まどろみ
私は時々不思議な夢をみる。その度に「ああ、またか……」と頭を悩ませる。
それは深淵に触れる為に禁忌の扉を叩くような行為である。即ち自分が望んで居なくても対価を支払わないといけない。金銭?そんなものそれにとっては価値のないものだ。それにとって価値のある対価とは寿命、あるいは精神。私に悪夢のようなものを見せて疲弊している姿を見て愉悦に浸っているのかもしれない。
しかし今回まどろみの中で見た光景はいつもの他愛のない日常のようだった。友が居て、先生が居て、会話を弾ませながら紅茶を嗜む、そんな光景。思わず鼻で笑ってしまうほど平和な夢だ。少なくとも今この時はそう思っていた。だかこれは序章に過ぎないのだ。俗に言う『嵐の前の静かさ』といったところだろう。
そう考えたとしても夢の中では何も起こらない。大災害が起きて大きな被害が出たりなど非現実な事は起こらず平凡な時間だけが過ぎていく。
……退屈だ。そう感じてしまうほどに。そう思ってしまう事自体がそれに仕組まれた罠だと気づいた時にはもう遅かった。
ありきたりな平和な時間から突如暗転して悲鳴と阿鼻叫喚が響き渡る空間へと変貌する。焦げた肉の匂いが鼻腔に届き周辺を見渡すと足元にある人間何かから発せられているものだと理解するのにそう時間は掛からなかった。
「この悪夢を見せて満足したかい?」
その問いに答えるかのように悲鳴が聞こえなくなり、辺りは静かになった。
「……まだ見せたいものがあるのかい?」
意識が更に朦朧とする中廃校に1人の淑女が何かをしている光景が視界に広がる。……この大人からはとても嫌な気配を感じる。
「……また鼠が入り込んだようですね」
「……!?」
夢の中だと言うのに淑女はこちらを認識しているかのように睨みつけている。
そのまま至近距離まで詰めてきたそれは人間とは思えない程の憎悪に身を包んでいるような存在だった。悪夢の化身と言われても納得がいってしまう程の威圧感に思わず恐怖心を抱いてしまう。
「去レ」
その一言を聞いてはっ、と目が覚めた。嫌な汗が噴き出して止まらない。間違いなくただの夢ではない。近いうちにトリニティ……いや、キヴォトス全体を巻き込んだ大災害が起きるかもしれない。
だが夢の話を間に受ける人間等はそうそういない。仮に誰かに夢で見たと伝えたところでホラ吹き少女の童話のように信じてもらえず泣き寝入りするだけなのは目に見えている。
それでもあの殺意と憎しみを纏いし淑女の姿が脳裏に焼き付いてしまった以上空想や夢と切り捨てる訳にもいかない。
「信用出来る人……彼にだけ話すとしよう」
予言を見た1人の狐は行動を始める。それがどのような結末をもたらすのか。物語はまだ始まったばかり。