例えばこんなゲマトリア   作:スカイブルーホワイトヘアー

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心砕の影響

私はずっと現実逃避をしていた。ユメが一人で過ごしている時に吐血している姿を監視カメラ越しに目撃して問い詰めたことがある。その時は「昼間飲んだトマトジュースを吐いちゃって…」と誤魔化したので心配をかけたくないのだろうと判断し「本当に困った時は必ず相談してくれ」と伝えたんだ。

 

最初こそ色彩の影響かと思っていたが調べていくと覚醒の副作用であると判明し頭を抱えてしまった。原理としては色彩の影響を打ち消す為に生命力を使ってヘイローを綺麗な姿に保っているらしい。…納得がいかない。何故ユメがこんな目に遭わなければならない? 色彩に染まって過ごしている方が幸せなのか? …私の判断は間違っていたのか? 違う、そんな筈はない。反転したまま過ごすなんて可哀想だと思っていたのに…それが彼女の苦しみに繋がるなんて受け入れられる訳がない。

 

酒を飲んでも頭からは消えず他の巨乳生徒に目を奪われていると自分を誤魔化してユメと距離を取っていた。…それでも彼女の温もり、幸福が自身の崇高に変わっている以上諦めきれなかった。

 

漸く解決の糸口が掴めた頃、家に帰ると泣いている娘が居たんだ。「ユメは帰ってきていないのか?」と聞いたものの彼女は「シャーレに…」と言って泣き続けるのみ。娘にハンカチを差し出してからシャーレに向かい扉の前に行くと胸騒ぎがする。足取りも重くなり扉を掴む手に力が入らない。それでも見なければ後悔すると考え部屋に足を踏み入れるが誰もいない。静かな空間が広がっているだけで平和そのものであった。…但し仮眠室の方に近づくこと拒絶している感じがする。

 

「ユメ? そこにいるのか?」

 

返事はなく物音ひとつ聞こえない。…まさか、そんな筈はないと思考を遮るべく仮眠室のドアノブに手を回し開ける。

 

「………」

 

そこには眠っているユメがいた。聖母のように微笑みながら眠っている彼女が。近づいて手を握るもあまりの冷たさに絶句してしまい距離を取る。

 

「…そ、そうだ。ドッキリ、ドッキリなんだろ!? 私が他の女に目移りしているから嫉妬してこんなドッキリを仕掛けたんだろ!? すまない、本当に申し訳なかった!! 確かに他の生徒の胸を見る事は多くなったが私はユメ以外と恋仲になる気はないんだ!! 許してくれとは言わない、一生をかけて償う!! だから目を開けてくれ…」

 

……反応はない。嫌だ。嫌だ。認めたくない。間に合わなかったなんて。自分が最愛の人を殺してしまったなんて。

 

「…はは…ははは…ははははっ」

 

乾いた笑いが自然と漏れる。心が耐えられなくてまた現実逃避をしてしまった。…情けない話だ、ゲマトリアである自分が妻一人失ったくらいでこうなってしまうとは。

 

「これも芸術、なのかもしれないな。実に美しい…」

 

そんな筈はない。死体に美徳などありもしない。冷たくなった体よりも君の温かな笑顔の方が何万倍も価値がある。心ではそう思っていたが頭はそれを理解するのを拒んだ。人形の体でなければ涙を流していただろう。それでも身体が勝手に動き彼女が持っていた銃を手に取る。

 

「…皆を芸術品に仕上げなければ」

 

自分に言い聞かせるように思ってもいない事を勝手に発してしまうが脳はそれを受け入れてしまう。…そこからは酷かった。殺人計画を立てた私は同志を求めた。そこで目を付けたのは元シロコテラーの先生。会いに行くと嫌な予想通り彼も大きいシロコの亡骸を抱えて号泣していた。そんな失意に沈んだ彼に手を差し伸べて「来い先生。彼女を助ける方法はある」と都合のいい妄言を吐いた。案の定心の弱っていた先生は私の殺人計画に同意し協力してくれる事になった。

 

その後はトリニティにいるフランシスからヘイロー破壊爆弾の設計図を渡してもらった後に処分…他の世界に送りつけた。…後は知っての通り、トリニティ、ミレニアム、ゲヘナに通っている殆どの生徒を虐殺した。

 

「…これが全てだ。私に同情する余地はない。所詮私は大切な妻すら守れない最低最悪の悪い大人だったって事だ。それどころか他の大切な人の命も奪った。私に生きる価値はない」

 

「"…マエストロだけじゃない、私もそうだよ。私達二人はこの世に存在してはいけない殺人鬼なんだ"」

 

「ふむ…」

 

マエストロの独白を聞いて頭の中で考える。この状況をどのように解決をするべきかを。

 

「やはり過去に戻って虐殺を止めるしかないでしょうね」

 

「…虐殺を止めたところでどうなる? 私が妻と友人の大切な人を殺した事実は消えない。…無かった事には出来ないんだよ!!」

 

「幸福な終わり方が一番でしょう? 何を怒鳴る必要はあるのですか?」

 

「人の死は軽いものじゃないんだ…そう簡単に割り切れるわけがないだろう!!」

 

「はあ、仕方ないですね…ゴルコンダ、少々この場を任せてもいいですか?」

 

「構いませんよ」

 

「おい、何処にいくつもりだ!?」

 

「貴方達は独特な考えをお持ちのようですので少しばかり話の通じる生徒に話でも聞きに行こうかと」

 

そう告げてアビドスの自室にワープして金庫を開ける。そして中に入っている端末を起動し彼女に話を聞く事にした

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