伝えた。だがそれは本心ではなかった」

 

「黙レ!!」

 

「正直に言えば私は崇高を見失っていた。愛する者の死を迎えさせてしまったという現実から目を背けた結果とも言えるな」

 

攻撃を避けポケットから人形を取り出しかつてのように概念を付与して巨大化させる。即席ペロロジラを異形にぶつけ自身は体勢を立て直そうと一息つきながら話を続ける。

 

「…滑稽だろう? 愛している、だなんて伝えていたのに一番妻を苦しめていたのは自分だったと理解してしまった私は」

 

然しあっさりとペロロジラは真っ二つにされて異常に発達した爪が再度襲いかかってきた。辛うじて回避するも徐々にスピードが増してきている。

 

「妻だけじゃない、私はもう一人も殺してしまった。…大きいシロコだ。彼女も同じく覚醒の反動で同じ日に亡くなった。失意の中彼女の先生が訪ねてきてな。…最低だろう?」

 

異形の爪が遂に右腕を掠り地面に落ちた。距離を取りその辺の生徒から右腕を千切り代わりに装着して馴染ませる。彼女は絶叫し先程よりも攻撃速度は上がったが右腕だけは狙わなくなった。

 

「その後私は許せなくなった。妻が死んだのにも関わらずこの箱庭は残酷にも普段通りの日常を過ごしている。…私が妻を失ったのにだ。酷い話だろう? だから虐殺した、それだけさ」

 

だから許してもらう理由もない、とは言わなかった。言葉にしなくても目の前にいるこいつは理解してくれていると長年付き添った上での判断であった。現にこうして殺意を向けてこの狂った殺人人形を止めにきている。…そしてあっさりと彼女の爪に胴体を貫かれ、校舎の壁に叩きつけられるように吹き飛んだ。並の人間ならとっくに死んでいるだろうがゲマトリアなのでそこまでのダメージはない。精々数秒立ちくらみがする程度のものだ。

 

「流石にマダムは強いな。だからこそ保険を用意しておいて正解だった」

 

内心ニヤけながらベアトリーチェではなく別の目標に向けて銃を構える。…そこには唯一生かしておいたミカが顔を青ざめながら震えていた。当然事が終われば用済みになるがこの場においては利用価値がある存在だ。そう考えつつ発砲しミカの命を奪おうとするが当然彼女は庇おうとする。当然だ、それが『ベアトリーチェ』という先生が取るべき行動なのだから。

 

「グッ!?」

 

ミカを包むように庇い銃弾から守り切る姿は不覚にも美しく見えた。然しだからと言って攻撃の手は緩めない。死にはしないだろうが瀕死までは体力を削っておきたい。…もう一つ遠くから迫ってくる殺意が伝わってきたからだ。それが到着するまでには…と思っていたがベアトリーチェは結構なダメージを負ったのか異形の姿を保てなくなり普段の見た目に戻っていた。

 

「ミ…カ…」

 

「ベ、ベア先生…どうして私を庇って…」

 

「当然の事をしたまでです…ただ生徒を守っただけ…で…」

 

「ベア先生…? ベア先生!! しっかりして!!」

 

…どうやらマダムは気絶したようだ。それならば都合が良い。彼女に近づいてこの世界から『追放』してやろう。これは他の世界線においてゲマトリアが選択した行為でもあるらしい。こいつとの関係に終止符を打ってやろうと近づいていくがミカが立ち塞がってくる。

 

「ベア先生に近づかないで!!」

 

「どけ」

 

「どかない…!」

 

「…なら死ぬか?」

 

銃口を眉間に押し付けて脅すが彼女は怯まない。今自身にヘイローの加護がないという事を理解しているのだろうか? そんな簡単な事が理解出来ない生徒ではないと思っていたが買い被りすぎだったか? このまま撃って殺してしまおうか…

 

「…いや待て。面白い事が出来そうだな」

 

「な、何をし…」

 

まずは口封じの為にミカを気絶させる。そしてとあるものを身体に着けてその辺りに寝かせておこう。マダムが目立つので少し離れた位置に移動させ様子を伺う。…数分後に遠くから話し声が聞こえてきた。

 

「ひ、酷い…どうしてマエストロ先生はこんなことを…」

 

「…皆、ごめんなさい…」

 

「ミカさん…ミカさんも殺されてしまったのでしょうか…」

 

「分からない…探してみるしかないわね」

 

声の主はヒナとコユキだろうか? 先生の奴、一人取りこぼしているではないか。だが好都合、彼女達がミカの姿に気づいた時が終わりの合図だ。

 

「…!! 降ろしてください!! あそこにミカさんが!!」

 

「待ちなさい。確かにミカの姿は確認出来る、でもおかしいわ。彼女には血の一滴すらついていない。この場で倒れているのは違和感があるの」

 

「でもミカさんが…!!」

 

「冷静になりなさい。大丈夫よ、こういう時の解決策は既に理解しているわ」

 

遠くから聞いていてもヒナの冷静沈着な所は流石と言わざるを得ない。彼女のせいで折角仕掛けたヘイロー破壊爆弾で二人とも廃人になってもらおうとした私の計画は破壊されてしまった。かなり落胆している。

 

「解決法はね…『元凶を始末する事』よ」

 

その言葉は先程とは違いかなり近くで聞こえた。そして背後から強烈な蹴りを喰らったマエストロの頭は根本から砕け散った。

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