…あれから一か月が経過した。虐殺の記憶を持っているのはあの場にいた4人だけのようで周りは普段と変わらずに過ごしていた。アビドスに訪れたユメ先生はもの凄く弱体化していて簡単に押し倒せるくらい弱くなっていた。アリス曰く「元のユメが弱いので複製したら弱くなりました!!」らしい。
そんな彼女も祭の準備で張り切っていき…気が付けば近くにある殆どの学園を巻き込んだ大規模な祭になってしまった。どうやら砂祭を盛り上げたい、という一心で動き回った結果こうなったらしい。スポンサーことマダムの後ろ盾もあり準備は恐ろしい程に進んでいった。…尚却下する筈だった先生喫茶はシフト制で営業する方針になってしまい何処かから用意された執事服を差し出され困惑していた。
そんな色々あって手間取った祭も今日、開催される。開会の挨拶を行うのは発案者のアヤメだ。彼女の宣言を隣に座るホシノと共にモニター越しに見守る。
『はあ、緊張するなぁ…こんな大規模な祭になると思ってなかったから責任重大だよね…どしたのナグサ? …もうカメラ回ってるの!? 今の独り言全部撮られてたの!? か、カットして!! …生放送だから出来ない!? は、恥ずかしい…』
「早速グダグダですね…」
「アヤメちゃん頑張れー」
『…気を取り直して。今から開会宣言を始めさせて頂きます。…まず最初に言いたいのは…参加人数多すぎてすっごく準備が大変だった!! 最初は百鬼夜行とアビドスの二つで開催予定がどうしてこうなったの!? …って思ったんだけどさ、準備の時点ですごく楽しかったんだ。上手くいかない事もあったけれどそれらも含めて楽しめた。…皆もそう思ってくれてたら嬉しいな。勿論参加していない人も含めて楽しませ『ん、皆もう話に興味ないと思う。メインヒロインの名においてここにアビドス砂祭りの開催を宣言する』ちょっとマイク返してぇ!!』
突如乱入してきたメインヒロイン(仮)の掛け声とともにかなりの熱気も伝わって来るような盛り上がりを見せた開会式が終わった。…締まらない辺りが不憫なアヤメらしいというかなんというか…
「幸先不安ですね」
「ま、まあ…無事に開催出来たしいいんじゃないかな?」
「ホシノが納得してるなら…いいのでしょうか」
「そうそう。ほら、時間は有限だし見て回ろう!!」
「そうですね」
初日は二人ともシフトに入っていない為この日に見て回ろう、という事になっていた。ゲヘナから順番に回っていき最後はアビドスでホシノがサプライズを用意してくれているのだという。手を握ると「ぴっ」と小さく鳴くものの今日は根性で耐えようとしてるホシノを撫でつつゲヘナに向かった。
「あらいらっしゃい、ゲヘナへようこそ」
何故か王冠を被って『ミス・プリティーゲヘナ』と書かれたタスキをつけているヒナが出迎えてくれた。色々と突っ込みどころがあるものの一旦見て見ぬふりをした。
「ヒナはここで何をしてるの?」
「出し物の案内をしてるわ。それぞれの込み具合やファストチケット? っていうものの販売も受け付けているわ」
「そうなんだ。今空いてそうなものってある?」
「そうね…今だと給食部の『リオクル5000』の屋台と『爆弾投げ』と…あ、パラシュート無しスカイダイビングもあるわ」
「最後だけ危険度が段違いではありませんか?」
「大丈夫よ。透明な紐をつけてひも無しっぽさを演出してるだけだから」
「そ、そっか…先生、どうする?」
「…まあ、折角なので全部やりましょうか」
「ならファストチケットを渡しておくわね。バンジージャンプ、爆弾投げ、リオクル5000の順番で回ってね」
「ありがとうございます」
ヒナからマダムっぽい何かが移ったチケットを受け取りバンジージャンプの会場へ。…発行してもらった割にはすっからかんとしており誰も居なかった。
「…これ、自分で透明な紐を付けるのでしょうか?」
「そうみたいだね…係の子も近くにいなさそうだし…」
「…一先ず私が飛んでみますね。紐を巻き付けて頂いてもいいですか?」
「う、うん」
ホシノにきつく紐を結んでもらい意を決して高台から飛び立つ。想定よりも地面スレスレまで行きそうな勢い…いや、むしろ地面に衝突する!? …と思いきや視界に移るのは柔らかい真っ赤な丸いクッションと気味の悪い赤いおばさんのグラビアのようなイラスト。物凄い不快感を覚えながら何度もぽよんと赤い山で跳ねた後、頃合いを見てホシノに引き上げられていった。
「お帰り先生、どうだった?」
「別の意味で吐き気を伴う恐ろしいバンジージャンプでした」
「そ、そっか…じゃあ次は私も」
「これは忘れて次に行きましょう」
「うぇ? ま、まあ先生がそう言うなら…」
あんなおぞましいものをホシノにやらせるのはいけないと判断しその場を去って爆弾投げの方へ向かう。道中ヒナから『ごめんなさい、バンジージャンプは明日から開催予定だったわ。今はゲヘナ生しか喜ばない仕様になってるから飛ばないで』と書かれたメールが届いていた事に気づいた。どおりであんな悍ましいものが…
「にゃはは、爆弾投げ開催中ですよ!!」
「普段のストレスも全部ぶっ飛ばせる大きな爆弾もあるよ~☆」
爆弾投げのコーナーに行くとミレニアムとトリニティの制服を着た二人が居た。ミカとコユキだ。
「何故ゲヘナで出し物を?」
「ミカさんがゲヘナとの親善大使なのでこっちで出し物をするって言ってたんです。だから無理言って参加させてもらいました!!」
「ど派手なものがやりたいねーって話をしてたらこうなっちゃった!! あ、でも大丈夫だよ、これはベア先生とどこかのお花屋さんが共同開発したオーガニック爆弾だから安全!! ささ、一発投げてみて!! 二人で遊べるから一緒にやってみてよ!!」
「え、ええ」
爆弾投げの会場を見ると花が咲いていたりこれに向かって投げろ!! みたいなマネキン等様々なものが置かれている。ホシノと交互に投げる事にして導火線に火をつけた爆弾を投げるが思っていたよりも肩が弱くあんまり距離が伸びなかった。
「先生…その見た目で肩そんなに強くないんだね…ギャップ萌え狙ってる?」
「よしてください、気味が悪いです」
「にゃはは…外の世界から来た大人の力が強くないってのは本当だったんですね…」
「…私が鍛えてあげよっか?」
「気持ちだけ受け取っておきます」
その後ホシノの投げを見てみたが狙った所に的確に当ててハイスコアを更新していた。流石というべきだろうか…
「まさかミカさんと同じくらいのスコアを取れる方がいるとは…世界は広いですね。では特典の『マザーポテト引換券』をどうぞ!!」
「…マザーポテトとは?」
「ゲヘナの畑で栽培しているベア先生の寵愛の下育ったじゃがいもとトマトを使ったおやつだよ。一口サイズに切られて揚げられたじゃがいもにトマトの酸味と愛の甘さが混ざった絶妙なケチャップをかけたゲヘナで大流行してるもの。丁度隣の売店で引き換えれるから食べてみてね!!」
「成程。では頂いてみましょう。ありがとうございました」
「お祭、楽しんでくださいねー!!」
コユキ達に手を振って別れた後、マザーポテトを引換券と交換し食してみる。普通のポテトフライとは違い後味が少し違和感のある甘味が残る感じではあるがその感覚が若い子には人気らしい。現にホシノは気に入ったようなので二つ食べてもらう事にした。祭の日にまで栄養素が~云々をいうのも野暮というものだ。
そうやってぶらぶらと歩いていたらいつの間にか『リオクル5000』の屋台近くに来ていた。…腕を組んでキリっとした表情をしているリオと目が合ったが嫌な予感がする為踵を返そうかと迷ってしまう。
「待ちなさい。貴方達がくるのは事前にヒナ委員長との会話を聞いていたから知っているのよ」
「自然と盗聴しないでください」
「…私も近くに居ただけよ。まあいいわ、既に『リオクル5000』は用意してあるからファストチケットを出しなさい」
「…先生にそんな偉そうな口をきくのはどうなのかな?」
「ホシノ、私は気にしないのでその武器を納めなさい。貴女もこれくらいでビビらないでください」
「…別に問題ないわ。とにかくこれが『リオクル5000』よ」
多少震えている彼女から手渡されたのは結構な大きさのケーキだった。断層ごとにスポンジの色、具材が変わっており欲張りセットのような一品になっている。
「部長が念入りに焼き上げたケーキを合理的な判断とさじ加減で一か所に集結させたものよ。一切れだけでも充分な満足感が得られる筈よ」
「…子供が考えたケーキみたい」
「その分夢と浪漫が詰まっているものですね。…頂きましょう」
リオクル5000を口に入れると…脳内でパレードが始まった。最初のひと噛みはホイップクリームの甘みとイチゴの酸味が通り抜け、次にビターとホワイトチョコの苦みと甘みのコンボ、オレンジやキウイ等のフルーツの大渋滞、スポンジの甘みで締める。そんな大渋滞な味わいだった。…ここまで長く語ってしまったが要するに『一口で色々な味が楽しめるケーキ』だった。
「…悪くない、かも…?」
ホシノも満更でもない様子なので腕を組んでいるリオに感謝を伝えながら食してその場を後にした。
「…今更だけど祭でケーキ出すのって結構ぶっ飛んでるよね」
「確かに…まあ今更でしょう。さて、次はどちらに行きますか?」
「折角ならトリニティに行ってみよっか。そこの裂け目に入ればいいんだっけ?」
「はい。約一か月程は各自治区を楽々移動できるように配置しておりますので」
「そっか。相変わら凄い技術だね…」
「色彩の技術を利用しているだけですが…細かい事はいいでしょう」
手を繋いで裂け目に入っていくと遠くに煌びやかな表面上は綺麗な学園、トリニティが見えてき…
「くぅ~www 噴水プールは気持ちが良いですねぇ!! ハルナさんもそう思うでしょう!?」
「そ、そうですわね…はぁ…」
「……」
無言でホシノと見合って踵を返した。遠くから「お待ちなさいですわ!?」と独特な言い回しのスク水を着たナギサが濡れた手で掴んできた。
「マイラヴティーチャーとかつてのライバル!! よくぞトリニティにいらしてくださいました!! 私たちはこの祭りを盛り上げる同志です!! ささ、遠慮せずこちらに!!」
「拒絶します」
「拒否権はありません!! 大丈夫です、襲ったりしませんから!!」
「…先生、どうしてナギサはこうなっちゃったの?」
「知りませんよこんなの…」
頑なに譲らないので致し方なくナギサにトリニティの出し物の話を聞く事にした。よくぞ聞いてくれました!! と言わんばかりに笑顔を輝かせ防水の地図を見せながら教えてくれた。
「ここから歩いて近くにあるのが『芸術的な博物館』、由緒正しき絵画が飾ってあります。その隣にあるのは『セクシーでにゅふふな占いの館』があります。これはセイアさんがどこかの生徒から貸してもらったタロットカードを用いた占いですね。その隣にはトリニティ名物『フランシスサンドバッグ場』があります。逃げ出すことも死ぬことも許されずただひたすらサンドバッグの責務を果たす悪い大人が居ますよ」
「碌な出し物がないのですね」
「校舎内には普通の出し物がたくさんありますが…貴方達には刺激がなさすぎるかと思いまして」
「普通でいいんだけど…」
「まあまあそう言わず。そこの博物館から巡って楽しんでくださいね」
「…はあ、仕方ないですね。行くとしましょうか」
「うん…」
噴水に入りサングラスをつけて恰好つけているナギサに見送られつつ博物館に入った。…中には思っているよりも人が居て皆が芸術品を見て感銘を受けていた。…そこまで美しいものでは
ないが。
「どうしてマエさんが裸にされてるクソコラみたいな銅像があるの?」
「それが芸術という事なのでしょう。…理解できませんが」
一般的に見たら微妙な品もマエストロ好きが見ればお宝なのだろう。やはり芸術を理解できる心得はないのかもしれない。
「…『この先シアタールーム』って書いてあるよ」
「美術館にシアタールーム? …ああ、芸術品の詳細について語っているのかもしれませんね。少々覗いてみましょうか」
マエストロは芸術品の良さについて生徒に説いている可能性もある。真面目に話を聞く生徒がいるかはともかくシアタールームに入ると突然『私はユメを!! 愛しているぞぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!』と大迫力の画面で叫ぶ彼の映像が流れていた。
「……」
「……」
彼の名誉の為にも見なかった事にしてその場を後にし一息ついた。何故こんなにもひどい扱いを彼らは受けるのだろうか?
「世の中には不憫な扱いを受け続ける存在も稀に生まれる。仕方のない事さ」
「うわっ急に野生のセイアが…」
「やあ。あまりにもお客さんが来なくて暇だったから会いに来たよ。話はそこの噴水で遊んでる一応トリニティ代表の一人から聞いてる。さあ、占ってあげようじゃないか」
「いえ結構です」
「家、結婚だって? 参ったね、いくら私が魅力的だとは言え年頃の少女にかける言葉としては不適切だと言わざるを得ないよ…」
「先生、このむっつりフォックスしばいていい?」
「ホシノ、ステイ」
「冗談さ。私は君の先生に特別な感情は何も抱いていない。マエストロ先生も『NTRはこの世の中で最も醜い愚の骨頂のようなものが』と嫌悪していたからね。だからその銃を降ろしてくれないかい?」
ホシノを宥め落ち着かせてから折角なのでとセイアのタロット占いをしてもらう事にした。教室内が占いの館っぽい紫色を基調とした布で構成されていてよくある丸いテーブルに向かい合い座る。
「そうだね…じゃあ、君達の今後について占おうか。先にどっちからにする?」
「…じゃあ私からお願い」
「分かった、小鳥遊ホシノの運命を占おう」
セイアはタロットカードをシャッフルして適当所から一枚抜き出してこちらへ見せてくる。…太陽と月とセイアが描かれたカードだ。
「太陽と月は表裏一体とはよく言ったものの…君は星だ。そう遠くない未来、星よりも一際大きく輝くものが君の前に現れるだろう。太陽のように眩しく、月のように綺麗な存在がね」
「…タロット占いってこういうのだったっけ?」
「絶対違いますね」
「さて、次は黒服先生、君の未来を見てみようか」
先程と同じようにカードをシャッフルして一枚選び表面にして絵柄を見せてくる。…頭を抱える乱れた服装のセイアが映っていた。
「後悔先に立たず。君には近いうちに過去に行って来た事の責任を取らされる運命が待っている。今のうちに覚悟を決めておくといい。…覚悟と言ってもハイレグスク水ニーソの事ではないからね」
「え、ええ…」
「ハイレグスク水ニーソって何…?」
聞きなれない単語に頭を悩ませていると彼女は真面目な表情になり「もう少しだけ話に付き合ってくれるかい?」と言ってきた。
「一か月程前、私はある予知夢を見たんだ。近くでサンドバッグにされている大人を開放して悪事を働く輩のものを。ところがある日、同じ内容の夢を見ていたら物凄いキラキラしてるアビドスの制服を着た生徒が夢の内容を蹴り飛ばしたんだ」
「少々何を言っているのか理解しかねます」
「ふふ、分からないかい? 私も分からない。だけどその子は不思議と暖かい感じがしてね。気づいたら私は夢の中で友人とお茶会をしていたのさ。最もその正夢は日時はずれたけれど実現したんだ」
「その話と私達に関係ってあるの?」
「勿論さ。何故ならその人物が君達の娘的な扱いを受けているアリスだと理解したからね。私は感謝しているんだ、友人を失う感情を味わう事もなく過ごせているという事実にね」
「そうですか…」
「最近は君の話をよくしてるんだ。『見た目はまだ慣れないけど良い人だ』ってね」
「それはどうも…」
「…そういう事だから今後も私の友人を宜しく頼むよ」
「この後も祭を楽しむといい」と言って占いの結果を印刷し渡してくれた後セイアと別れた。…予知夢にしては色々と都合が良いものを見ている気はするが深く踏み込んは来なかったのでそれでいいか、と納得した。
『W!A!P!P!Y! みんなぁ~☆ 楽しんでる~? らぶらぶずっきゅんどっきゅん走り出す想いを伝えるシスターアイドルサクラコだよっ☆』
「あ、ライブもやってるんだね。先生、見ていく?」
「著作権に引っ掛かりそうなのでライブは辞めておきましょう」
「ちょさ…? う、うん」
足早にその場を立ち去りついでにフランシスがいるであろう場所も無視してトリニティを後にした。
「次はミレニアムに行きましょうか」
「さんせー、アリスちゃん達の出し物も気になるし」
いつの間にかシマエナガが一匹頭に乗っているホシノと共にミレニアムへ向かった。到着するや否やマリの生徒からじろじろと見られて不思議に思い困惑する。
「何が起きているのでしょうか?」
「皆先生の魅力に気づいたのかな? なんてね」
「ひそひそ…黒服先生よ…」
「ひそひそ…彼が例のゲームの…?」
「ひそひそ…前にミレニアムの教師代理としてきていたらしいわよ…」
「先生、周辺の子達を一掃するから指示を頂戴」
「ホシノステイ」
嫌な気配を感じたのか臨戦態勢になるホシノを宥めつつ適当に見て回る事にした。
「ミレニアムなのでやはり機械に関わる出し物、展示物が多いですね」
「元々ミレニアムEXPO? だったかな。それを今回の祭に合わせて開催した感じなんだって」
「ふむ、そうなのですね」
超巨大ロボットや幽霊を吸えそうな掃除機、緑色の扇風機…催眠アプリ等怪しいものまで勢揃いしている。その中の一つのブース入口、手を振って客引きをしているケイと目が合いこちらに向けて微笑んできた。
「待っていましたよ、二人共」
「ケイがいるという事は…この中はゲーム開発部の出し物があるのですか?」
「はい。生徒に人気な『先生とのイケナイ恋』の体験版と『アリスウェルの大冒険』の体験版があります」
「恋愛ゲームとアクションゲームでしょうか?」
「仰る通りです。過去に父をモデルとして作っていたデータを元に完成させたものと数か月前から取り掛かっていた勇者アリスを操作して発想力次第でなんでも出来るゲームです。…列を見て頂ければ分かる通り恋愛ゲームが異常な程人気でして…」
「年頃の少女達はやはり恋愛に飢えているのでしょうか?」
「良ければ遊んでみますか? お二人用にいつでも遊べるよう奥に用意しておりますので」
「そうですね」
「恋愛ゲームかぁ…本物に勝るものがあるのか確かめてもらおうかな」
「ではこちらへどうぞ」
ケイに案内されて勇者のコスプレをして接客を行っているアリス達と軽く挨拶をかわしつつ奥の筐体に向き合う。ホシノの方はVRゴーグルを装着されて360°楽しめる設計のようだ。
こちらのゲームは特にVRゴーグルとかの必要もなく電源を入れたら『ぱんぱかゲームズ!!』とギリ訴えられてもおかしくない音声と共にタイトル画面が表示された。スタートボタンを押してゲームを開始すると画面に『貴方には3回の創造する権利が与えられています。それらを駆使して勇者アリスと共に魔王を打倒してください』と表示され、こちらを見て笑うアリスの姿が表示される。
「これは体験版なので3回までしか創造出来ませんが製品版では無制限にする予定です」
「創造、というのは文字を入力すれば反映されるのですか?」
「はい。今回は試しに『武器』を入力してください。父が思い浮かべる最強の武器を」
「ふむ…」
試しに『覚醒したホシノ』と入力してみると顔を真っ赤にしてぴえぴえ言っているホシノが画面に出てきた。『この武器と冒険に出かけよう!!』と表示され捜査してみると道中の敵、ボス、ラスボスさえもグルグルパンチで蹴散らしRTAを更新できる続度でクリアしてしまった。
「……」
「予想してはいましたが…母は強し、ですね。製品版では対策しておかないと…」
「これでクリア、なのですか?」
「はい、体験版はここまでです。ちゃんとやりごたえがあるようにしないといけませんね…」
「ゲームとしては面白い、という感情は抱きませんでしたが技術力に関しては素晴らしいものがありますね。想像力次第ではどんな武器、道具とかも出せるのでしょう?」
「私とアリスに使われている技術を組み込んだので現時点までキヴォトスに存在していたものは再現出来ます」
「…貴方達は凄いですね」
そう話している一方でホシノの腰が抜けて悶えている姿が視界に映った。彼女の心をここまで揺らせるとはこちらのゲームも良い出来なのだろう。
「あれは『黒服先生密着モード』です。耳元でその生徒に刺さる言葉をひたすら囁き続ける恐ろしいモードです。シャーレの先生が好きすぎて暴走したユウカすらも父堕ちしかけました」
「もはや一種のテロ兵器なのでは? そして先程ミレニアムの生徒から謎の視線を感じましたがこれが原因ですか…」
「うへっ…うへ…しぇんしぇ…」
「完全に出来上がってしまってますね…」
「いつもの光景です。…では試遊会に参加して頂いたお二人の為にこちらの手紙を差し上げます。頃合いを見て音声がなるのでその時に読んでください」
「? 分かりました」
ふにゃふにゃになっているホシノをおんぶしてゲーム開発部コーナーから離れた。途中倒れていたり痙攣している生徒がいるのはそういう事だったのか…と理解した。
粗方見終えたのでふにゃふにゃしたままのホシノを連れて次の学園に向かおうとした矢先、見知らぬ裂け目が増えている事に気づいた。念の為危険性がないか確認を行う為入っていくと遠くに見えるのは雪の景色。…嫌な予感がして引き返そうとしたが遠くから「おい、客人が逃げるぞ!!」や「粘液プリンを投げて足止めしろ!!」といった不穏な声が聞こえてくる中いつの間にか入口に待機していたデカルコマニーに捕まった。
「…貴方達も祭に参加していたのですね」
「そういうこった!!」
久しぶりに会ったからか声の調子がよくなっているデカルコマニーに捕まってレッドウィンターに拉致をされた…しかし到着した途端待ち構えていたのは色とりどりのプリンが並んだお洒落な雰囲気のバイキング会場だった。
「同志デカルコマニーの友人、如何でしょうか!! 我々レッドウィンターは祭に参加する出し物としてプリンバイキングこと『PB』を用意しました!!」
「そういうこった!!」
「ミルク、チョコ、カスタードやキャラメル等の定番からフルーツ果汁を100%使用したもの、甘いのに辛い、辛いのに甘いといった不思議フレーバーをレッドウィンター生の人数分用意しております!!」
「…レッドウィンターの生徒数は?」
「沢山です!!」
「そういうこった!!」
…デカルコマニーは何故こうなってしまったのか? まさかプリンが崇高になったなんてふざけた事を言うつもりなのだろうか? ウェルカムプリンとカラメルで書かれた謎のプリンを受け取りつつ甘い香りで起き上がったホシノと色々なプリンを見て回る事にした。
「『かき氷風プリン…シロップを混ぜたものと生クリームでかき氷を再現してるのもあるんだ…」
「血糖値跳ね上がりそうな組み合わせですね。こちらは…おっぱ…いえ、なんでもないです」
「先生、なんでよりにもよってそれを読み上げちゃうのかな…あっこの「ユメパイプリン」美味しそう」
「マエストロに喧嘩を売るとはいい度胸ですねレッドウィンター」
「いくら同志デカルコマニーと言えど数十万にも及ぶレパートリーを考えるのは困難でして…話題の生徒さんを再現したものをレッドウィンターの独断で作りました!!」
「そういうこった!!」
「ええ、さすがの無法地帯ですね」
「ちなみに『ユメパイプリン』はメロン味です」
「そうですか」
「あっこっちに『シナシナヒナリン』ってプリンもある…お日様の香り味って何…?」
「こちらはホシノモデルのプリンでしょうか? 『うへうへブロッサム』さくら味…違います、ホシノは酸味の強いイチゴ味が似あいます」
「先生!?」
「もっと言えば酸味の中にも定期的に甘みが押し寄せてくるような秘めた甘味度も不足しております。これではホシノモチーフとは言えないです」
「せ、先生余計な事言わなくていいから!!」
「…同志、今私の口内に存在しない筈の砂糖が広がっていってる感覚があります!! これが愛の味、なのでしょうか?」
「どういうこった?」
困惑しているデカルコマニーを他所にホシノらしさを再現した見た目、味のプリンを作れるレシピを手渡してから『ユメパイプリン』を食べているホシノを連れてこの場を後にした。
「…それ、気に入ったのですか?」
「うん。おいひいよ」
「飲み込んでから喋りましょうね」
プリンの弾力を味わっているホシノを連れて次の自治区へ。…もはや見慣れた光景である百鬼夜行に到着した。
「なんらははいひのこひょうってはんひがふるえー」
「ホシノ、一度あちらのベンチに座って食べ終えてから聞きますよ」
「ふぁい」
ユメパイプリンは普通のプリンの数倍の大きさはある。具体的に言うならマエストロが喜びそうな大きさだ。間違いなく糖分の取りすぎになるだろう。ケーキも食べてしまった事なので明日から糖分少なめのメニューも考えなければ…
「…ご馳走様。結構おなか一杯になったよ」
「それは良かった。…で先程言っていた言葉は何ですか?」
「なんか第二の故郷って感じがするねって言ったつもりだったんだけど…プリンがありえないくらい弾力あって…」
「仕方ないのかもしれませんね…ですが良いのですか? 百鬼夜行は主に食事系の出し物が多い場所ですよ」
「それは大丈夫。まだ0.4柴関くらいしかお腹膨れてないから」
「そ、そうですか…」
その小さな体の何処に入っているのかという考えを他所に賑わっている街並みを見る。…皆楽しそうだ。
「これでアビドスだけ閑古鳥が鳴いてたらいやだなぁ…」
「いえ、それはありません。むしろ一番人が集まっていて人手が足りていないのはアビドスです」
「えっそうなの!? って思ったけどそっか…先生喫茶やばいもんね…」
「ええ。先程ノノミから連絡が来ましたが『開始宣言直後に満席になって忙しいです~☆』って連絡が来ていましたのでね」
「皆先生が好きなんだなぁ…ん?」
「どうしました?」
「…あそこ。なんだか初々しいカップルがいるなって」
「?」
ホシノが見ている方向には綺麗な桃色の輪装束に身を包んだ狐の少女と同じく和装束を着た男が屋台の食べ物を買って手を繋ぎながら食べている狐生徒の表情が幸せの絶頂という感じになっており男の方は「"この子ピュアすぎて手を出せない"」と困っているような表情をしていた。
「ああいう時期、私達にもあったなぁって…」
「熟練夫婦みたいな事を…というより先生、無事に飼われているようで…」
一瞬目が合ったが他の子に手を出してぐちゃぐちゃにされている時よりも充実していそうだったので今回は見て見ぬふりをしておいた。…そうやって暫く人々を眺めていると遠くから『スタイリッシュねぎまイーター』と変なタスキをつけたナグサが巡回をしていた。こちらを見ると近寄ってきて「お疲れ様」と隣に座ってくる。
「百鬼夜行に来るの遅かったね。他の学園で遊んでたの?」
「はい。色々と言いたいことはありますが楽しめております」
「そう。…だけどね、祭の楽しさは百鬼夜行が一番だから期待しててね。はいこれ、『うぇるかむねぎま』」
「ありがとうございます。…やはり絶妙な味わいですね。炭火の焼き鳥はこう、つまみとしては高水準です」
「…キンキンに冷えたビール、売ってるよ?」
「うっ…」
「ほっかほかの焼き鳥をよく冷えたビールで流し込む…私は飲んだことがないから分からないけどおいしいんじゃないかな? 今ならお安くしておくよ?」
「…一本だけお願いします」
「はい、黒服先生ビールお買い上げー」
「せ、先生…」
「…申し訳ありません、つい気が緩んでしまって…」
「はい、ねぎまとビールのセット。ホシノさんは未成年だから『シロ・コーラ』にしておくね」
「なにそれ…あっ結構美味しい」
「この一か月間で私とシロコさんが試行錯誤を重ねて作ったクラフトコーラだよ。あ、『ナグサイダー』の試作品も渡すからよければ飲んでみてね」
そう言って自身の顔が印刷された紙コップを渡し焼き鳥の香りに釣られるままナグサは去っていった。相変わらず自由気質な彼女に困惑しつつ焼き鳥とビールを嗜む事にした。ホシノが定期的にこちらを向いてビールを興味深そうに見ていたが未成年に酒は飲ませられない為大人しくジュースを飲んでもらった。
「そういえば…屋台が出し物として大量に並ぶ、というのは聞いていたのですが他の出し物はどのようなものがあるのですか?」
「んーとね…一定時間ごとにユカリちゃん船頭の『神楽舞のおんまいうぇいですの!!』と『アルティメット神輿ドリフト』とか『花火の気分を味わおう!! 安心安全大砲!!』とか『疲れた身体にオキシトシンハグ、休憩茶屋』…面白そうなものだと『手裏剣投げ』や『壁走り体験』もあるね」
「相当種類が多いですね」
「これでも少なくした方なんだよ? これの何十倍にも食べ物の屋台が多いから食材の品質管理で人手が足りなくなっちゃって」
「それは大切ですね。…ではそろそろ周りの屋台を見つつその出し物を見に行…」
「先生?」
「…あれは一体?」
「あれって? ああ、あれは…えっ何あれ」
視線の先からはまた見知った顔の生徒が恥ずかしそうに歩いてくる。顔はどう見てもアヤメ…なのだが着ている服がおかしい。普段の百花繚乱の羽織とは違うマントを付けており金色の装飾が付いたゲームキャラのような服に合わせて黒タイツとブーツを履いている。…上手く言えないが星ソラ、と言える衣装だ。
「あれ、コスプレかな…でも何かこう、正式な服というか似合ってるね」
「そうですね。あれもアヤメにとっては正装と言えるのでは?」
「そんなわけないじゃん!? 二人共目が腐ってるの!? 透き通ってよ!」
いつの間にか顔を真っ赤にしたアヤメが至近距離まで来ておりぷりぷりと怒っている。…そこまで迫力はない。
「先程開会式で写っていたのは普段の制服姿でしたが…何故そのような装いを?」
「『アヤメ汁』とか呟いている変な人に着せられたの!! 好き好んでこんな格好しないって!!」
「ですが似合っておりますよ」
「…黒先から見て可愛い?」
「ええ」
「…ならいっか」
「…なんかアヤメちゃん、不憫な扱いに適応してきてない?」
「黒先が可愛いって言ってくれるならいいかなって…目の前で服が破けるとかは困るけどちゃんと服としては昨日してるし…ちょっとスカートが普段より短いのが落ち着かないけど」
「…ところでアヤメ汁というのは何かの料理なのですか?」
「…黒先にだけは特別に飲ませてあげって冗談だよホシノさんいつものジョークだって。そうだ、見回りの途中だったからまたね、祭楽しんで!!」
…結局いつもの流れに落ち着いた。忠犬ホシノの前で彼に欲情すると純度100%の殺意をぶつけられる。いつまで経っても変わらない独占欲を見せているホシノの頭をそっと撫でた。…よく見たらまたシマエナガが一匹隠れていた。懐いたのだろうか?
「ではそろそろ屋台巡りに行きますか?」
「…日が落ちてきたしアビドスに戻ろう」
「おや、もうそんな時間でしたか。ですが屋台を巡らなくていいのですか?」
「大丈夫、この祭一か月以上続くからまた頃合いを見てくればいいかなって。今は戻りたい、かも」
「…もしや先程言っていたサプライズに関わるもの、ですか?」
「うん。それにちょっと疲れてきたから一旦休みたいなぁって…」
「分かりました。ではアビドスに行きましょう」
食事を終えたホシノに手を引かれるまま裂け目を通って我らがアビドスへ。
砂漠の中心、秘密裏に用意された相当大規模のオアシスを用意してそれらを囲むように売店、出し物を並ばせている…筈だった。
「…この異常なまでの長蛇な列はまさか…」
「うん。皆『先生喫茶』のお客さんだよ」
「…今何時間待ちになってますか?」
「60時間、だね…」
「…整理券を配った方が良いのでは?」
「あれ明日以降の整理券町の列…」
「えぇ…」
「何ならあそこの一番人が並んでる列、あれは先生に接客されたい子達の列だよ」
「他の列の数倍あるのですが?」
「アリスちゃん達が開発したゲームの影響を受けて先生の魅力に気付いちゃったみたいで…」
「ああ…」
試しに近寄っていき最前線に居る生徒と握手してみると黄色い悲鳴を上げて大盛り上がりをされた。…正直困惑している。
「これは本当にアビドスの為になるのでしょうか?」
「多分…?」
一先ず列から離れて店に近寄っていき喫茶店の中を確認する。今はマエストロと男装したマダムの二人が接客をしているようだ。それぞれ至近距離で接客をし生徒との憩いの場を提供…
「これキャバクラでは?」
「うん」
「うんって…」
「誰だって頼りになる大人に甘えたくなる時はあるんだよ」
「そういうものですか…ところでノノミ達の姿が見当たりませんね」
「今は裏でひたすら調理をしてるね」
「では挨拶をしに行って…」
「先生。…ここからは二人きりになりたいな」
「ホシノ…ええ、分かりました」
ホシノに導かれるまま歩き、少しオアシスから離れた場所に腰を下ろし手を繋ぎながら唐突に打ちあがった花火を見上げる。
「花火ですか…アビドスにも持ってきていたのですね」
「皆張り切っちゃってねぇ…特に先輩が」
「ああ…そうでしたね」
「…無事に開催できたからよかったよ。まだアビドスの砂漠化とか根本的な問題は残ってるけどさ…これも思い出に残る、よね?」
「ええ。色褪せない記録になるでしょう」
「うへへ…嬉しいな。…もう数えきれないくら大切な思い出が増えたのにもっともっと生きるのが楽しくなってくるよ」
「ええ。ホシノにはまだ見ぬ世界が待っています。今以上に楽しい思い出も生まれるでしょう」
「うん。…これからも家族5人で幸せになろうね♡」
「はい」
「…はい?」
「どうしたの先生?」
「…いえ、私の聞き間違いでしょう。お気になさら『ケーイケイケイケイ!! コノテガミヲアケテクダサイ!!』何ですかもう…」
先程ケイに渡された手紙から音声が流れている。封を開けようとしたがホシノの手に制されて「先に、私の話を聞いて欲しいな」と潤んだ瞳で見つめてくる。
「あのね、サプライズっていうのは…」
「……まさか」
「今…一か月目なの♡」
思考が、止まった。言ってる意味を理解するのに時間が掛かったものの動揺を誤魔化す為に手紙を取り出して読んだ。
『父へ 随分と前にアリスが妹欲しいです!! と言っていたのを突然思いだしたので王女の権限を使って一人産むまで受精率100%にしておきました。まさか初日にするとは思いませんでしたがおめでとうございます』
「……クックック…成程、セイアが言っていたのはこの事でしたか…はぁ…」
一息ついてホシノを抱き寄せ唇を重ねてから空に向かって独り言を呟いた。
「…こんなゲマトリアは嫌ですね」
「えーでもそんな先生が大好きだよ」
「…ええ。私も愛しています」
いまでも、いつまでも。貴女を愛しています。
例えばこんなゲマトリア 完
今まで読んでいただきありがとうございました。
かれこれ500話(消したものも含めたらもっといってる)まで来てしまいました。一日一話だとして約一年半くらい…正気かな?もっと長く続けてもよかったのですが個人的に面白い話を書けていないと判断して堕落したまま続けるよりもキリ良く終わらせようと思いました。2年前ならまだしも今はブルアカのSSは大量にありますのでいいかな、とも。ただ母数が少ない頃に投稿したおかげで読まれていたにすぎないでしょう。
ここまでくると『終わらせるのが勿体ない』と考えてここ数ヶ月は書いていました。ただ私自身アビドス3章のストーリーを見てからブルアカに対する熱が冷めてきてしまい書くモチベーションも緩やかに低下していきました。元々共犯者とのやり取りで勃発して書いたものがここまで続くとも思いませんでしたが…
あ、あと無いとは思いますが回収しきれていない伏線や「これ何だったの?」と疑問に思うことがあれば感想欄に書いていただければ答えさせて頂きます。このキャラの今後はどうなの? みたいなものもあれば投げて頂けると短い文章で書いたりはしますので…本当はそれを内容に落とし込んで表現するべきなのでしょうが私の実力がそれに至らず…
最後に。この物語を読んで500話中の1話でも心に残ったものがあったらとても嬉しいです。本当にありがとうございました。